見えない過去
「雷火将軍、緋水将軍! お久しぶりです! そして、姉上を守って頂きありがとうございます!」
齢十歳ながらにとても礼儀正しい子供である。
蝶姫は十六歳だが、獅徳の方が礼儀作法は長けているかもしれない。
そう二人は思った。
「お久しぶりですって、あの時確か獅徳は二歳くらいだったはず。 覚えてはいないだろう?」
「確かにな! 俺達が国王の元を離れたのは八年前。
つまり、お前はまだ赤ん坊だ!」
二人の言う通り、獅徳は五行将軍達のことを覚えてはいない。
だが、大きくなってから色々話は聞いていたのだ。
たくさん獅徳の面倒を見てくれたり可愛がってくれたと。
そして、獅徳が生まれた時にも皆がこぞって祝いの言葉を
言ってくれたと。
「父上や姉上から聞きました! 確かに記憶はありませんが
言葉として僕の思い出になっているのです」
達観したその性格には驚かされる。
自分たちが十歳の頃は、礼儀作法なんかほとんど習っていなかったから。
いや、まともに受けていなかったのだ。
「それよりも、獅徳はどうやってあの場を逃げきれたの?
私はてっきり・・・・・・」
不安そうな顔で見つめる蝶姫。
「あの時、僕は眠っていました。 そして、兄上が部屋へ入ってきたのです」
その言葉に三人は驚く。
今回の反乱の首謀者であり、蝶姫と獅徳の兄。
獅徳は続けて、
「ですが、私は殺されること無く逃がされたのです。
あの時、兄上は自分は殺せない。 精々生き延びよ。
そう言っていました。
その後僕は行く宛てもなく、ただただ走って、、、
そこで出会ったのが竜土将軍でした。
何故あんな森に居たのか不思議だったのですが、どうやら
勘でこの辺が危ないと思いやって来たそうです。
驚きますよね!
ですが、そのおかげで僕は助かったのです」
獅徳にことの事情を聞き、納得する。
「こいつ、普段は何も考えてないけど昔から勘は鋭いんだよな!
むしろ、普段何も考えてないからそういう時は鋭くなるもんなのかねー?」
皆が緋水は何を言っているんだ?と疑問を浮かべるが思いたる節があった。
彼は守りの天才。
敵が攻めてくるところを要所要所で絶対に防ぎ切る。
それは即ち勘なのかもしれない。
雷火や緋水、淋木が竜土と戦っても負けることは絶対にないが
勝つこともまた難しいだろう。
何せ、彼は戦場に出て一度しか傷を負ったことが無いのだから。
そんな過去の話を皆で楽しんでいると、庄亀が何やら苦い顔をしていた。
それに気付いたのは雷火のみ。
ほかの皆は続けて世間話やら何やらを語り楽しんでいる。
「庄亀、厠はどこだ? 案内してくれ」
雷火の突然の言葉に驚くも、素直に案内を始める。
その間もほかの皆は談笑している。
二人は黙って廊下を歩き続ける。
庄亀はただ案内しているだけだと思っているが、雷火は違う。
先程見せた苦悶の表情を見逃さなかったのだ。
「なぁ、庄亀。 さっき、竜土が一度だけ怪我をした戦いの話をしたよな? その時にお前は何やら暗い表情へと変わっていた。
その戦場で何かあったのか?」
その質問は唐突に行われた。
不意をつかれたかのように庄亀はビクッと肩を震わせる。
そして、それを見て雷火も確信した。
やはり、何かあると。
庄亀は急に立ち止まると、暫く沈黙した後に口を開いた。
「・・・・・・雷火将軍は知っていますか? 竜土将軍の中にはもう一人の竜土将軍がいることを、、、」
その言葉に眉をひそめる。
なんの事かサッパリわからなかった。
竜土の中にもう一人の竜土。
一体全体、なんの事だかわからない。
「どういうことだ? 俺にはお前の言っている意味がわからない」
すると、庄亀は振り返り重い口を開いた。
「竜土将軍は--------なんです」
庄亀の言葉を聞き開いた口が塞がらない。
そんな事実は、雷火はもちろん誰一人知らない。
そして、もし本当にそうなら竜土を仲間にするのは爆弾を抱えるようなものかもしれないのだ。
雷火は過去の一つの出来事を思い出した。
そして、庄亀が話した事とも『ソレ』は繋がる。
「なるほどな。 だが、竜土やお前達の守りの力は
絶対にこれから必要となる。 この事は俺とお前だけの秘密だ。
そして、誰にも言うな。 お前は引き続き竜土の傍にいろ。
万が一の時は、俺がやる」
『俺がやる』
その言葉の意味は一体どういう意味なのか。
庄亀は竜土を深く尊敬している。
それが例え雷火と対立することになってもだ。
しかし、そんな事は絶対に起こさせない。
竜土は力強く頷くと共に、
「安心してください。 私が傍にいる限りそんな事は起こさせません。 二度と・・・・・・」
雷火も頷く。
「あぁ、そうしてくれ。 だが、何かあればいつでも頼るといい。 俺達は仲間だからな。 そろそろ戻るぞ」
二人はそのままみんなのいる部屋へと戻った。
すると、そこでは既に宴会の準備がされており、古城ならではの
こじんまりとした宴が始まった。
姉弟の再開、そして五行将軍の再会を祝してその宴は始まる。
「竜土、ちょっといいか?」
座っている竜土の隣へやってきたのは緋水。
「お前は蝶姫の味方って事でいいんだよな?
狼徳王子には付いていないんだな?」
改めて確認する。
過去に六度戦っているとはいえ、その現場を見てはいない。
もしかしたらはめられる可能性だってある。
そこで確信を突く為に改めて訊ねたのだ。
竜土は顔を上げ緋水を見ると、再びその目は明後日の方向へと向かう。
「うん、大丈夫だよ? 僕は正直蝶姫以外とは仲良くないしね。
それに君達もそうだよ。 幼少期から国王に育てられた五人は
本物の家族以上に深い絆があると僕は思っている。
僕は考えるのは苦手だ。 でも、守りは得意。
だから、僕が蝶姫の盾となる。
どんなに激しい攻撃がこようと、僕が全て守り抜くよ。
蝶姫を守る為にね」
どうやら、本心のようだ。
そもそも竜土が嘘をつけるわけが無い。
彼は昔からそうだったのだから。
竜土の話を聞き安堵した緋水。
「そうか。 ならよかったぜ! そんじゃ、改めて再会を祝して乾杯だ!!!」
緋水は持っていた酒を竜土と乾杯する。
竜土の過去に何かがあったにしろ、蝶姫はこれで鉄壁の守りを有することになったし、五行将軍全てを傘下に納めることに成功するのであった。
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