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40.今日を生きる

書籍化・コミカライズ決定!

 周囲を見渡す。

 上空、目の前には煩わしいハエの王。

 ニヤリと笑う。


『そうか。久々に余を呼び出した理由はハエ退治か』

(すみません)

『ふっ、謝る必要はなかろう。余も応じた。ハエごときが王を名乗るなど……余が認めておらんのでな』

(じゃあ、お願いできますか?)

『そのために来た』


 ハエの王が叫ぶ。

 空気が軋み、恐怖は伝播する。

 王都の人々が震え、怖がっているのがここまで伝わる。


『騒ぐなハエ。お前のような羽虫は――燃えて死ね』


 魔界の王サタン。

 かの王の力は単純にして最強。

 無尽蔵の魔力と、圧倒的な魔法センス。

 言葉だけで発動した魔法によって、炎の渦が生成される。

 ハエの王が生み出した眷属ごと燃やし尽くす。

 同じ王、魔界を統べる者。

 しかし圧倒的な差が生まれている。

 その理由はひとえに、召喚者の力量。

 召喚術によって呼び出された場合、消費する魔力量の多さで強さが決まる。

 

『ふっ、不完全な顕現では余には勝てん。諦めよ、ハエの王』


 対してこちらは憑依。

 私の魔力を使い、魔王サタンは連続で炎を放つ。

 ハエの王ベルゼブブはなすすべなく燃えつき、消滅した。


『つまらんな』

(ありがとうございます)

『よい。退屈凌ぎにはなった。余は戻るぞ』

「――はい」


 わずかな憑依だけど、サタンを憑依するのは魔力の消耗が激しい。

 ただ、これで終わりじゃない。

 私はビーストマスターとして、この国の人々を守る責任がある。

 だから果たそう。

 その責任を。


「サモン、ウロボロス」


 大蛇の魔物ウロボロス。

 有する能力は時間の回帰。

 人々はハエの王によって恐怖を覚えてしまった。

 せっかく楽しい触れ合いの時間も、恐怖で上書きされた。

 だから戻す。

 彼らが恐怖を感じる前に、記憶を巻き戻す。


「リクル君には……あとで説明しないとね」


 対象は王都に住まう人々。

 王城にいる人間には作用しない。

 説明と周知は、後々必要になってくる。


「これで……終わり」


 時間の回帰は済んだ。

 人々はすでに忘れてしまっているだろう。

 ハエの王の恐怖も。

 

「ふぅ……」


 私はアルゲンの力を借りて地上に降りる。

 ちょうど真下は誰もいない庭の隅っこだった。

 サタンの憑依にウロボロスの召喚。

 さすがの私も……。


「ヘトヘトね」

「――! 貴女は……」


 聞くまでもない。

 彼女こそが私と同じ……。


「イルミナよ。アトラスから聞いているでしょう?」

「……やっぱり、あなたが召喚したんですね」

「ええ。あなたとアトラス、他の二人もまとめて攫ってしまうつもりだったのだけど……残念ね。アトラスには裏切られてしまったわ」

「そうですか」


 アトラスさんは彼女の誘惑に打ち勝ったみたいだ。

 やっぱりこの国で働くほうが幸せだと、彼も思ってくれたらしい。

 似た境遇の人間として素直に嬉しい。


「笑っているのは余裕かしら?」

「……どうしてここに?」

「決まっているでしょ? 今のあなたなら簡単に連れていけるわ。他はダメでもあなたさえ手に入れば陛下も大喜びされるわ」

「……戦争をするつもりですか?」

「お望みなら、ね? けど、この国が私たちの国と戦えるかしら? あなたを失って」


 それは……難しいだろう。

 私がいなくなれば、戦力の大半はウエスタンに移る。

 そうなれは一強。

 ウエスタンが世界最大の国家になる。

 誰も挑んでくることはない。

 

「安心しなさい。あなたは貴重な人材よ。だから丁重に扱うわ」

「……そんなこと望んでません」


 絶望的な状況。

 それでも私は笑みを浮かべる。


「私の望みは、この国にいることですから」

「……そう、だったら力づくで」

「それは困るな」


 この声は――

 私は振り返る。


「リクル君?」

「第一王子……」

「ご苦労だったな、セルビア」


 彼は私の隣に歩み寄り、ポンと軽く肩を叩いた。

 優しい笑顔だ。

 見ているだけでホッとするような。


「何をしに来たのかしら? ただの人間が」

「もちろん、彼女を守るために来たんだ。彼女は渡さないぞ」

「できると思っているの? 私はビーストマスターよ」

「そうだな。確かに無謀かもしれない……本体ならな」


 彼女は眉をピクリと動かす。

 どうやらリクル君も気づいていたらしい。

 目の前にいる彼女は本体ではない。

 おそらく悪魔の力で作り出した人形だ。


「気づいていたのね。いい目を持っているわ」

「それはどうも」

「けど、甘いわね。偽物の身体でも召喚術は使えるわ。だから……サモン――アンデッドリッチー」


 死者の王を召喚するつもり? 

 だったら私が!


「ポゼッション――ウリエル」

「なっ……!」


 召喚された死者の王は、まばゆい光によって一瞬で浄化された。

 私じゃない。

 今の力は……。


「リクル君?」


 憑依している。

 リクル君に、神の使者……大天使が。

 

「第一王子が憑依使いだったの? そんな情報どこにも」

「当然だ。誰も……父上も知らないからな」


 声はリクル君のままだ。

 つまり能力だけを憑依させた状態らしい。

 私は困惑する。

 当然、私も聞かされていなかった。

 彼が憑依使いで、しかも大天使と契約しているなんて。


「いい機会だから覚えて帰れ。この国には彼女たちだけじゃない。俺もいる」

「くっ、あああああああああああああああ」


 彼女は燃える。

 神の炎に包まれて。

 偽りの身体は燃え尽きる。


「これで終わり、だな」

「リクル君!」

「な、なんだでかい声だして!」

「ビックリしたよ。なんで憑依使いだって教えてくれたなかったの?」


 私は咄嗟に詰め寄った。


「驚かせたかったから黙ってたんだ。本当はこんな形で見せるつもりはなかったんだが……まぁいいか。他の奴らには言うなよ? 俺たちだけの秘密にしてくれ」

「うん。王子様が大天使の力を使えるなんて知ったら、きっと大騒ぎになるよ」

 

 彼が力を隠していた理由は、ただ驚かせたかったからだけじゃないはずだ。

 私はあえて聞かない。

 いずれ彼のほうから話してくれると信じて。


「さて、これから騒がしくなるな」

「そうだね」


 これで完全に、ウエスタン王国とは敵対することになりそうだ。

 平和な時間は……終わってしまう?

 ううん、そうはさせない。

 日常を守るために、私はここにいる。


「守ってくれてありがとう。今度は、私が守るね」

「無茶せずにな。って、言っても無駄だろうけど……」

「ふふっ」

「まぁ、お互いに守り合えばいいさ。そのための力が俺にもある。だから頼っていいぞ。困った時は俺も頼る」

「うん。一緒に頑張らなきゃね」


 一人は王子として国を守る。

 一人はビーストマスターとして国を守る。

 守りたいものは、互いに同じだ。


 この国を、平穏な日常を、幸せな時間を守り抜く。

 そのために、今日を生きよう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みしましたw メガテン好きには面白いですね! [一言] メガテンをファンタジーに放り込むとこんな感じかなって思いましたw 特に召喚と憑依www テイムは元々ファンタジーだと定番なイメ…
[一言] 作品の好みでは新作よりこちらの方が好きですね。 再開を楽しみにしております。
[一言] ハエに対してサタン!?とワクワクしてましたがそこに大天使までとは 大物が出てくると興奮しますね 最後はあっさり終わってしまいましたがこの二人はこういう形ででも良いのかもしれませんね
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