クマとみんなの仲直り
遅刻しました。
冬童話、今年も参加させていただきます。
皆さんにとってのたからものって何ですか?
忘れかけていたものを思い出していただければ幸いです。
それではどうぞ、お楽しみください。
秋の終わり、ソラちゃんの通う幼稚園で大事件がおきました。
ソラちゃんのいるすみれ組には、おもちゃがたくさんありますが、なかでも一番人気なのは、たった一つの茶色いクマのぬいぐるみ。すこし汚れていますが、ギンガムチェックのサロペットを着こなす、オシャレなクマさんです。そのクマのぬいぐるみが、壊れてしまったのです。
「あー! レンくんが壊した!」
怒ったソラちゃんの指差す先には、ちぎれたクマの手が握られていました。
すぐさまレンくんも反論します。
「だって、ソラちゃんが貸してくれなかったんだもん!」
「私が遊ぶ番だったもん!」
負けじとソラちゃんも言い返します。
「どうしたの?」
「なになに?」
騒ぎを聞きつけて、みんなが集まってきました。
「レンくんとソラちゃんが壊したの!」
「違うもん! レンくんだもん!」
「ソラちゃんが悪いもん!」
お部屋の中は大騒ぎ。
もう、収拾がつきそうにありません。
みんなが大騒ぎする中、気弱なニコちゃんはアタフタ。
「どどど、どうしよう……あっ!」
すると突然、ニコちゃんの目の前で、ソラちゃんに抱かれたクマさんがガサガサ揺れ始めたのです。
「わわわっ! 何これ!」
ビックリしたソラちゃんは、クマさんを落としてしまいました。
床に落ちたクマさんは、グラグラ揺れたかと思うと、ズンズンズンと、大きく、大きくなって、次第に本物のクマよりもずっと大きくなったのです。
「クマアアアア!」
お部屋の天井に頭をぶつける程大きくなったクマさんは、大きな声で叫びます。
みんなは見上げて口をあんぐり。
大きなクマさんは、片方の腕を振り回して大暴れ。どうやらクマさんは怒っているようです。
「どうしたらいいのかな……」
みんなで顔を見合わせ考えます。
「そうだ、お手てを戻してあげよう!」
賢いミオちゃんがひらめきました。
「そうだね! 戻してあげよう!」
「でも、どうやって?」
辺りを見ると、糊が落ちていました。
お部屋の飾りつけをするときに使ったものです。
「アレを使えばいいんじゃない?」
「さんせーい!」
ミオちゃんの提案にみんなが万歳しますが、
「でも、届かないよ……」
見上げたニコちゃんが肩を落とします。
なにせ、クマさんは超巨大。簡単に登れはしないでしょう。
「僕に任せて!」
そんな時、マントを付けて颯爽と現れたのは、力持ちのハルトくん。ハルトくんは木登りも得意なのです。
「行ってくるね!」
レンくんの握るクマさんの手を貰うと、服の中に仕舞いました。
「よいしょ。よいしょ」
「頑張れー!」
一生懸命、クマさんの体を登るハルトくんを、みんなで下から応援します。
「クマアアアア!」
登られて気になるのか、クマさんは振り払おうとさらに暴れます。
「ダメー!」
「クマさんこっち!」
ハルトくんの邪魔をさせまいと、みんなで両手を大きく振りながら飛び跳ねて、クマさんを惹きつけます。
「あとちょっと!」
「頑張ってー!」
ついに、ハルトくんがクマさんの肩に辿り着きました。
「えい!」
ちぎれたクマさんの手に、糊をたっぷり塗って貼り付けます。ちぎれた手も大きくなり、大きなクマさんと合体しました。
「やったー!」
これで元通り。みんなも大喜びです。
「とう!」
ハルトくんは飛び降りてカッコよく着地しました。まさしくみんなのヒーローです。拍手喝采を受けて嬉しそうです。
でも、クマさんは小さくなっておらず、まだ怒っているみたいです。
「どうして?」
「もう元通りになったよ?」
みんなは考えます。
すると、気配り上手なイツキくんがお部屋の端っこを指差しました。
「あそこにボタンが落ちてるよ!」
「ホントだ!」
レンくんが駆け寄り、拾い上げます。
「引っ張った時に取れちゃったのかな……」
どうやら、クマさんのサロペットに付いていたボタンのようです。
「任せて!」
活発なヒマリちゃんが、胸を叩きます。
「任せた!」
レンくんがボタンを渡すと、ヒマリちゃんはスルスルスルーっと、登っていきます。
「邪魔しちゃダメだよ!」
みんなも応援しながら、クマさんの動きを止めます。
「えい!」
サロペットのボタンがちぎれたところに辿り着くと、ぺったんとボタンを貼り付けました。
「やった! やったー!」
みんなで大喜び。
「クマアアアア!」
ところがどっこい。クマさんはまだまだ怒っているようです。
「うーん、何がいけないんだろう……」
みんなは困ってしまいました。
「もしかしたら、お腹が空いているんじゃないかな?」
そう言ったのは、物知り博士のアヤトくん。
「クマさんは冬眠するんだ。冬眠前にはごはんをいっぱい食べるんだよ!」
「へー」
アヤトくんの豆知識にみんなは感心。
「じゃあさ、みんなでごはんを取りに行こう!」
「さんせーい!」
ミオちゃんの案に、みんなも手を挙げます。
みんなは一斉に園庭に行くと、ごはんになりそうなものをたくさん拾ってきました。
ミミズにバッタ、ドングリや銀杏、泥団子まであります。
「召し上がれ!」
クマさんは、並べられたごはんの前で腕を組み、じっと見つめますが、
「クマアアアア!」
と、再び怒りだしてしまいました。
「あれれ? 食べ物が違ったのかなぁ……」
アヤトくんは首を傾げて、図鑑を広げます。
すると、パタパタ音をさせて、イズミ先生がやってきました。
「何の騒ぎって――きゃああああああ!」
お部屋の中を覗いた瞬間、腰を抜かしてしまいました。
「イズミ先生、大丈夫?」
みんなが駆け寄ります。
「あ、ありがとう。ええ、大丈夫よ。それよりどうしちゃったの?」
「実は、かくかくしかじかで……」
イツキくんが先生に事情を説明します。
「なるほど、そういうことね!」
ぽんと手を打つと、イズミ先生はソラちゃんとレンくんを呼び寄せます。
「二人共、ちゃんとクマさんにごめんなさいは言ったの?」
「だって……」
「元には戻したよ」
そういう二人に、先生は叱ります。
「コラ! クマさんの気持ちを考えてあげた? クマさん、痛かったと思うよ」
「あ……」
二人は顔を見合わせて、頷きました。
「クマさん、ごめんなさい!」
二人で一緒に頭を下げます。恐る恐る、顔を上げてみると、クマさんは悲しげに俯いていました。
「クマァ……」
「あれれ? どうしたんだろう?」
「先生、ごめんなさいはしたよ?」
「うーん……」
先生も腕を組んで唸ります。
「ソラちゃん」
ふと、レンくんがソラちゃんに声をかけました。
「なぁに?」
首を傾げるソラちゃんに、
「勝手に取ろうとしてごめんなさい」
ぺこりとお辞儀をしました。
それを見て、ソラちゃんもハッとします。
「私もわがまま言ってごめんなさい」
「いいよ」
「私もいいよ!」
ソラちゃんとレンくんは固い握手を交わしました。
そして、ソラちゃんはクマさんに向き直ると、
「わがまま言って、ごめんなさい。だから、みんなと一緒に遊ぼうよ!」
そう言って、両手を広げます。
「く、クマアアアア!」
クマさんは嬉しそうに叫ぶと、グングン小さくなって、ソラちゃんの胸元に飛び込んできました。
みんなも大喜びです。
それから、たった一つの宝物は、綺麗に洗われて、いつまでも大事に大事にみんなと遊びましたとさ。
おしまい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
ここから少し長い解説です。どうでもいい方はスキップしてください。
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コンセプトには、『破壊と再生』『魂の器』『愛のカタチ』の三つを掲げて書き上げました。
裏テーマとしては『誰かの為に』を掲げ、その善意が相手にとって本当に必要なものなのかというと、そうではないということ、他人は何処までいっても他人だということ。それをわかったうえで、我々はどう行動するべきなのか、それを問いかける作品になればいいなと思います。
……裏と表が逆転しているようにも見えますね(汗)。
しかしながら、本テーマの『ぬいぐるみ』の上に被せるストーリー構成は実際にコンセプトの通りになります。
『破壊と再生』
壊れるところから始まるこのお話。
壊れたのはぬいぐるみそのものでもありますが、彼女たちの人間関係にもヒビが入っています。
そこから急速に再生していくわけですが、『再生』と銘打つ通り、一度壊れた事実は覆せません。
ですが、それは取り戻せない意味ではなく、傷の再生のように、より強固なものとなって復活するポジティブな意味を持たせています。(子供達にはあえて『元通り』と言わせていますが)
『魂の器』
クマのぬいぐるみが意思を持って暴れる今作。彼(?)が意思を持つに至った経緯は、数々の子供達から沢山の、それこそ数えきれない、計り知れない量の愛情を注いできたことにあります。
モノには魂が宿ると言われることもあります。その器が今回の『クマさん』だった訳です。
(汚れが蓄積しているのは……)
『愛のカタチ』
そんなクマさんの為に奔走する子供達。
それぞれが持つ『愛のカタチ』は至る所で見つけることができたかと思います。
どんな『愛のカタチ』でも受け入れてくれるかというと、そうではありませんよね。望む『カタチ』でなければ、そのピースは組み合わさらないのです。
そこに気づかせてくれる『先生』と、『子供達』でした。
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以上、解説終わり。
久々に童話書くの、楽しかったです。
企画もまだスタートしたばかりなので、私もいくつか拝見させていただければと思います。
最後に。
楽しんでいただけたのであれば、是非、評価・感想・ブクマお待ちしております。
近所迷惑にならない程度に飛び上がります。
アイデアをくれた方々へ感謝を。
では、またどこかで。