閑話 夢の中で
憑依者、ポゼッシャー。
異界の存在を自らに憑依させ、依代として力を振るう。
対象と深く関わり、お互いの利害が一致しなければ憑依は成立しない。
それ故に、対話は必要不可欠だ。
異界の存在とどうやって会話をするのか?
答えは、そう。
夢の中で――
「こんばんは、大魔王サタン」
真っ白な空間。
私の眼前に、紫色の炎が揺らいでいる。
『こうして言葉を交わすのは一年ぶりか』
「はい。お久しぶりです」
『ふっ、久しくはないだろう? 余の魂はお前と繋がっているのだから』
魔界の王サタン。
私が憑依できる存在の中でダントツの力をもつ。
彼がその気になれば、僅か数分で世界の半分を破壊できる。
そんな存在を憑依できる私は、世界を傾けるボタンを握っているようなものだ。
責任は重大。
一挙手一投足が世界の命運を握る。
と、普通はそうなる。
「最近は何をされていたんですか?」
『変わらず退屈しのぎだ。余に挑む者も少なくなったのでな』
「それは当然ですよ。あなたは最強の悪魔ですから」
『ふっ』
私たちの間に、明確な優劣はない。
どちらが上とか下とか、そういうものは存在しない。
相手は魔界の王様だから、当然私も敬う気持ちは忘れていない。
だけど彼はそういうのが嫌いで、変に畏まることを望んでいなかった。
その辺りはリクル君と似ている。
やっていることは真逆もいいところだけど。
『それで、何の用だ?』
「報告です。この度、宮廷を辞めることになりました」
『そうか。何か心境の変化でもあったのか?』
「いろいろありました。今はリクル君の国で働いています」
サタンはリクル君のことを知っている。
私が何度か話しているから。
これまでの経緯も説明して、彼は納得して炎が揺らぐ。
『お前が決めたことだ。好きにするといい』
「ありがとうございます。一応、報告しておこうと思って」
『よい心がけだが気遣いは無用だ。余もお前も、己が目的のために利用しているにすぎん』
「そうですね」
彼には目的がある。
それが何なのか、私も知らない。
少なくとも、世界をどうこうしたいとか、人間を滅ぼすみたいな悪いことじゃないらしい。
気になるけど聞いても教えてくれないんだ。
そのうちわかる。
楽しみにしておけ。
そう言っていつもはぐらかす。
『話は終わりだな? ならば戻れ』
「はい」
『新たな門出だ。くれぐれも気をつけろ。お前は貴重な存在なのだから』
「はい。また、何かあったら」
私に力を貸してください。
その言葉を最後に、夢の時間は終わる。
サタンの望みが何なのか。
知られる日が楽しみだ。
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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