人を導く力
3万の敵の内、2万は死に、半数は逃げ、残りの半数は捕虜のなった。
対して、コチラの被害は数百程度。
圧倒的勝利であった。
これが五行将軍の力であり、五行将軍率いる精鋭達の力であった。
五行将軍の4人は中心の城で待つ蝶姫の元へと向かい、戦後報告をする。
部屋に入った4人の顔を待てホッとする蝶姫。
いくら大丈夫と言われても、戦争では何が起こるかわからない。
不安にならないわけがなかった。
「まずは皆が無事で本当によかった、、、そして、亡くなった勇敢な兵士達にも黙祷を捧げたい、、、ごめんね、みんな」
その言葉に皆も目を閉じ黙祷を捧げる。
たが、数の差でこの勝利は圧倒的だ。
鳯金からの戦況報告で如何に4人が、そして副官達が頑張ってくれたかがわかる。
「以上が戦の報告です。 そして、蝶姫様には一つ決めて頂かなければならない事があります。 『捕虜』の始末です
奴隷として使うのか、殺すのか。 どう致しましょうか?」
これは意地悪な質問であった。
だが、捕虜の処置を決めるのも主の役目。
何せ5千人もの数がいるのだから。
どちらを選択しても、捕虜達には明るい未来は無い。
ならば、ここは殺すのが最善。
4人なら殺す方を選ぶだろう。
奴隷として使うのは元同じ国の仲間として忍びない。
そして、いつ反旗を翻すかも分からない。
だが、蝶姫の答えはまさかの返答だった。
「えっ? どうしてその二択なの? 逃がしてあげればいいじゃん。 もう雷火達の力を目の当たりにして十分にわかったんだからきっと攻めてこないよ! だから逃がしてあげよ?
捕虜の皆も私達と同じ国の人間だよ? 家族がいるよ?
我儘なのはわかってる。 だから、、、どうかな?」
皆の顔は呆然となる。
「フッフッフッ、、、アッハッハッハッハッ!!!!!
さすがは蝶姫だ! いや、それでこそ蝶姫なのかな?」
「緋水が蝶姫の何を知ってるって言うのさ。 せっかく捕まえた大事な捕虜だけど、どうしてもって言うなら別にいいけどさ」
「ふふっ、淋木は素直じゃないですね。 逃がすですか、、、
だそうですよ雷火?」
皆が雷火を見つめる。
雷火は腕を組み険しい表情で目を伏せている。
重い空気。
雷火は蝶姫を鋭い視線で見つめて口を開く。
「いいか蝶姫。 兵士達が戦場に出るのは自分の意思とは関係ない。 例え怖かろうが死にたくなかろうが、上の命令があれば行かなければいけない。 つまり、アイツらを逃がしてもまたここへ
攻めてくる可能性がある。 いや、絶対に来るだろう。 そして、
俺達の手に掛かり死ぬことになる。
どっちにしろ死ぬんだ---。 そして、今殺さなかったが故に次回俺達は5千人分多く殺すことになる。 今殺していれば我々の死傷者も減らす事が出来たかもしれないのにな」
その言葉は蝶姫に重くのしかかる。
捕虜という存在を甘く見ていた。
捕虜の処遇がここまで頭を悩ますことだとも知らなかった。
敵の命を守るか味方の命を守るか。
そんなの一択しかない。
それでも、無抵抗の敵兵を皆殺しにするなど、とても命令出来ない。
蝶姫は歯を噛み締め、目には涙を浮かべていた。
「ちょ、蝶姫様、、、」
隣では李凛がその手をしっかりと握りしめている。
「すまなかった。 まだお前には早かったな。 捕虜の処遇は俺達に任せろ。 蝶姫は部屋で休んでいろ」
蝶姫はつい最近まで、戦いとは無縁の場所に居たのだ。
そんな彼女にこの選択は酷というものだった。
雷火は謝罪するとその場を後にしようと歩いた。
しかし、
「待って!!!」
蝶姫の待ったが部屋に響く。
雷火は振り返り、皆も凝視する。
「い、命を懸けて戦うのも、命を奪い合うのも、雷火達や兵士達なのはわかってる。
私が言える立場じゃないのもわかってる---。
だけど、やっぱり無理だよ、、、例えこの先戦う事があったとしても、それまでの間は家族とまた会えるんでしょ? きっと捕虜の人達だってお別れを言えずにいた人達だって沢山いるはず。
帰りを待つ子供達も沢山いるはず。 だからお願い、、、自分勝手なのは分かってるけど皆を逃がしてあげたらダメかな、、、」
涙を流しながらも必死に訴える。
この案が味方を苦境に持っていくことも分かっている。
それでも、蝶姫にはその二つで決断する事は出来なかった。
「やはり、蝶姫様は変わりませんね。 ですが、それでこそ我等が使えるに相応しい主です。 これが蝶姫様の答えみたいですよ。
五千人将の陸真さん」
突如その場に姿を現す陸真。
銅刹程では無いが、ガタイが良く歴戦の兵士といった感じであった。
何より、その強面にも迫力がある。
そして、驚く蝶姫と李凛。
彼は残る五千人を率いて最後まで戦い殿をしていた隊長であった。
そして、裏で蝶姫の話を聞いていたのだ。
「蝶姫様・・・・・・そこまで我等の事を想ってくれているとは、、、私の命は、いえ---我等が命は蝶姫様の為に」
陸真は膝を着き拳を添えて蝶姫に頭を下げた。
これは忠誠を誓う証だ。
「えっ、、、ちょっと待って、、、どういう事?」
困惑する蝶姫。
何故この場に捕虜の隊長が居るのか。
そして、いつから聞いていたのか。
陸真は最初から聞いていた。
そして、自分達の為に涙を流してくれていたことも知っている。
そんな蝶姫に心打たれて忠誠を誓ったのだ。
「狼徳殿も持っているが、蝶姫様の人を導く力も素晴らしいですね。 いや、狼徳殿とは違う。 彼は圧政で人の心を無理矢理掌握するが蝶姫様は、その優しさで相手の心を掴む。実に蝶姫様らしい。これで一件落着ですね」
鳯金の言う通り、これにて難しい議題は蝶姫の優しさにより解決した。
それも5千人の精鋭付きでだ。
戦の勝利に加え、思わぬ儲けもんであった。
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