五行の淋木
皆で食事を終え、蝶姫は自身の寝室で眠りにつく。
ここ最近は毎日が驚きの連続であり、疲れもあってかぐっすり眠られる。
そして、今日もいつの間にか眠りについていた。
暫くすると蝶姫はその場を急に起き出した。
いやな夢を見ていたとかではない。
純粋に誰かに見られてる。
そんな気がしてその場を勢いよく起き上がったのだ。
「ゴツンッ!!!」
起き上がった瞬間に、何かにおでこを思い切りぶつけた。
「痛っ!」
痛むおでこを摩りながらも暗闇の中、前の方を見ると何やら人影が。
この城は雷火の指揮の元、厳重に兵士が配備されている。
そして、この部屋ももちろん厳重に守られている。
暗殺などほぼ不可能なのだ。
それなのに、目の前には暗殺者がよく着る様な真っ黒のフードを被った者が立っていた。
見ればわかる。
仲間ではない。
殺気を放ち手には短剣を持っているのだから。
「私は影に潜むもの。 狼徳様に仇をなす者には死あるのみ」
その言葉と同時に暗殺者は蝶姫目掛けて短剣を振りかざす。
いきなりの事であり、寝起きでもあり頭が回らない。
そして、恐怖のあまり声も出なかった。
(うそ、、、せっかく皆と逢えたのにもう終わりな の? 死にたくない!)
蝶姫は迫る剣に目を背けるように思い切り目を閉じた。
「ガキンッ!!!」
突如聞こえる剣戟の声。
剣を振るわれたのに痛くない。
恐る恐るといった感じにその閉じられた瞼をゆっくりと開ける。
すると、目の前には、
「リ、淋木?」
身長はあるが、蝶姫とほとんど変わらず低め。
黒髪で片目だけ隠れており長髪を結んでいる。
口元も布で覆われており、表情は今ひとつわからない。
だが、蝶姫は淋木の顔が見えなくとも面影を覚えており、咄嗟にその名を呼んでいた。
「ここの守りは手薄すぎるよ。 蝶姫は弱いんだしも っと守りを厳重にしてもらってよ。 全く」
敵の攻撃を抑えながらも文句を垂れる淋木。
彼は昔からこんな感じの性格だ。
口調はキツめだが、面倒見が良く弱い者を放っておけない。
いや、蝶姫を放っておけないのだ。
「ご、ごめん、、、ありがとう」
「別に、蝶姫が悪い訳じゃないよ。 雷火が悪いから、、、」
気まずい雰囲気が流れる。
そして、淋木に止められている暗殺者は怒りを覚えていた。
それもそのはず。
先程からまるで自分が存在し無いかのように、目の前の小男は話し続けているのだ。
それも、自分の全力の力を軽く防いだまま。
これだけで自身と目の前の男の実力差はわかる。
だが、それでもその態度は許せなかった。
「き、貴様ッ、先程から私を無視するとは、、、許さ ん! 死ねえッ!!!」
腕は使え無い為、右足を淋木の頭目掛けてきりつける。
その蹴りは目にも止まらぬ速さであり、この暗殺者が得意とする技であった。
それに、淋木は後ろにいる蝶姫を見ている為、隙だらけである。
足の先端には仕込み刀が用意されており、これが頭に刺されば死ぬ事は間違いない。
目の前のスカした男に鉄槌を!
だが、、、そんな事は起こり得なかった。
「ザシュッ!」
「えっ、、、」
右足が燃えるように痛い。
そして、バランスを崩しその場に倒れる暗殺者。
右足が無いのだ。
(い、いったい、いつ斬った?!!! 奴の動きはずっと見ていた! な、なのに、何故?!)
状況が飲み込め無い暗殺者は足から血を流しながら困惑していた。
そんな暗殺者を見下ろす様に淋木は片方の目で睨み付ける。
「僕の前で暗殺術が決まると思っているの? 僕の名 は『淋木』、『死神 淋木』だよ?」
暗殺者はその名を聞いて背筋が凍った。
暗殺を生業にしている者なら誰でも知っている。
暗殺の極意を全て会得し、入れ無い場所はない。
そして、対人戦では無敗。
彼が暗殺に来れば、狙われた者はただ死を待つのみ。
まさに死神が現れたもの同じなのだ。
彼が現れた時点でこの暗殺者の任務は失敗だったのだ。
いや、彼の命もここまでだったのだ。
今更怯える暗殺者。
彼は元々他国で暗殺業をしており、この国に来て日が浅い。
そのため、蝶国の淋木という名がそれほど頭には残っていなかった。
だが、出会ってわかった。
彼があの死神淋木なのだと。
淋木の瞳は変わらず冷たい目をしている。
「僕は、見下ろされるのが大嫌いだ。 身長が高い奴 に見下され無いようにするにはどうすればいいと思 う?
こうやって足を斬ればいいのさ。 こうすれば、
僕が君を見下ろすことができる。 ねっ?」
先程から何を言っているのだ?
暗殺者なら、普通は息を与える間もなく殺すのが鉄則だ。
だが、過去に同業者に聞いたことがある。
ある暗殺者は必ず足を斬ってからトドメを刺す奴がいると。
そして、暗殺を一度も失敗した事がない暗殺の天才がいると。
それが目の前の淋木であった。
「ま、まさか、貴方までその女に手を貸すとは
な、、、これでは二度と暗殺はできまい」
そう。彼がいる限り暗殺は不可能だ。
彼の目を掻い潜り蝶姫に近付くなど絶対にできないのだから。
ここで殺せなかったのは千載一遇のチャンスを逃した。
そう後悔するも、すでに時遅し。
「当たり前じゃん。 僕が居るんだから誰も近づけな いよ。 それじゃあもう死んで」
淋木は表情を変える事なく、そのまま暗殺者の首を切り落とす。
そして、淋木の後ろでは呆けた顔をしている蝶姫が。
その時だった!
「バタンッ!」
「無事かッ?!!!」
勢い良く扉を開け臨戦体制の雷火。
雷火の眼前には首のない死体が一つと、殺意の籠った目を此方に向ける淋木の姿が。
またしても、一悶着が起きそうな、そんな予感がする蝶姫であった。
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