素直になれない男
扉を開き驚いた表情で淋木を見つめる雷火。
そして、部屋の状況を観察し起こった経緯を推測した。
「なるほど。 助かった淋木。 俺の采配不足だ。 悪かった」
素直に謝罪する雷火。
淋木が居なければ蝶姫は今頃・・・・・・。
「全くだよ。 この部屋は、いや、この城は防備に穴がありすぎる。 これなら僕の配下でも侵入できるよ。 それに、謝るなら蝶姫に謝って。 怖い思いをしたのは彼女だ」
淋木の説教を喰らい、蝶姫の顔色を伺うも、何が何だか分からないといった様子でキョトンとしていた。
「あぁ、、、すまなかったな蝶姫。 俺の責任だ」
素直に頭を下げるが、そんな雷火の姿に驚く。
雷火は十分に助けてくれている。
なんでも完璧にこなせるはずもない。
だから、
「雷火は悪くないよ! 私が弱いのがいけないの、、、ねぇ
雷火? 私・・・・・・強くなりたい! 私も戦いたい!!! 」
突然の言葉に驚く雷火と淋木。
武器は愚か、少しでも重い物を持ちたがらなかった蝶姫。
それに、虫だって殺せないほどだ。
そんな彼女に武器を手にする事ができるのか・・・・・・。
いや、彼女の瞳は決意を秘めた目をしている。
自分を変えたいと、本気で思っているのだろう。
「あぁ、わかった。 明日から早速訓練しよう」
頷く蝶姫。
だが、それに待ったをかけるものが居た。
「だめ。 蝶姫は戦わなくていい。 弱いんだから隠れてればいい。 僕が守ってあげるから」
嫌味たらしい言葉ではあるかもしれないが、淋木なりに蝶姫が心配なのだろう。
「むー!!! 私だって自分の身くらい守りたいの!
変わりたいの! それに、大切な人達も守りたいよ、、、」
そんな事言われれば流石の淋木も否定はできなかった。
苦虫を噛み潰したよう表情で、渋々了承する。
「わかったよ。 でも無理は禁物。 すぐに上手くなることはないんだから、ゆっくりとやっていくんだよ」
淋木からも了承を得て喜ぶ蝶姫。
「やった! ありがとう淋木! 私頑張るからね!」
やる気十分の蝶姫。
「淋木、それよりもお前はいつここへ辿り着いた? 仲間は?」
「僕はついさっきだよ。 仲間はもう少し遅いかな? 僕だけ急いできたからさ。 僕の仲間1000人。 他の兵達は信用出来なかったからね。 信頼出来る僕直属の仲間しか連れて来なかった」
やはり、どこの城も現国王である狼徳の賛同者が大多数を占めている。
「そうか。 俺の兵が3千、鳯金が2千、緋水が3千、そしてお前が1千か。 総勢9千。 狼徳の総数は恐らく10万以上。
どうしたものか」
約10倍以上の数の差。
だが、こちらは精鋭揃いであり、五行将軍が4人もいる。
そう4人だ。
「ん? 竜土はまだ来てないの?」
「あぁ、奴は適当な男だ。 それに、奴の性格上恐らく、、、」
「狼徳につくか」
頷く雷火。
竜土は基本怠け者であり、いつもふざける。
人を揶揄うのが好きで、淋木とは犬猿の仲だ。
だが、それでも将軍に上り詰めるほどの実力を有している。
そんな二人の会話を聞いて蝶姫は少し落ち込んでいた。
彼もまた、他の四人同様昔から一緒に過ごしていたのだ。
家族同然である。
だが、進む道は自分で決めるもの。
彼が狼徳を選んだとしても、彼を責める言われは無い。
むしろ、こんな自分に付いてきてくれる四人が異常なのだ。
何せ、負け戦も同然なのだから。
「雷火、淋木・・・・・・ありがとう。 ごめんね、、、」
狼徳の元へ行けば、こんな死地に居ることは無いのに。
そう思うと罪悪感に押し潰されそうになっていた。
そして、気付けばまた目からは涙が。
手で拭う蝶姫。
すると、
「ぽん」
顔を上げると、自分の頭の上には雷火の手が。
大きくて暖かい手が頭を撫でる。
「俺達は自分の意思で決めた。 蝶姫が謝る必要は無い。
今日はもう寝ろ。 怖い思いをさせて悪かったな」
優しくそう話しかけてくれる雷火。
言葉数は少ないが、それだけで蝶姫の不安は拭われた。
「そうだよ。 何も蝶姫の為じゃないから。 向こうは大きな奴が沢山いるから殺したかったの。 蝶姫の傍に居れば僕は大きく見えるしね」
相も変わらず素直じゃない男である。
しかし、淋木の言葉も蝶姫を癒すには十分だ。
「ありがとう二人共。 明日からまたよろしくね。 おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
「守りは任せて安心して寝てね」
そう言うと二人はその部屋を後にして、蝶姫はようやく眠りにつくのであった。
雷火の後を歩く淋木。
決して近くは歩かない。
何故なら雷火は高身長だから。
「今日は助かった。 お前が居なければ今頃蝶姫は、、、」
深く反省する雷火。
余程根に持っているのだろう。
だが、それも当然。
彼がこの城を管轄しており、敵の侵入を許してしまったのだから。
「別に仕方ないんじゃない。 暗殺者はそれが特技なんだからさ。 同業者でもないと防げないよ。 まぁ、これからは僕が居るから
蝶姫が、いや、この城に敵が侵入する事は不可能だけどね。
僕は優秀だからさ」
いつもなら憎まれ口を叩くような淋木であるが、今日は不思議と雷火を庇うような発言をしていた。
久しぶりの再開で淋木の性格も変わったのかもしれないと思う雷火であった。
「あぁ、お前の力を頼りにしている。 明日、また四人で今後の取り決めをするとしよう」
「ん? 五人でしょ? 蝶姫も入れてあげなよ。 彼女も変わりたがっているのなら、現状とこれからの進展を知っておくべきだよ。
僕達の主君は彼女なんだからさ」
その言葉に驚く。
まさか淋木の口からその言葉が出るとは。
だが、正論である。
彼女が自分達の君主なのだ。
自分の言葉の誤りを反省し、頷く。
一悶着はあったものの、事なきを得てこの日も終わりを迎えるのであった。
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