鷲国の王都
「李凛殿、乗り心地は如何でしょうか?
まだ道のりは長いです。 ご無理はなさらぬように」
今回の外交に伴う、護衛隊長を務める鳳金の副官である銅刹。
彼がいればそこら辺の盗賊なんか相手にもならない。
それ程屈強な男だ。
とてもじゃないが、やせ細った優男の鳳金の副官とは思えない。
「ありがとうございます銅刹様。 私の様な一介の市民に、、、むしろ申し訳ないくらいです」
自分は姫でもなければ貴族でもない。
ただの市民なのだ。
それなのに、この様な護衛を付けてもらうのはおこがましいほどであった。
何せ、いつもは蝶姫を護衛する側なのだから。
だが、今は自分は馬車に座って外を眺めているだけ。
この環境に全く慣れない。
「なんのなんの、李凛殿は鳳金様が認めた御方です。
本来鳳金様が才において他人を褒める事はありません。
それほどに貴女の才は伸び代があるのでしょう。
そして、ここで一番偉いのは外交官である李凛様です。
もっと気を強く持ってください。
鳳金様曰く、私達の存命は貴女の外交の力に掛かっているのですから。 つまり蝶国の運命を背負っているのです」
銅刹の言葉に重圧がのしかかる。
蝶国の運命。
ただのしがない侍女なのに、こんな大仕事を任せられるとは思いもしなかった。
自分はただただ蝶姫に従い、蝶姫の世話をする。
それだけで満足だった。
だが、こんなにも大きな大役を任せられたのだ。
李凛は気を引き締める。
蝶姫を守る為、蝶国を守る為に。
「はい! 銅刹様、ありがとうございます! 鷲国の王妃に会う前に気をしっかり引き締めます!」
先程の挙動不審な動きとは違い、決意を秘めた瞳へと変わる。
「はい。 道中の護衛は我等にお任せを。
それと私は貴女の付き人です。 様付けはお辞めください」
そうだった。
これでは向こうに着いてからも不審に思われてしまう。
「わかりました。 では銅刹隊長、よろしくお願いします」
李凛の言葉に笑顔で答える。
これで李凛の気持ちは整った。
後は鷲国へと向かうのみ。
5日の道のりを経て、ようやく目的地へと辿り着く。
そして、目の前に見える光景に驚愕せずにはいられない。
「お、大きい・・・・・・」
蝶国の王都よりも更に大きな鷲国の王都。
何よりもその見た目は美しく、赤と白を基調とし美しく彩られていた。
「鷲国の王都は世界屈指の大きさを誇ります。 この王都の名は『鷲昇城』。」
鷲国の王都鷲昇城。
世界で2番目に大きいとされるその城は圧巻であった。
驚きながらも前に進む一行。
門の前に着くと銅刹が城壁の上目掛けて声高らかに吠える。
「我等蝶国より参りし李凛外交官一行也! 開門願う!!!」
予め鳩を飛ばして報せはしていた。
そのおかげかすんなりと門は開かれ中へと入る事が許される。
門を抜け案内されて進むと身なりのいい男が兵を率いて待機していた。
恐らく将軍くらすであろう。
「ここよりは私、鷲国の第二席将軍である蘭韓が案内致す」
やはり将軍であった。
年齢は30中半くらいだろうか。
第二席というだけあって、その立ち姿に隙はなく、雷火を前にしているかのような感覚に陥っていた。
だが、鳳金の副官である銅刹はというと普段となんら変わらぬ表情で接している。
そう。ここで弱気を見せれば付け込まれるかもしれない。
李凛も気持ちを切り替えて、真面目な面持ちになる。
そんな李凛の表情に気付いた蘭韓は小さく微笑む。
「ふふっ、そんなに固くならなくとも大丈夫ですよ外交官殿。
我等はあなた方蝶国だけは、どこか親近感が湧くのです。
どうか、自分の国とまではいかなくとも気を許して貰えると助かります」
威厳たっぷりだった相手が今はとても穏やかで優しい表情へと変わっている。
変に緊張したり、真面目になったりしていたが蘭韓のおかげで
李凛は普段の素の状態になることができた。
「あ、ありがとうございます! 気を遣わせてしまって申し訳ないです。 王妃様の元へ案内して頂いても宜しいですか?」
「まだ若いだろうになんと礼儀の正しい外交官殿か。
私が責任もってあなた方を姫の元へ案内致しましょう。
ではこちらへ」
どうやら蘭韓にとって李凛の印象は良かったようだ。
このまま、王妃とも無事に会談を成功させる。
李凛は気をしっかり持ち切り替える。
王都内へと案内されると、一つの大きな扉の前に立たせられる。
扉の前には重装備の警備兵二人が立ちはだかる。
「これより先は外交官殿と付き添い一人でお入りください。
ただし、武器はそのまま携帯てどうぞ」
その言葉には流石の銅刹も驚いた。
相手の王妃の前に他国の者が入るのだ。
普通なら武器はここで取り上げるのが常識。
だが、恐らく警備を一人にする代わりに武器を携帯していいとの事なのだろう。
当然李凛の警備には銅刹が付いていく。
扉は開かれ蘭韓の後を追う二人。
そこには広い王の間があり、左右には将軍やら文官達が立ち並んでいた。
そして、一番奥にはどこか落ち着きのなさそうな王妃がこちらを
見つめていた。
(あの人が王妃? 鳳金様からは思慮深く、頭の回る狐のような女性と聞いていたのだけど、、、アレではまるでリスの様ね。
ん?・・・・・・もしかして、、、)
李凛は何かに気付くもそのまま蘭韓に案内され王妃の前まで進む。
そして、予め教えられていた文言を李凛が話す。
「この度は我等蝶国に貴重な時間を割いていただき真にありがとうございます。 私は蝶国の外交官である李凛と申します。こちらは副官の銅刹。 よろしくお願いします」
両手を合わせそのまま頭を下げる二人。
後は王妃の口が開かれるのを待つだけ。
なのだが、ここで李凛が再び口を開く。
「あの、一つよろしいでしょうか?
『王妃様はどちらに居られるのですか?』」
李凛の言葉に皆が驚き騒ぎ立てる。
隣の銅刹も驚愕していた。
一体王妃に向かって何を言っているのだと。
だがもう遅い。ここにいる全員が耳にしたのだから。
気まずい空気に警戒する銅刹。
一波乱が起きる予感をひしひしと感じるのであった。
「面白いな、続きが読みたいなと思ったらブックマーク、高評価をお願いします。そして誤字脱字や意見などあったら是非コメントしてください。」




