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空気姫

昼食は家族みんなで食べる決まりだ。


長いテーブルに食事が並べられ家族4人で腰をかける。



「では頂こう」



父の言葉で皆が一斉に食にありつく。


そんな中、いつにも増して食べ物にがっつく蝶姫に、

皆の目が奪われていた。


唖然とする3人。



「ちょ、蝶姫よ、今日は随分と食べるのだな。

何かあったのか?」



いつもと違いすぎる蝶姫に戸惑う国王は訊ねた。



「もぐもぐっ、今日は李凛に無理矢理走らされたの。朝からたくさん動いたからお腹がすいちゃって」



話しながらも食べる事はやめない。

そんな光景を見ていた兄である狼徳の眉間に皺が寄る。



「おい蝶姫ッ!!! 父上にその態度はなんだ! それに女らしく食べろ! お前はいつもだらしがないぞ!」



そう叱責するも、蝶姫は気にすることなく、そして返事をする事なく食べ続けた。


いつも狼徳は無視をされているがその態度に余計に腹を立てる。



「父上ッ!!!!! 悪いが俺は後で食べます! コイツと

食卓を共にすると食欲が失せます!」




怒鳴るとその場を後にし勢いよくドアを閉める狼徳。


国王と獅徳はなんだか気まずい空気に脅かされるも、

蝶姫はというと相変わらず食べ続けている。


なんとも自由奔放な子である。

鋼の心の持ち主なのだろうか。



「あ、姉上! よ、良かったら僕の肉も食べますか?」



気まずい空気に耐えかねた獅徳が蝶姫にステーキの乗った皿を渡す。



「えっ? いいのー?! ありがとう!」



目を輝かせてフォークでそのステーキを上からぶっ刺し、そのまま口へと運ぶ。


女性とは思えないその豪快な食べ方を見て国王は頭を悩ませていた。

というより、呆れていた。




「な、なんだかワシも食欲が無くなってきたのう・・・・・・」



「あ、姉上! その代わりと言ってはなんですが、

午後から良かったら一緒に散歩しませんか?」



散歩という言葉に、そして一緒にという言葉に

しかめっ面をする蝶姫。


だが、先程ステーキを貰った恩がある。


悩みに悩む蝶姫であったが、ステーキの恩はデカいと判断し、結局は付き合う事にする。


「んーーー・・・・・・いいよー! でも、少しだけだよ?」


まさかの返事に歓喜する獅徳。

今までも散々誘ってはみたが一度も叶うことなくあしらわれていた。


兄はあんな感じである為に、遊んでくれるはずもなく、姉もこんな感じの為、ずっと構ってくれなかったのだ。


兄姉共に接する機会など食事の時くらいだ。


「あ、ありがとうございます! では出発する時に迎えに行きますね!!!」


それには父である国王も微笑ましく眺めている。


こうして蝶姫の食事会となり昼食を終えるのであった。





食事を終え、自分の部屋でゴロゴロしているとノック音が聞こえた。


「いいよー」


軽く返事をし入ってきたのは獅徳である。


食事の時に約束した、散歩をする為に迎えに来たのだ。


「お迎えに上がりました!姉上!」


嬉しそうに迎えに来た獅徳であるが、蝶姫はというと

全く楽しそうではなかった。


むしろ面倒くさそうに、


「んー、準備するから待ってねー」


行くとわかっていたのに、何も準備していなかったのだ。

それには流石の獅徳も少しガッカリしている。


せっかく初めて一緒に出掛けられるのにと。

楽しみにしていたのは自分だけなんだと。



そんな事を考えていると、目の前で急に服を脱ぎ出す蝶姫。


獅徳は思わず見惚れてしまったが、すぐ様手で目を覆い隠す。


「あ、姉上!? 何故そこで着替えるのですか?!!!」


慌てる獅徳をそっちのけで、なんて事はない顔で

服を脱ぐ。


「えっ? だって姉弟でしょ? 別にいいんじゃないの?」


そう言いながらも黙々と服を着替える。


獅徳は顔を真っ赤にしながらも蝶姫に背を向けソワソワしていた。




「よーし、準備できたよー」



獅徳は振り返ると、そこにはいつもと違い私服の姿の蝶姫の姿が。


脚が露出している服を着ていた。


白く綺麗なその脚に、可愛らしい服。

獅徳はまたしても見惚れていた。


食事の時とは違う。

姉上も女性なんだと。


しかし、そんな獅徳の態度に気づくはずも無い蝶姫はそのままテクテクと外へ向かう。



「何してるの? 散歩行くんでしょ? 早く行こう」



自分ばかりドキドキして、なんだか馬鹿みたいに感じた獅徳は走って後を追う。





当然二人きりという訳にもいかず後ろには兵士が二人付いて歩く。

仮にも二人は王族である。

王族が二人きりで街へ出かけるなど問題外。


だが、それでも獅徳は嬉しかった。

ようやく叶った姉弟での交流。

胸を躍らせ街へと繰り出す。





今更ながらここ、蝶国の首都である『蝶明』は城郭都市である。

周りは外壁に囲まれており、中には住民が住んでいる。


そして、中央には国王や王族など重鎮達が住んでいるのだ。


城壁は全部で3つあり、まずは一番外にある城壁。

そして、一般の市民と貴族の間に一つ。

最後に貴族と王族の間に一つだ。


この様に周りを市民達が囲み、その次が貴族、そして王族という感じになっている。





そして、獅徳に連れられて向かった先は2つの門を出た先にある一般市民が住む地域だ。


人口約10万人にも昇る、この王都には人が多い為

店も様々なものがある。


そして、土が良いおかげで農業も盛んだ。

大飢饉が起きてからようやくここまで回復した。


獅徳はよく農業のお手伝いをしており、是非姉にもやって欲しいと思い今日は連れ出した。




蝶姫の目の前に広がる一面の畑。

しかし、初めて見た蝶姫からすればただ草が生えているだけである。



その草をみて呆然としていると獅徳がなにやら近寄ってきた。



「さぁ!姉上! 一緒に畑仕事を手伝いましょう!

採れたての野菜は最高ですよ!」



獅徳は凄いやる気満々のようであるが、蝶姫はというと、、、



「えー、やだよー。 散歩は許したけど畑仕事は許してないよ? それに服も汚れちゃうし疲れるよー。

朝走ったから午後はもう動きたくない!」



わかってはいた。

分かってはいたが、実際に目の前で見れば変わるかもしれないと淡い願いを抱いていた獅徳の思いは一瞬で打ち砕かれる。


だが、ここまで来たのだ。

まだ諦めるには早い。

涙目になりそうながらも堪える。



「で、でも! 野菜も食べられるんですよ?

姉上は食べるのが好きじゃないですか!」



その言葉を聞き首を傾げる蝶姫。



「食べるのは好きだよ? でも、食べるだけね!

野菜なら家にもあるんだからいいよー。

散歩しないならもう帰るよ?」



その言葉に落胆する。

姉は本当に何も関心がなかった。



「わ、わかりました、、、 僕は少し手伝ってから帰るから先に帰っててください」



俯き悲しそうにそう話す獅徳。



「わかったー。 それじゃあ先に帰るね。ばいばーい」



何事も無かったかのように来た道を戻る。

もしかしたらと、またしても思ってしまったがやはり

留まることは無かった。


振り返っても姉上はまっすぐ来た道を歩いていた。

一度も振り返ることなく。




「姉上、、、やっと話せると思ったのに・・・・・・」



目尻に涙を浮かべる。

そんな獅徳の様子を哀れんで見つめる付き添いの兵士。



(・・・・・・やはり、この国は獅徳様以外に国王たる器の方は居ないか。獅徳様だけはずっとそのままでいてくだされ)



心の中でそう願いながら暖かい目で見守る兵士であった。


いや、兵士だけでは無い。

兄である狼徳はともかく、姉の蝶姫には誰も何も期待はしていなかった。




『空気姫』




これが城内の民達が陰で呼ぶあだ名だ。

いてもいなくても変わらない姫。


まるで空気の様に存在感がない。

必要ではあるが見えない。


それが蝶姫であった。




最近の五行将軍の活躍もあり、勢力を拡大しようと唱える貴族達も増えている。


現に国王派閥、そして狼徳派閥、獅徳派閥があるのだが狼徳派閥の人員が急激に増えていた。


その為、国王もそれについては危惧している。


因みにだが蝶姫派閥なるものは当然ながら無い。




獅徳が畑仕事をしている頃、蝶姫は王城へと戻っていた。


そして、自分の部屋に行くとベッドに倒れ込む。



「ふぅーーー。 沢山歩いて疲れたー。 何が楽しく散歩するんだろ? まぁいっか。 疲れたから寝よっと」



そうして、いつものように昼寝をして1日を終える。


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