信じる心
「ということで、五千人の捕虜は一度返しました。 ここにずっと居ては蝶巴城にいる狼德の手の者たちに怪しまれてしまうでしょう。 彼等が裏切るとは思えませんのでね。
ですが、参りましたね。 豪覇将軍が味方になってくれれば
このまま蝶巴城も攻め落とせたのですが・・・・・・」
流石の鳯金も打つ手が無かった。
城を落とす策はあっても、その後城を生かす策は持ち合わせていない。
いや、人手が足りないのだからどうしよも無い。
その時だった。
突如淋木の放っていた諜報部隊が部屋へと入ってくる。
「伝令! これより南西に10キロの地点にある村を狼德軍が進軍しているとの事! 至急応援を!」
その言葉に雷火が驚く。
何も雷火が治めるこの地は、この城郭都市だけでは無い。
城の外には多数の村が存在し、そこで村人も住んでいる。
つまり、雷火の傘下という事だ。
無論警備兵も配備しているが、軍を相手にする程の数は常備していない。
「敵は何人だ?!」
雷火は焦る気持ちで声を上げる。
「恐らく5千程かと!」
雷火は舌打ちをする。
そこの村の近くには鉱山があり、村人達は鉄を採取している。
つまり、防具や武器を生成する為の生命線だ。
敵は恐らくその情報を手に入れ、攻め込んできた。
常備している兵は僅か100人。
「雷火。 ここは俺が行ってやる。 俺達烈騎兵の脚なら敵よりも早くつけるだろうぜ」
緋水が自ら名乗りを上げてくれた。
「いや、俺も行こう。 俺の管轄で起きた事だ。 鳯金、淋木、蝶姫とこの城を頼む」
雷火の言葉に皆が頷く。
そして、蝶姫はここでも自分の無力さに劣等感を感じていた。
自分は姫であるだけで、何もすることができない。
ただ見守るだけだと。
そんな姿を鳯金は隣で見ていたが、何も声は掛けなかった。
「では行って参る。 頼むぞ緋水!」
「おう! 俺の力見せてやるよ!」
二人はその部屋を後にし、緋水率いる烈騎兵と共に打って出た。
城壁の上からその後ろ姿を見守る三人。
「きっと大丈夫よね。 二人とも無事に戻ってきて---。」
手を合わせ祈りを捧げる。
それから僅か数刻。
息を荒くして入ってくる諜報部隊の一人。
「ほ、報告! 南東より敵軍がこちらへ進んでおります!
その数一万五千!」
その言葉に驚く三人。
鳯金はそれで全てを理解した。
村へ攻めた軍は陽動。
本命はこちらだった。
狼德は雷火の心を理解し、緋水の騎兵を使うと読んだのだ。
そして、諜報部隊に気付かれてもいい様に雷火達が出てから時間を見計らったのだ。
早くは戻って来れないであろう距離に。
「やられました。 緋水の手勢3千が村へ行き、残るは6千の兵。
敵は役3倍。 やってやれない事は無いでしょうが、我が軍にも多大な犠牲が出るでしょう。
まさか、狼德殿がここまで早く行動にうつすとは。
やはり、彼について見直す必要がありそうです」
前回の敗戦からまだ一月も経っていない。
それでいて、こんなにも早く軍を進めることが出来た。
それはやはり狼德の力なのだろう。
鳯金は完全に後手に回された。
「南は私と銅刹が! 西は雷火の副将である朱抗に! 東を淋木。
南は淋木、貴方の副将にお願い出来ますか?」
頷く淋木。
そして、鳯金の迅速な兵の配備のおかげで敵が到着する前に終わった。
城壁の上にある楼閣にて鳯金と蝶姫は見守る。
真ん中の城で待つようにと伝えたが、蝶姫はこの目でしっかりと戦争を見届けたいとの事。
そこまで言われれば鳯金も断れなかった。
「絶対に前には出ないようお願いします。流れ矢で死んだとあっては、我等に勝ちの目はありませんので」
蝶姫はにも出来ていないというが、兵士達からすれば彼女こそが自分達の王であり、女王なのだ。
上を失えば兵の士気に関わる。
つまり、蝶姫さえ生きていればなんとかなるのだ。
「わかったわ。 皆に神の御加護を」
祈る蝶姫。そして、隣には李凛の姿も。
蝶姫が行くなら自分も行くと聞かないのだから仕方がない。
そうこうしているうちに眼前に敵の軍が見え始めた。
いつまでも後ろへと続く大軍。
その行軍を見ているだけで蝶姫の鼓動は早まった。
緊張しているのだ。
「大丈夫ですよ蝶姫。 雷火の元へは淋木が既に伝令を送りました。 向こうが終わり次第、直ぐにこちらえ救援に来てくれるはずです」
戦が始まる前に、直ぐに雷火の元へは伝令を送っていた。
向こうの敵を倒してからになる為、いつ来れるかは分からないが
耐えれば勝ちなのだ。
そうすれば挟み撃ちにでき、勝利は確実。
「ジャーーーンッ!!!」
敵の銅鑼の合図で戦争は始まった。
いくつもの矢が空を飛び、互いの自営へと降り注ぐ。
こちらは城壁の上ということもあり、矢の打ち合いは優位に立っていた。
だが、それだけで終わるはずがない。
次々と城壁にかかる梯子。
敵が虫の如く登り始める。
前に控える鳯金の副将である銅刹率いる槍隊が敵の侵入を防ぐ。
そした、周りの門にも少し遅れるように攻撃が始まった。
前回と同じく、全方位攻撃だ。
皆が必死に耐える。
雷火達の助けが来るまで必死に耐える。
南門は何とか耐えてはいるが、一番気掛かりなのは北門。
淋木の副将が守る所だ。
朱抗の実力は聞いた事があるし、目の当たりにしたことはあるが
淋木の副将は全く知らない。
つまり、不安要素がある訳だ。
そんな不安を抱える中、当の北門では、
「一刀一殺! 無駄な体力を使わず、最低限の力で敵を殺せ!
敵の軍は雪崩のようにやってくる。 体力を無駄にするな!」
手下達を激励しながらも、自身は何十人も既に殺していた。
忍者の様な格好をした、彼こそが淋木の副将であり右腕の
『潘然』だ。
暗殺を得意とする軍ではあるが、もちろん剣の心得も持っている。
その為、鳯金は危惧していたが、そんな思いは無用であった。
他の門と同様に善戦している。
これなら勝てる。
鳯金はもちろん、蝶姫もそう思ったが、ここで敵の後方より新手がやってきたのだ。
「ぶもぉーーー!!!」
不気味な角笛が戦場に鳴り響く。
(まずい。 ここで数が増えては押し込まれる)
鳯金の額から冷や汗が流れる。
敵の援軍の知らせは、敵の士気を上げることはもちろん、味方の士気を下げてしまう。
数は恐らく5千ほど。
鳯金が蝶姫に城へ戻るよう伝えようとするも、蝶姫は敵の援軍をずっと見詰めていた。
そして、
「助けに来てくれると思ったよ。 『豪覇将軍』」
その言葉に驚く鳯金と李凛。
よく見れば、旗には豪の文字が。
こちらの援軍だったのだ!
鎧を纏った馬に乗る豪覇。
その手には巨大な偃月刀が。
「皆の者! これは私の復帰戦だ!!!
蝶姫様に我等の力を見せる絶好の機会!!!
全軍、、、突撃ッ!!!」
豪覇の号令で一気に駆ける豪覇軍。
豪覇の出現で一気に形勢が逆転するのであった。
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