鳯金の手の平
「蝶姫様ッ!!! 大変です! 西が破られましたッ!!!
早く逃げる準備をッ!!! 衛兵ッ!!!」
緊迫した面持ちで催促する李凛。
だというのに、蝶姫は何故か落ち着いていた。
「蝶姫様ッ!!!」
微動だにしない蝶姫に怒り混じりに名前を呼ぶ。
「大丈夫だよ李凛。 鳯金の作戦は、、、五行将軍の力はこれからだから」
「えっ???」
何を言っているのか訳が分からない。
現に敵軍が城内に侵入しているのが見えているというのに。
困惑する李凛であったが、蝶姫の様子から察するに信じる他なかった。
その頃、敵の本陣では、
「呉甲将軍! 西の門にて我が軍が侵入したとの事! 門が開かれるのも時間の問題です!」
この軍を指揮する呉甲将軍。 力は無く統率もない。
言わば、家柄と金で成り上がった将軍の一人だ。
つまり、軍略の才能も無いため、建前上の総大将だ。
「よろしい。 では残りの兵士達を皆西門へと集めなさい。
門が開いたと同時に攻め入るのです」
「はっ!」
誰にでもできるような指示を出す呉甲。
兵士達は一斉に西門へと集まる。
「鳯金様! 敵軍が西門へと集中しております!!! 急いで西門へ兵をお集めください!」
焦る指揮官であったが、一向に焦る気配を見せない鳯金。
そして、
「そうですか。 では引き続き、南より登ってくる敵軍を迎撃してください」
「ッ?!」
指揮官達は驚く。
何故西にではなくここを守らせるのか。
今一番羞恥に陥っているのは西門である。
ならば、ここには最低限の兵を残し西門へ送るべき。
だというのに鳯金の指示は違った。
ここで戦え。
これには流石の側近達も理解に苦しんだ。
「大丈夫ですよ。 この戦は初めから私達の勝ちですから」
何故か説得力だけはある鳯金の言葉。
仕方なく、指揮官達も南門に集中す。
『門が開いたぞーーーッ!!!』
その報せは敵味方関係なく鳴り響く。
そして、門より迫り来る敵の数々。
「突撃せよ! このまま全方位の門を開くぞ! 行けーーーッ!!!・・・・・・ッ?!!!」
突如前方より降り注ぐ矢の雨。
いや頭上からも降り注いでいた。
「ッ?!!! 謀られたのか?! どういうことだ!!!」
その時、前方より一騎の騎馬隊が迫っていた。
見れば、味方の鎧を着ている。
だが、おかしい。
何故、前より槍を構えて鬼気迫る勢いでやって来るのか。
その顔をみてこの隊の隊長は戦慄が走った。
「ラ、雷火将軍?!!!」
「ふっ、馬鹿な奴らめ。 貴様らはまんまと嵌められたのだ。
鳯金の策にな。 お前の兵士は誰一人城内へは侵入出来ていない。 俺達がお前らの鎧を着て化けていのだ。 お前らを中へ引き込む為にな。 つまり、ここは狩場だ。 死ね」
手に持つ槍を隊長目掛けて投げ放つ。
あまりの勢いに馬から放り出され、そのまま地面へと突き刺さる。
更にそのまま剣を持ち敵軍へ斬り込む。
「敵は一人だ! 何をしている!!!」
「ザシュッ!」
声を張り上げた敵兵の首が地面へと落ちる。
「一人ではない。 雷火将軍に続け!!!」
巨大な戦斧を掲げ、声高らかに叫ぶ銅刹。
予備軍を全部率いていた。
そして、城門前は狭く、敵は一気には入って来れない。
となると、雷火と銅刹の力で数の差を覆す事ができる。
更には矢の雨が後方に控える軍へと突き刺さる。
雷火の剣が、銅刹の戦斧が敵を切り裂き次々に葬り去る。
その頃敵本陣では、
「おぉ、門が開かれたか。 後は勝利を待つのみ。
ハッハッハッ!」
呉甲は城門が開かれた事しか知らず、中で起きている惨状を知る由もなかった。
「この城を落としたとなれば呉甲将軍の名は一気に広まりますぞ!」
「これは大将軍の誕生ですかな? アッハッハッハッハッ!」
口々に側近達も呉甲を持ち上げる。
その時、
「報告! 東門も開かれた様子!」
見れば東門も開かれていた。
これには呉甲含め側近達も賑わう。
もうじき、戦いが終わると。
我らの完全勝利だと。
しかし、兵士達の様子は違った。
開かれはしたのだがおかしい。
何故か、門の内側から騎馬兵が出てくる。
中の制圧が終わったのか?
いや、こんな短時間で終わるはずが無い。
呉甲は特に気にする事はなかったが、兵士達は目を凝らす。
すると、、、
「ほ、報告!!! 東門より敵軍が打って出てきました!
真っ直ぐコチラへ来ています!!!」
その言葉に呆気に取られる呉甲達。
「「えっ?」」
何が何だか分からなかった。
それもそのはず。
初めから鳯金の手の上で踊らされていたのだから。
最初から雷火が守る西門は破られていなかった。
頃合いを見て、敵の死体を集め、鎧を剥ぎ、その鎧を雷火軍が着ていたのだ。
そして、あたかも呉甲軍が侵入したかのように思わせた。
現に城壁の上では雷火の副官である朱抗が敵を誰一人侵入させていなかったのだから。
その後、門が開かれると、待ち構えていた多数の弓兵が一斉に矢を放ち、それと同時に雷火と銅刹が攻め込む。
更に、頃合いを見て緋水があたか敵に門を開かれたように見せながら敵本陣へと攻めたのだ。
これが鳯金の策の全貌である。
緋水率いる騎馬兵は敵本陣へと突入した。
こちらは歩兵で固められており、とてもじゃないが止めることは敵わない。
そして、その騎馬隊の先頭で槍を振るう男は、、、
「ヒッ! 緋水将軍だァァァッ!!!」
一人の兵士がその名を叫ぶ。
「せーかい! 俺があの有名でイケメンな緋水将軍!
って事で大将首は俺が頂かせてもらうぜー!」
「ヒィッ! わ、私を守れ!!! 私は未来の大将軍になる男だ!
こんな所で死ねないのだ!!!」
「グサッ」
呉甲の胸に突き刺さる緋水の槍。
あまりにも呆気ない未来の大将軍の死であった。
「お前が大将軍の器かよ。 ばーか。 っと、この首を持って勝鬨を上げっぞー」
鳯金の策、そして、五行将軍達の力もありこの戦いも難なく
勝ちを収めるのであった。
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