初陣
まだ夜が明け手間もない頃。
蝶明城より1万5千もの軍勢が出陣した。
それを率いるのは雷火、鳳金、竜土の三名だ。
そして、総大将である蝶姫。
この戦争が蝶姫にとっての初陣となる。
雷火の馬に一緒に乗るのではなく、自身で白馬に跨っていた。
そして、身に付けているのは銀色に輝いた甲冑。
しかし、動きやすさを重視した為、軽い素材で出来ており
女性専用に作られている。
雷火も最初その鎧を見た時に危ないとは思ったが、彼女を
前線に出すことは無いし、竜土が守っている為、その不安は
拭い去った。
緊張した面持ちで進む蝶姫。
周りが見てもその緊張は目に見えている。
そんな不安だらけの蝶姫に雷火は語りかけた。
「今からでも戻っていいんだぞ。 無理して戦場に行く必要は無い。怖ければ逃げればいい。 お前は兵士では無いのだから」
「それならどうして雷火は逃げないの? 怖くないの?」
「俺は今まで何十、いや、何百近くもの戦場に出てきた。
そして、戦場に出るのはもちろん怖い。
今日は生きて帰れたけど明日はわからない。
それが戦場だ。 だけどな、お前も言ったように俺にも守るものがある。 自分が命を賭して守るものがある。
それを守る為なら俺は何度でも戦場に出るだろう」
雷火の言葉は蝶姫に重くのしかかる。
自分の命よりも大切なもの。
(そっか。 雷火の場合はなんだろう? 国かな。 それともお父様かな? でも、お父様はもう死んじゃったから、やっぱり国かな?)
そんなことを思っていると、その様子を見て雷火は微笑んだ。
(こいつは本当に鈍感な女だな。 俺が命を懸けて守るべきものは蝶姫、お前だ)
そう思うも、鈍感な蝶姫には届いていなかった。
そして、雷火も別にそれで構わなかった。
「私も雷火と同じだよ! 私はこの国を守りたい! 皆が戦争をしなくていいように終わらせたい! だから、私も怖いけど頑張るよ!」
蝶姫の言葉に頷くと、前の方から淋木の配下である斥候隊が
やってくる。
「報告! この先の古城に約5千と思われる敵影あり!
無魂副将が偵察しております!」
戦場において、斥候隊の役目は重要だ。
万が一待ち伏せや罠なんかがあれば、兵はもちろん士気も下がってしまう。
その為、蝶華城へ攻めている淋木から副将である無魂と半数の兵士を借りている。
「そうですか。 では無魂にはそのまま敵に目を光らせておくようお願いします。 さて、古城ですが竜土の話によると門はおろか、防衛施設も機能してないと聞きます。
ならば、雷火将軍の攻撃で数刻もあれば落とせましょう。
お願いできますか?」
鳳金の作戦というよりも、雷火の力技でいくことになった。
現に雷火も以前、古城を目にしたが、とても城と呼べるものではないことを把握している。
竜土だったから守れただけであって、他の者では絶対にあの城を守りきる事は不可能だ。
「あぁ、任せろ。 攻城戦とはいえ、城は無いに等しい。
俺の兵5千でいく。 朱抗、出撃の準備をしろ」
「ははっ!!! 呂凱! 迅雷隊でるぞ!」
雷火の副将である朱抗に、雷火率いる精鋭隊である迅雷隊隊長である呂凱。
彼等の動きは洗練されており、あっという間に陣組を終えた。
そんな中、先頭に立つ雷火の元へ蝶姫が近付く。
「雷火、、、死なないのはもちろんだけど、怪我しないでね。 いつもありがとう」
今にも泣くんじゃないかと言うほどに、目をうるうるさせて
話す蝶姫。
そんな姿に思わず微笑む。
「ふっ、お前が涙を流してどうする。 俺は死なないし怪我もしない。 また後で会うぞ蝶姫---行くぞ朱抗」
蝶姫の目を見て話し終えると、前を向き一気に古城を目指す。
「はっ! 迅雷隊出陣だァッ!!!!!」
「おおおぉぉぉッ!!!!!」
雷火率いる5千もの騎馬隊はあっという間にこの場を後にし
古城へと行ってしまった。
そんな勇姿を後ろからずっと見詰め、皆の無事を祈る。
「大丈夫ですよ。 確かに戦に絶対はありません。 ですが
その戦を絶対の勝利に導くのが私の役目です。 そして、絶対に守りきるのが竜土の役目。 更には絶対に打ち勝つのが雷火の力。 つまり、絶対に大丈夫なんですよ。 我々なら」
確かに、五行将軍ならばやれるのかもしれない。
そう思わせるほどの何かが彼等にはある。
力だけでは無い。
他の何かがあるのだ。
鳳金の言葉で蝶姫の不安は再び晴れて、笑顔となり雷火達の後続としてゆっくり進むのであった。
「久しぶりに雷火の攻めも見たいし行こう。 雷火が迅雷隊を率いる時、僕でも守れるか分からないからね。 今の内に観察しておかないと早く終わっちゃうよ」
まるで、雷火が勝つ事を疑わない発言。
彼等はあまり互いに干渉はしないが、認めあってはいる。
だから、竜土も雷火が勝つ事を疑わないのだろう。
そして、蝶姫は雷火の言葉にふと気になることがあった。
「ねぇ、竜土って今までに守りきれなかったことってあるの?」
その言葉に何やらビクッとするのは副将である庄亀。
そして、鋭い目付きへと変わった鳳金。
何やら、重い空気がながれるも蝶姫には分からなかった。
不穏な空気が流れる中、皆が皆竜土の動きを観察するのであった。
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