烈騎兵
豪覇将軍を仲間にする為、これからの戦いに協力してもらう為、蝶姫は自ら使者となり訪問することを決意する。
「本当に行くのか?」
雷火は心配する様に優しく語り掛ける。
敵地へ行く訳では無いが、失敗すれば精神的にもだいぶ参ることになってしまうかもしれない。
それどころか向こうの癇に障れれば、敵対してしまう恐れもある。
何せ、豪覇将軍は頭も回る上に少し硬い所があるのだ。
何よりあの見た目、、、。
蝶姫が平常心でいられるとも思えない。
だが蝶姫は一度やると決めれば曲げることは無かった。
「うん。 行くよ! 皆だって頑張って戦ってくれたんだもん。
次は私が戦う番」
どうやら折れることは無さそうだ。
「わかった。 だが、道中の護衛は必要だ。 俺が行こう」
ここから豪覇将軍が治める龍明城まで馬で5日といったところだ。
とてもじゃないが一人で行かせる訳にはいかない。
そこら中に狼徳の軍が展開しているのだから。
雷火がいれば道中の安全も確約されたようなもの。
だが、、、
「いーや! 雷火はここを留守にする訳にもいかないだろ。
ここはお前の城だ。 それに馬の移動なら俺の得意分野だしな! 俺が行こう」
雷火を制止し、自ら名乗り出る緋水。
確かに雷火はここの城主である。
城主が長らく城を開ければ万が一の対処に後手を踏むこととなるだろう。
それに、緋水の騎馬は天下一とも称されている。
それなら、この役目は緋水が一番相応しい。
「そうですね。 ここは緋水に任せるのが一番の得策かと。
よろしいですね。雷火」
渋々といった感じで了承する。
「ありがとね雷火。 そして、よろしくね緋水!」
こうして、蝶姫一派は城を守る組と龍明城へ行く組に別れる。
10日後の早朝、緋水の乗る馬に蝶姫は跨る。
蝶姫の馬術の腕では緋水ら騎馬隊に追いつけないからだ。
ちなみに何故、10日も掛かったかというと、事前に豪覇将軍へ報せるためだ。
いきなり行って話を聞いてくれと言っても、いない可能性もあるし、面会してくれない可能性もある。
それに、行くのは蝶姫自らだ。
無駄足をさせたくないという鳯金達の優しさである。
その為、淋木の配下に頼んで、事前に報せを送った。
これといって敵に遭遇することも無く順調に進んでいく一行。
「ねぇ、緋水、、、もし失敗したらごめんね。 せっかく運んでくれたのにさ」
まだ出発して間もないというのに弱い声色で俯く蝶姫。
その時だった。
「もみもみ」
後方より蝶姫の胸を鷲掴みにして揉みしだく緋水。
突然の事に頭が真っ白になる。
「きゃあッ!!! な、何すんのよ!!! こ、こっちは本当に不安なのに! 緋水は私の気持ちを何も分かってないんだから!!!」
大きな声で緋水に怒声を浴びせる。
「わかってるよ。 俺の役目はただ運ぶだけじゃない。 蝶姫の不安を取り払い、いつも通りのお前を引き出す事だ! まだ出発したばかりなのに劣等感に苛まれてんじゃねーよ!
蝶姫はいつも通りでいいんだ! 何も考えずに思った事を言えばいい。 難しい事は考えるな。 それが、一番ジジイの心に響くだろうよ」
緋水なりの励まし方だった。
そして、気付けば緋水の言う通り不安になるが馬鹿馬鹿しくなっていた。
「そ、そうよね、、、今考えても仕方ない! 豪覇将軍が何を聞いてくるかなんてわからないんだから! よしっ! もう考えるのは辞める! 私の想いをぶつけるね! ありがとう緋水!」
後ろを振り返り笑顔でそう答える。
そんな蝶姫の顔を緋水はマジマジと見つめていた。
(やだやだ。 こういう事を自然とやるんだからこの子はさ。
だから、俺は、、、いや俺達は蝶姫の事が・・・・・・)
自身の前に座る蝶姫の後ろ姿を見て微笑む緋水。
だが、そこで副官である斗亜から怒りの言葉が投げかけられる。
「将軍は直ぐにそういうことをするんだから! いい事を言ってるように見せてるけど、ただ触りたいだけでしょ!!!
この! 女の敵!!!」
彼女は女性でありながらも、緋水の次に馬の扱いが長けており
その槍裁きも緋水仕込みの為、副官の座まで登り詰めたのだ。
戦争の邪魔にならないようにと、ショートカットの茶色の毛で
目はクリクリだ。
綺麗と言うよりは可愛い感じの女の子であった。
歳も蝶姫とさほど変わらないといった感じに見える。
「おいおい! 変な言いがかりはよしてくれよ! 俺は全世界の女性の味方なんだからよ!」
お調子者の緋水に呆れ気味の斗亜。
「蝶姫様も騙されちゃ駄目ですからね!」
いきなり話を振られ戸惑うも、話しやすい人だなと思う。
「う、うん! 気を付けるね!」
そんな他愛もない話をしながらも、城を目指し進むのであった。
緋水達の力もあって、5日で着くであろうその距離を一日も短縮し4日の内に着いてみせた。
流石は世界に名を轟かす緋水率いる『烈騎兵』である。
背中を追われれば必ず追いつかれ殺される。
その騎兵隊から逃げる事は敵わない。
死にたくなければ前だけを見て戦えと言われている。
「よし、着いたぞ。 ここが蝶明城だ。 久しぶりに来たが中々デケーな! 俺のナニくらいはあるぜ?」
ふざけた事を口走りながらも感動しているが、蝶姫は反応すること無く、その蝶明城を見据えていた。
「凄い広い、、、 雷火の蝶龍城よりも大きいね!」
そう。ここは前線では無いものの、王都に次ぐ二番目の広さを有していた。
だから、狼徳が中々攻められないというのもある。
ただ、実際は鉄壁という訳では無い。
広さはあるが城壁の高さや門の硬さは、そこらの城郭都市と同じである。
だが、広く人口も多い。
これを落とすには多大なる犠牲を被る事になるだろう。
「あぁ、でっけーよな。 それじゃあ、行くとするか!
こっからはお前の戦いだな蝶姫! 背負うなよ?」
励ましの言葉をかける緋水。
そして、不思議と緊張はなかった。
城の大きさに圧倒されるも飲み込まれてはいない。
必ずこの想いを豪覇将軍に伝える。
蝶姫の想いはそれだけだったのだ。
そして、門は開かれ中へと入る。
真ん中にある城へと進むと、大きな扉がありそこを開くと待っていたのはでかい身体で腕を組み、鋭い目付きでコチラを睨む一人の男の姿が。
そう。彼こそが歴代最強とも謳われている常勝将軍である
『豪覇大将軍』だ。
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