戦乱の世
城壁の上から朝日が昇るのを見つめる蝶姫。
仲のいい者からは蝶姫と愛称で呼ばれている。
銀色の美しい髪が風に靡く。
そして、その瞳はサファイアの様に青く美しい。
齢16歳ながら、戦火の中に生まれた少女。
彼女の住む国は蝶国と呼ばれており蝶姫は王族であり、王女である。
彼女が住む国の他にもこの大陸には8つの国が存在する。
一番大きな国は200以上も城を所持しており、城の多さがその国の強さを示す。
城をたくさん所持している国が強国。
逆に城をほとんど持たない国が弱国である。
ちなみに、蝶姫の住む蝶国はといえば
保有する城の数は、僅か10---。
8つの国の中でも一番国力が弱く、いつ滅んでもおかしくは無い状況である。
この世はまさに戦乱の世であり、日々戦争が起きては城の取り合いとなっていた。
皆が剣を持ち、槍を持ち、矢を放ち戦いつづける。
何百年と戦争が続いてるこの乱世。
何年も何十年も何百年も戦い、国力はその時によって変動している。
それこそ近年でいえば蝶国は、二番目に国力が大きかったのだ。
しかし、蝶姫の祖父の代で一気に衰弱し、何十、いや
何百近くもの城を取られ気付けば8大国最弱となってしまった。
決して祖父が弱かったわけではない。
むしろ善政を敷き兵はもちろん民からも慕われていた。
善王と呼ばれるほどに国を愛し民を愛していた。
では、何故国力がこんなにも減ってしまったのか。
理由は2つ。
まずは大飢饉による食糧難。
この大陸のほとんどが影響を受けたが特に蝶国の受けた被害は甚大であった。
これだけでも、蝶国は国力を著しく低下してしまったが、更なる追い討ちが蝶国を襲う。
ーーー反蝶国同盟が結ばれたからだ。
当時2番目の大国である蝶国は、小国に恨まれていた。
何故、1番大きな国ではなく蝶国が狙われたか。
それは単純明快である。
1番の大国よりも2番目の蝶国の方が大飢饉により弱体していたからだ。
大飢饉、、、そして反蝶国連合。
如何に善王と呼ばれる者でも、神ではない。
兵も民も飢え、抗うことなどできなかったのだ。
そんな肉体的にも精神的にも疲労が重なり、祖父である国王は亡くなった。
国王も失い、蝶国が滅びるのも時間の問題。
敵国だけでなく蝶国でさえもそう感じていた。
だが、そうはならなかった。
蝶国が滅ばず済んだ理由は、1つ。
5人の将軍の支えがあったから
『雷火』、『緋水』、『淋木』、『竜土』、『鳯金』。
この5人、即ち『五行将軍』と呼ばれている者達のおかげで蝶国は滅ぼされずにいるのだ。
この五人の戦ぶりは凄まじく、劣勢な戦況であろうと各所で勝利をおさめ次第に列国の間でも
『蝶国に五行将軍有り』という言葉が広まり、蝶国に手を出す国は次第に少なくなってきていたのだ。
そして、その5名は皆が元孤児であり蝶姫の父、蝶国の現国王である蝶徳王が拾い育てたのである。
皆が蝶姫と歳が近い事もあり、幼少期は家族の様に過ごしていた。
家族同然に暮らし、年月が経ち、皆が歳を重ねるにつれて、それぞれが才能を開花させあっという間に5人とも将軍の位へと上り詰めてみせたのだ。
蝶徳王がこの5名を見出す事が出来なかったのならば
蝶国はとっくに滅んでいただろう。
それほど、今の蝶国には欠かせない5人なのである。
戦も減り、平穏な日々を過ごす蝶姫は、昇る太陽を見つめていた。
数年前まで戦続きであったのが嘘のように平穏である。
そう思いふけながら、蝶姫は朝日を静かに見つめていた。
ー場所は変わり宮廷ー
「また北の方で雷火が牛国の軍を打ち破ったそうだぞ!」
蝶国の宮廷で大臣がそう話すと周りから歓声が湧き上がる。
前までの連敗が嘘のように今では日々連勝の吉報が報じられ、蝶国の士気は益々うなぎ登りとなっていた。
そして、玉座に座るは蝶国の王である蝶徳王だ。
その左右には三人の子供が。
長兄である狼徳王子。
長女である蝶姫。
そして次兄の獅徳王子だ。
狼徳は今年20を迎え、獅徳王子はまだ10歳である。
狼徳は勇猛であり、血気盛んな男であり次期国王と言われている。
だが、この狼徳には一つ問題があった。
戦争狂いであり、毎度父に勢力を広げるよう進言しているのだ。
勢力を広げてもそこを支配する領主や民が居なければなんの意味もない。
ましてや、ついこの間まで大飢饉に合い国力だって回復はしていないのだ。
現国王、蝶徳の父は国力の回復、復興を今は進めたいと思うのであった。
だが、狼徳はそんな事を気にする男ではない。
とにかく城を取り戻し、国を広げたい。
そうーーーかつての大国蝶国のように。
意見の相違により、国王は蝶徳としばしば喧嘩をするのである。
そして、次兄である獅徳は全くの正反対でおり
戦争を嫌っている。
まだ10歳ではあるものの、この戦乱の世を理解しており自国の立場もわかっていた。
そして、何よりも民を蔑むこと無く、よく一緒に畑仕事なんかも手伝っており、民の皆から息子のように愛されているのだ。
兵たちから慕われているのは兄である蝶徳であろう。
しかし、民から好かれているのは間違いなく獅徳であった。
そして、国王の本心はというと長兄ではなく、次兄である獅徳に国王へとなってもらいというのが本心だ。
だが、そんな事をすれば当然蝶徳は反旗を翻す。
そして、兄弟で争う事になる。
だから、その選択は頭の中から除外したのだ。
最後に娘である蝶姫であるが、好戦的か平和的か。
いや、そのどちらでもなかった。
全くの無関心であり、何も考えていない。
毎日同じことを繰り返し同じ日々を過ごす。
それが蝶姫の生活だ。
現に、今も王の間には居るが大臣たちの話など何一つ聞いていない。
皆が雷火の戦果にどよめく中、蝶姫だけは無表情であり、心ここに在らずといった感じだったのだ。
理由はわかっている。
早くに亡くなった妻が原因であろうと。
獅徳を産んで僅か数年。
流行り病に伏せてしまったのだ。
そこからは男手一つ、そして使用人達の力を借りて育てここまで育て上げてきた。
そして、本日の会合は終了し、皆が席を外す。
残ったのは国王とその子供達。
国王である父が口を開こうとしたそのとき、
長兄である狼徳が国王の前に立つ。
「父上! 雷火の戦果を聞いたでしょう?! 今こそ攻めるときです! 相手が弱っている今が攻め時なのです! 私に出陣の許可を!」
すごい気迫で迫る王子。
勢力を広げるなら獅徳の言う通りである。
だが、国王は首を横に振っていた。
「獅徳よ、前にも言ったであろう。城が増えても人材や富、食糧が増えなければ意味が無いのだ。
この国に城の領主たる逸材が何人いる?
我が国の城は10。 過去には何百個も城があった。
だが、どうなった? 大飢饉により、そして皆から攻められここまで低下してしまった。
今残っている城は我が国の主要たる将軍が治めているが故にここまで持っている。
わかってくれ。戦争を起こすなとは言わない。だが、時期がまだ早いのだ。国力を蓄えてからでも遅くはなかろう」
その通り。
蝶国は勢力も乏しいながら、人材も不足しているのだ。
五行将軍が居るが、それも5人だけなのだ。
そして、残る城も5名の有能な将軍や大将軍が治めている。
それだけだ。
後はせいぜい村を治められる程度の人間ばかり。
だから、戦をしかけ城を奪っても統治することは出来ないのだ。
それになにより、食料問題が加算される。
頭ではわかっているのであろう。だが、それでも、狼徳は納得が出来ないといった様子で舌打ちをする。
「ちっ! 人材など敵を捕らえて仲間にすればいい!
食料など敵地から略奪すればいい!
勢力圏の中心地に位置する城など無能な奴に治めさせればいい! 大事なのは敵国と隣接する城だけです!
どうやら、父上とは話が合わないようですね。失礼します」
そう父に怒鳴り散らかすと狼徳はズカズカと歩きその場を後にした。
「はぁーーー、、、」
思わず溜息をこぼす国王。
「父上、僕は戦争は嫌いです。平和に暮らせる今のままではダメなのでしょうか?」
目をうるうるとさせ国王にそう伝える次兄の獅徳王子。
「そうだな。ワシもそう思う。わざわざ命を危険に晒す必要などない。それぞれの国がそれぞれの民と平和に暮らせばいい。常日頃思っておる。
お前だけはその心をずっと持っているんだぞ?」
国王の言葉に元気よく返事をする獅徳。
そして、国王は横目で蝶姫を見るも、全く関心が無いようで上の空であった。
(やれやれ、少し甘やかしすぎたかのう。しかし、どこか妻と似ている為怒ることもできぬ。せめて兄弟仲良くしてほしいものだ)
何か言う訳でもなく、ただただ座っているだけの蝶姫。
そんな蝶姫の行く末を心配する国王。
だが、後に蝶姫の運命を変える出来事が起こるのであった。
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