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五行の鳳金

翌朝目が覚める。

昨日までのことが夢ならばどれだけ楽になれるだろうか。


だが、これは現実だ。

寝起きも相まって呆然とする。


この見慣れない場所と背中の傷が現実なのだと物語っている。


隣では李凛がまだ寝息を立てていた。

自分より遅くまで寝るなんて珍しい。


余程疲れていたのだろう。


蝶姫は起こさないようにそっとベッドから起き上がり、着替えてその部屋を出る。


そして、廊下を通り窓から外を見る。



この階は恐らくこの城郭都市で一番高いところなのだろう。

城の内部の全貌が見えた。


王都程ではないが、かなり広い。

そして、父の昔話した言葉を思い出した。



『蝶龍城』



蝶国の最重要都市であり、敵の侵攻を食い止める役割を持つ巨大防衛都市。


過去に一度も落とされたことの無い蝶国の誇る城だ。



言われてみれば城壁も王都より高いかもしれない。


何より、街並みは美しかった。

区画整理されており、自然も豊かで城内には川も流れている。


まさにこの城が一つの国のようだった。


まだ夢見心地なのかぼーっとその景色を目に焼き付けていると、突如後ろから人の気配が。



振り返り、「雷火!」と呼ぶもそこに居たのは知らない男。



これまたイケメンであり、綺麗な黒髪を束ねており

身長は雷火よりも頭ひとつ分くらい低い。

それでも175cmはありそうだ。


なにより、その人からは知的な何かを感じた。


そして、その人からも何か懐かしさを感じる。




「あっ、ち、違いました! ごめんなさい!」



まずは人違いだったことを謝る。

するとその男は驚いた様な顔をしたと思ったら次には笑っていた。



「?! フフフッ。私に敬語は不要ですよ蝶姫様」



その言葉を聞き蝶姫も驚く。

やはり、自分を知っている人間だ。

という事は・・・・・・必死に過去を思い出し、顔をてらしあわせる。



「・・・・・・鳯金フウキン?」


照らし合わせながらも名前を呼ぶと、鳯金と呼ばれた者は笑顔になった。


「えぇ。私は鳯金です。 よく覚えていましたね。

会うのは9年振りくらいです。 まずは、ご無事で何より。

そして、国王陛下にはお悔やみを申し上げます」



頭を下げる鳯金。

彼の一連の動作は洗練されており、雷火とは違い貴族の様な感じであった。


そう。この鳯金という男も国王が拾った孤児の一人であり五行将軍の一人である。


彼は見ての通り、武勇にはこれっぽっちも自信はないが知略は群を抜いていた。


ある人物に戦略や謀略を習うと、次々と吸収し

気付けばその先生を超える存在へとなっていたのだ。


鳯金から繰り出される策略により、いくつもの敵が返り討ちとなっていた。

そのどの国も相手の方が兵力は多かったのにだ。


兵力を策で凌駕するなど、そうできるものではない。



ちなみに鳯金も歳は近く19歳である。



雷火に次いで二人目の幼なじみに会えて感激する。



「やっぱり鳯金だったのね! その落ち着いた感じ。

 絶対そうだと思ったよ! でも、どうして鳯金まで

 ここに居るの? ここって雷火の城だよね?

 鳯金の城って確か・・・・・・」



ここに来て勉強不足が仇となってしまった。


蝶姫が確実に覚えているのは蝶明城だけなのだから。

昨日説明されて、ようやくこの蝶龍城も覚えたところだ。



口篭っているとまたして鳯金は笑い、



「フフフッ、相変わらず蝶姫様は勉強していなかった ようですね。 そうです。私の城は王都の最も近くに 位置する蝶霊城に居りました。 ですが特命で呼び出 されたのです。もちろん、他の『五行将軍』達もで す」



その言葉に驚く蝶姫。


この城に蝶国が誇る五行将軍が全員集合する。


久しぶりの幼なじみに会える。


暗く沈んだ、蝶姫の心にようやく一指の光が照らす。




「本当に?! もう皆居るの?」



待ちきれないと言わんばかりに、鳯金に迫る蝶姫。

顔が近く、思わず頬を赤く染めながらも



「い、いえ、私は近くに居りましたが他の皆は遠くにいる為、もう暫くかかります。それに、ここへ辿り着くまでに、、、」



そこで蝶姫も気付いた。



「お兄様の軍・・・・・・」



そう。この国は最早兄である狼徳に乗っ取られた。

つまり、そこら中に『敵軍』が居るのだ。


もしかすると、ここへ来る迄にぶつかるかもしれない。



「えぇ、その通りです。私の持っている情報によれば 王都も含め10ある城の内、蝶姫様の兄上の支配下に ある城は全部で『8つ』です」



その言葉に驚愕する蝶姫。

だってありえない。何故ならば、、、



「そんなハズない! あなた達五行将軍にはそれぞれ城 を与えられている! つまりここも含めそして貴方達 の城も含め5つは中立のハズだよ!」



その通りだ。

五行将軍が治める城はそれぞれに一つあり全部で5つ。


8つも治めているとなると五行将軍の城も含まれてしまうのだ。


「えぇ、その通りです。私の城も含めて8つなのです。 そして、私も狼徳王子の力には驚きました。

 まさか、こちらの城にまで賛同者があんなにも居る とは思ってもいなかったのですから。

 いえ、下手をすれば五行将軍の中にも狼徳王子に賛 同する者もいるかもしれません。ですから、私は信 頼出来る仲間のみを連れてここまでやってきたので す。

 あそこにいては私まで殺されてしまいますからね。

 それほど、貴女の兄である狼徳王子は大きいので  す」



唖然とするしかない。

まさかここまで入念に準備され、掌握されていたとは思いもしなかった。


それに、蝶国の皆がここまで好戦的だとは思いもしなかったのだ。


平和ボケしていたのは自分だけであった。


五行将軍の皆もここへ来てくれるかはわからない。

もしかしたら、狼徳の元へ行ってしまうかもしれない。


そう考えるとまたしても心が痛くなってきた。




「蝶姫様、こうなったのも全て私達のせいです。

 私達が戦に勝ちすぎたが故に、狼徳王子は勢力拡大 を掲げたのです。 申し訳ありませんでした」



突如頭を下げてそう話す鳯金。


しかし、この話を聞いて鳯金達を責めるのはお門違いだ。


彼等が居なければ、とっくに外敵にやられていたのだから。

感謝こそすれ、批難する事など何一つない。


それは無関心な蝶姫ですらわかる事だ。

いや、今はもう変わった。


だからこそ、責める前にその答えを知ることが出来たのだ。


昔の自分なら今の言葉を聞いて鳯金を責めていたかもしれはい。

そう思うと自分が情けなくなってきた。




「違うよ鳯金。あなた達がいてくれたお陰で蝶国はこ こまで生き延びることが出来たんだよ。

 ありがとう鳯金。 そして、こんな情けない私が残っ てしまってゴメンなさい。 国王か獅徳が残ってれば よかったのにね・・・・・・」

 



自分じゃなければよかったのに。

他の二人が生き残っていれば立て直すことが出来たかもしれない。


少なくとも無能な自分よりは可能性はあった。


そう思うと、寧ろ謝るのは自分の方だと思い

鳯金に作り笑いを浮かべながら頭を下げた。

そして、、、




「パチンッ!」




突如頬に衝撃が走る。

あまりにも突然の事に痛みは感じなかった。

驚きの方が勝ったからだ。


そして、顔を上げると手を震わせ、怒りの表情を見せる鳯金の姿が。


よく見れば体も小刻みに震えている。


痛みよりも鳯金に叩かれた事への衝撃により目尻に涙が浮かぶ。




「ふざけないでください・・・・・・」


鳯金の声が震えている。



「残ってしまってごめんなさい? 国王陛下や王子が残 っていればよかった? ふざけた事を抜かすな!!!

 貴女を守る為に命を賭した者もいる筈です! そし  て、貴女を守る為に命を賭してここへやって来た者 もいる!!! その皆の思いを無下にして

 自分が死んでればよかった? 二度とその様な戯言を 言わないでくださいッ!!!」



鳯金らしからぬ怒声に呆気に取られる蝶姫。

そして、鳯金の気迫に思わず涙が溢れた。


あんなにも温厚な鳯金を。

一度も怒っている姿を見せたことがない鳯金を怒らせてしまった。


何回泣けばいいのだろう。

何回情けない姿を見せてしまうのだろう。


自分が情けなかった。

自分の弱さにうんざりだ。


それでも蝶姫の涙は止まらない。

泣いてばかりいることが悔しいのに止まらない。



「・・・・・・すみません。姫である蝶姫様を叩いた 罪は万死に値します。後で如何様にも処罰くださ  い」



そう言って鳯金はその場に土下座をした。

仮にも一国の姫に手を挙げたのだ。


本来なら打首は当然。下手をすれば惨い処刑が執行される。


だが、それでも鳯金は蝶姫に考えを改めて欲しかったのだ。

例え自分の命を失おうと。


未来のために。



「処罰なんてさせないよ鳯金。 弱い私の為に言ってく れたんだもん。 ごめんね鳯金。 辛い役をさせちゃ ったね。 いくつもの悲報が耳に入って私はどんどん 弱くなっていたの。 父は死に、弟は死に、兄は裏切 り、大切な仲間も死んだ。 幼なじみだってもしかし たら戦わないといけないかもしれない。 五行将軍同 士で戦争が起こるかもしれない。 そう考えると

 どんどん暗闇に潜っていっちゃうの。 私は生きたい よ。 皆の分も生きてこの国を変えたいよ。

 



 お願い 鳯金・・・・・・助けて、、、」



そう言って泣き崩れる蝶姫を抱き締める鳯金。



「わかっています。 こんなに立て続けに苦難がくれば 誰だってこうなります。 嫌でも悲観してしまいま  す。 ですが、貴女にはまだ私達がいます。 国王陛 下の為にも、獅徳様の為にも。 貴女にはたとえ辛く ても立ってもらわなければいけないのです。 ですが 今すぐ泣き止むなとは言いません。 今は私の腕の中 で涙が枯れるまで泣いてください。 今の私には貴女 の涙を拭う事しかできないのですから、、、」



そう話すと、蝶姫はまたしても子供のように泣き出した。

塞き止めていたダムが決壊したかのように。


(私は国王陛下に忠誠を誓いました。そして、今は

蝶姫様、貴女に忠誠を誓ったのです。 必ず守りましょう。我が策にて)


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