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9.先輩たち

 男性はメガネをくいっと持ち上げる。

 見るからに真面目そうな人だ。

 隣の女の子は対照的に、はち切れんばかりの元気を感じる。

 見た目の印象だけど、座って仕事をするより、外を動物と一緒に駆け回っていそうな……。

 身長が私よりも低いから年下だろうか?

 二人ともそれほど歳は離れていないように見える。


「ここで働く……ということはつまり……」

「後輩っすか!」


 元気な彼女が前のめりになりながら瞳を輝かせる。

 その瞳からは期待があふれ出ていた。


「まさか殿下! うちのために後輩を連れてきてくれたんすか?」

「そんなわけないだろ」


 リクル君は呆れながらつぶやいた。

 彼女は見た目通り元気がいい。


「やったっすよ! しかも女の子っすからね! やっとメガネ先輩と二人きりの職場から解放されるっす!」

「その呼び方はやめてくれ……そんなに僕と二人は嫌だったのか? それはそれでショックなのだが……」

「あーそういうわけじゃないっすよ! 別に嫌とかじゃなくて、ただその……飽きたっていうか」

「飽きたのか……」


 メガネ先輩はしょんぼりして落ち込んでいた。

 彼のほうが先輩で、女の子のほうが後輩らしい。

 なるほど。

 無性にしっくりくる。


「まぁいいじゃないっすか! 新しい後輩っすよ先輩? 嬉しくないっすか?」

「感情的問題は重要じゃない。ここで大事なのは、人手が増えて仕事効率があがるということで」

「あーお堅いっすね。そういうところばっかだとつまらない男って思われるっすよ」

「ぐっ……僕はつまらない男だったのか」


 なんだろうこの感じ……。

 二人のやり取りを見ているだけで、場が和むというか。

 ふいに笑ってしまいそうになるのは。

 二人の会話を聞きながら、リクル君が呆れて呟く。


「お前たちは相変わらずだな」

「普段からこんな感じなの?」


 私は彼にしか聞こえないように、小声で質問した。

 リクル君も小声で返す。


「ああ。見ていて飽きないコンビだぞ」

「ふふっ、そうみたいだね」


 リクル君も少し楽しそうだ。

 私もまだ初対面だけど、この二人のやり取りは見ていて楽しい。

 思っていた以上にフレンドリーだし、仲良くなれそうだ。


「で、いつまで遊んでるんだ? いい加減お前たちも自己紹介をしろ」

「あ、そうだったっすね!」

「失礼しました。では僕から」


 メガネの先輩はごほんと咳ばらいをする。


「初めまして、セルビアさん。僕はルイボス・マキスエル、宮廷調教師の長をしています。適性は召喚、サモナーです」

「ウチはリリンっす! 適性は調教、テイマーっすね! よろしくっす!」

「はい。よろしくお願いします」


 ルイボスさんがサモナーで、リリンさんがテイマー。

 部屋には二人しかいなかった。

 私はキョロキョロ見回しながら、ぼそりと呟く。


「他の方は……?」

「ウチらだけっすよ!」

「宮廷調教師は僕と彼女の二人だけです」

「そうなんですか?」


 私は確かめる様に視線をリクル君に向ける。

 彼はこくりと頷く。


「ああ。うちで働いてる調教師は二人しかいない。お前のいた国じゃ、もっと大勢いたかもしれないがな」


 セントレイク王国の宮廷では、三種の適性全て合わせると二十人以上の調教師が在籍していた。

 私が抜けたことで一人減ったけど、レイブン様が新しく連れてきたから、今はもっと人数が多くなっているだろう。

 それに比べたら……二人はかなり少ない。

 王国の規模に対して考えても少ないんじゃないかな?


「憑依適正、ポゼッシャーはいないんですね」

「憑依に適性がある人間はより少ないんだ」


 ルイボスさんがメガネをくいっと持ち上がて話す。

 その動作が癖なのか?

 ちなみに彼が教えてくれたことは、当然私も知っている。

 テイマー、サモナー、ポゼッシャーの順で適性者は少なくなる。

 さらに複数適性となればもっと少ない。


「だからこそ、セルビアの力が必要だったんだ」


 と、リクル君は真剣な眼差しを向けながら言う。

 国にとって調教師の人数や質は、国の未来、安全にかかわる重要な要素だ。

 今の二人が悪いわけではなく、人数の差はそのまま国力の差に繋がりかねない。

 弱い国は淘汰されるか、他の国に取り込まれる。

 平和になった現代でも、侵略戦争を仕掛けてくる国はいる。

 そういう危機に立ち向かうためにも、国は力を示さなければならない。

 リクル君が私を頼ったことには、この国を脅威から守りたいという思いも込められているのだろう。


「待望の新人さんっすっからね! 何か困ったことがあれば、このリリン先輩に聞くといいっすよ!」


 えっへんと胸を叩く。

 その隣で、眼鏡をくいっと動かす。


「いや、僕に聞いてもらったほうが早いな」

「あ、ずるいっすよ先輩! また先輩だけ先輩面する気っすか!」

「先輩だから当然だろう?」

「ウチだってこれからは先輩なんすからね!」


 なぜか言い合いを始めてしまう。

 職場仲間とは思えないほど、二人は仲がいい。

 人数が少ないからこそ?

 どちらにしろ、少し羨ましい。


「争ってるところ悪いが、むしろお前たちのほうが学ぶことが多いと思うぞ?」

「え?」

「どういう意味でしょう?」


 リクル君はニヤリと笑みを浮かべる。


「セルビア、お前の適性を教えてやってくれ」

「私が?」

「自分で言ったほうがいい。堂々とな」


 私に注目が集まる。

 緊張する中で、私は口を動かす。


「私の適性は、調教、召喚、憑依です」

「な、え……」

「それはつまり……」


 二人の目が、大きく開く。

 驚きのあまり。


「彼女はビーストマスターだよ」

「「え……ええええええええええええええええええええ」」


 直後、二人の声が部屋中に響く。

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