願望から現実へ
「おつかれさん、はい水だよ」
蝶支城へと着いた蝶姫達は緋水の居る軍議室へと入った。
そこには既に緋水と副将の斗亜が待っている。
そして息を切らしてやってきた蝶姫に水を渡す。
「はぁ、はぁ、ありがとう、、、ごくっごくっ・・・・・・ぷはあっ、早く獅徳を見たいの! お願い緋水! 直ぐに行こう!」
緋水に詰め寄る。
それほどに切羽詰まっているのだ。
何せ死んだと思った大切な家族が生きているのかもしれないのだから。
緋水は驚いた顔をしていたが、直ぐに微笑み、そして、、、
「わかってるよ蝶姫! そう言うと思って軍は既に編成済みさ! 行くぞ二人とも」
蝶姫はその言葉に笑顔になった。
「うんッ!!! ありがとう!!!」
四人はそのまま軍が待機する場所へと行くと、迅雷隊と烈騎兵が並んでいた。
その数530人。
数は少ないがあくまで偵察の為、速さ重視でこの数に絞られた。
「そんじゃ蝶姫、出陣の合図を頼むよ!」
雷火の馬に跨り、蝶姫は驚きながらも頷く。
別に戦いじゃないからいいのに、と思いつつも、皆は自分を
守る為、自分のわがままの為に着いてきてくれる。
それならば、その感謝を伝えなければならない。
「皆! 本当にごめん! 私のわがままに付き合わせちゃって、、、でも、、、どうしても獅徳を確認したいの!
お願い!、、、力を貸して!!!」
震えながらも自分の言いたいことをハッキリと伝え頭を下げる。
辺りは静まり返っていた。
怖くて頭が上げられない。
何故、こんなにも無反応なのか。
そう思っていた瞬間、、、
『うぉぉおおおおおッ!!!!!!!!』
突如沸き起こる大歓声。
あまりの歓声に蝶姫は身震いし、頭を起こす。
すると目の前には槍を掲げ、声高らかに吠える兵達の姿が。
その光景に、蝶姫はまたしても涙を流してしまった。
嬉し涙だ。
「相変わらず泣き虫は治らないな。 獅徳王子の件でまた
涙腺が脆くなったか? これから弟に会うんだ。 それまで涙はとっておけ」
蝶姫の後ろからそう語る雷火。
今度は蝶姫が前に座っていた。
「ち、違うよ!!! う、嬉し涙だもん・・・・・・」
いじける様に目を伏せると、緋水まで笑いながらやってきた。
「ハッハッハッ! そんないじめるなよ雷火。
見ろ蝶姫。 皆、蝶姫の行動を責めたりするやつなんかいねぇよ。 むしろ、皆蝶姫の事が好きなんだ。 もちろん俺もな!
だから、蝶姫は堂々としていろ。 お前の道は俺達が切り開くからよ」
優しくそう語り掛けてくれる緋水。
普段は昔の蝶姫の様に、適当人間な緋水であるが、本当は
一番人を気遣う事が出来る男。
「うん。 ありがとう緋水。 雷火、行こう」
振り返り雷火を見つめそう話す。
「あぁ。 しっかり掴まっていろ。 行くぞ」
城門が開き、雷火、緋水率いる騎兵達が後を追う。
目指すは、ここから凡そ半日程の距離にある古城。
もし違ければ、そのまま戦闘になる恐れもある。
それも、狼徳軍を六回も跳ね除けた程の山賊達。
こちらもただでは済まないだろう。
淋木の斥候隊の話によれば敵の数はなんと、千人ほど。
普通、山賊は百人規模であり、五百も入れば大山賊である。
だが、今回の山賊の数は千人。
この数は山賊にしては異常だ。
もはや軍の一つであるのだから。
対してこちらは騎兵とはいえ350人。
約三倍もの数的不利があるのだ。
蝶姫は心の中でみんなに謝りつつも、こんな自分勝手な自分に付き従ってくれた事に感謝をする。
そして、暫く馬を走らせもう少しという所で前から一人の騎兵がやってきた。
淋木配下の斥候隊だ。
「報告! これより一里程先に古城あり! 皆が城の内部にいる模様! ただ獅徳王子の姿は確認できておりません!」
その言葉に歯を噛み締める蝶姫。
「まだ居ないと決まった訳では無い。 王子なのだから内部に居るのは当然だろう。 このまま行くぞ。 いいな?」
雷火の言葉にしっかりと頷く。
「そうだよね! ありがとう雷火! このままお願い!」
雷火達はその足を更に早め、古城へと目指す。
眼前には古城が。
そして、ボロボロの城壁の上にはかなりの兵が配置されている。
「ほえーーー、こんなボロボロとはいえ、攻めとるにはかなり
苦労しそうだな! っていうか、鉄壁すぎないか?」
緋水がそうボヤくも、雷火も同じ意見だった。
周りに敷かれた木の杭や木の柵。
更には土堀もあり、騎馬隊では突撃不可能な陣形である。
「狼徳軍が苦労するのも頷けるな。
力業でどうこうできる事でもない。
もし、獅徳王子じゃないのなら、そして攻撃してくるようなら
急いで退くぞ」
雷火の言葉に頷く二人。
ここの守りは鉄壁の様子で、淋木の配下でさえこの城には侵入出来ないとのこと。
城もボロボロであり、隠れる場所も少なく、それといって
守りも完璧なのだ。
だから、内部へ入る事が出来ずにいた。
となると、やはり外からいくしかない。
雷火と蝶姫、そして緋水の二騎は城門前へと近づく。
「俺の名は五行将軍が一人、雷火! そちらに獅徳王子がいるとの報告を受けて参った! 我等は蝶姫様の配下、故に助けに来た!
獅徳王子がいるのなら顔をお見せ願いたい!!!」
珍しく雷火が声を張り上げそう叫ぶ。
矢は射ってこない。
そして、城から敵が攻めてくる様子もない。
だが、城は完全に静まり返っていた。
城門の上にいる兵もピクリとも動きやしない。
「ギギギギギッ!」
そう思っていると突如城門が開かれる。
そして、中から出てくるのは一人の馬に乗った男。
蝶姫はその馬に乗った男を見て涙を浮かべ口を手で覆う。
「獅徳ッ!!!!!」
そう。目の前には五体満足の獅徳の姿が。
やはり獅徳は生きていた!
蝶姫は感動のあまり涙が止まらなず獅徳が来るのを待つのであった。
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