姉弟の時間
朝日が昇り隣を見ると愛しの弟が眠っている。
こうして目の前にいるのにまだ生きていた事を信じられない。
何せ、完全に殺されたものだと思っていたから。
だが、獅徳の頬に触れ、改めて実感する。
彼は生きているのだと。
微笑む蝶姫。
窓から朝日を眺める。
こんなに気持ちのいい朝は久しぶりだ。
空気も何故かとてもおいしかった。
すると、暫くして獅徳も目を覚ます。
「あっ、姉上! もう起きていたんですね!
姉上がこんなに早く起きるなんてどうしたんですか?」
蝶姫の顔は引き攣っていた。
確かに昔はいつまで経っても眠っていた。
だが、全てを失い、力を手に入れる為訓練をする様になってからは早寝早起きが習慣づいたのだ。
その事を自慢気に教えてあげると獅徳は信じられないといった様子でただただ唖然としていた。
「あ、姉上が規則正しく生活しているなんて、、、今度
僕と手合わせしませんか姉上!」
突然の申し出に、不敵な笑みを浮かべる蝶姫。
「ははーん! 強くなったこのお姉様に勝とうとでも思っているのね? いいよ! お姉様の力を見せてあげるんだから!」
笑顔で拳をかざす。
そして、そんな元気な姉の姿を見て、また楽しく会話ができることに対して、獅徳はとても喜んでいた。
姉弟水入らずで談笑をしていると、朝食の時間となり、二人で食事場へと向かう。
既に、雷火と緋水、竜土が席に座っていた。
「おっ、起きたな二人とも! 姉弟の仲は深まったか?」
「早く座らないと僕が全部食べちゃうよ?」
「お陰様で緋水! 何言ってるのよ竜土! まだ料理はないじゃない」
そんな他愛も無い会話をしながら料理が来ると皆がありつく。
その間も今まで何をしていたか等、話していた。
「ところで、どうして蝶姫の元へ直ぐに来なかったんだよ。 竜土の力があれば獅徳を連れてくるのもわけなかっただろ?」
緋水がそう話す。
今や蝶国は二つに分かれている。
兄であり反逆者の狼徳派と、その妹である蝶姫派。
この国にいればイヤでもこの国の情勢は耳に入るはず。
それならば、直ぐに蝶姫の元へ来ればよかったのだ。
そして、竜土にはその力があるのだから。
「確かにそうだよね。 なんで行かなかったんだろう緋水?」
「いや、俺が聞いてんだよ!」
「あっ、そうか。 んっとね、多分行けなかったんだよ。
僕の兵力は500人。 そして、手元には獅徳王子がいる。
万が一、敵に王子の存在が知られれば、敵が大軍で来るかもしれない。 そうなると、さすがの僕でもキツいからさ。
なら、古城でそっちから来るのを待った方が安全なんだよね。 城があれば僕は負けないからさ」
竜土の言葉に皆が納得した。
確かにもっと早く来てくれればよかったのにと、蝶姫も内心思っていた。
だが、そんなの現場を見ていないから言えるのだ。
自分達が戦争を何度もしていたように、竜土達もずっと戦っていたのだから。
そして、弟を守ってくれていたのだ。
「本当に竜土が獅徳の傍にいてくれて良かったよ!
ありがとう竜土!」
「全然気にしないでよ。 僕は国王に拾われた命なんだからさ。 それよりもこれからどうするの雷火」
「ここに長居する必要は無い。全員で蝶支城へ戻るぞ」
皆も同意見のようで頷く。
だが、蝶姫だけは気難しい顔をしていた。
「どうしたんですか姉上?」
「この城は取られてもいいの? 何度も竜土が守った城でしょ? お兄様の軍に取られたら厄介な事にならないかな?」
ここを空ければ当然敵は入ってくるだろう。
だが、そんな事別に構わなかった。
「お前もこの城を見ただろう? 門は腐りかけてるし城壁はぼろぼろ。 こんな城、竜土じゃなかったら一瞬で落とされてんだよ。 そして、竜土が守ったのは城では無い。 獅徳だ。
それに、この城に敵が入ればそれこそ俺達の思う壷だ」
「うん。 僕は構わないよ。 そして、恐らく敵はこの城が守りに長けていると勘違いして乗っ取るだろうね」
「あぁ、この城が強いんじゃなくて竜土の守りが強いとも知らずにな! そしたら、また一気に攻めて敵の数も減らせるってもんだぜ!」
三人の話を聞いて納得する。
確かにその通りであった。
考えればわかる事だということに気付き、蝶姫は何だか恥ずかしくなっていた。
「ふふっ、姉上大丈夫ですよ! サボってた分、これから頑張りましょう!」
まだ10歳にも満たない弟にも慰められて蝶姫は余計に恥ずかしくなってしまった。
朝食を食べ終わると直ぐに行動を移した。
全員で蝶支城へと向かう。
「なぁ、竜土! お前の兵力少なすぎねーか? 500人くらいしかいねーじゃねーか」
最初は数千と聞いていたが、実際に居たのは500人だ。
あとの半分は案山子だったのだから。
とはいえ、彼にも個人の兵達が居るはず。
なのに500人というのはあまりにも少なすぎる。
だから、緋水は気になり問い掛けた。
「確かに僕の兵力少なすぎない? あっ、、、そういえばだいぶ前に迎えに行かせてたんだった。 ほらあそこ」
竜土が指差す方に皆が目を向けると、南森の方より兵達がぞろぞろと出てきた。
その数凡5千。
綺麗に整列しており、隙間がない。
余程の訓練を行わないとここまで綺麗な行軍は出来ないだろう。
「竜土将軍! 約束通り、参りました! 途中、狼徳軍に出会うも交戦なく無事に皆と来ることが出来ました!」
その人は竜土の兵を率いてきた隊長である。
そして、その顔をみて蝶姫は涙を浮か口を覆う。
「う、うそ、、、瞬冷?」
目の前に現れたのは、またしても死んだと思われた人物の姿が。
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