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38.ハエの王

 違和感。


「……」


 触れ合いイベント最終日。

 いつも通りに仕事をする。

 来てくれている人たちも笑顔で、とても有意義な時間を過ごせている実感はある。

 だけど、この違和感は何?


「ねぇママ、さっきからハエがいっぱい飛んでるよ」

「気にしないの。これだけ動物がいるんだから、ハエくらい集まるわ」

「ハエ……」


 そういえば、さっきから私の周りを何匹か飛んでいる。

 虫なんて魔物たちの世話をしていたら頻繁に見かけるし、気にもしていなかった。

 子供の声をきっかけに気にし始める。

 確かにちょっと多い。

 飲食類の販売もしているせいだろうか?

 それにしては、私の周りに集まっているような……。


「――? どうしたの?」


 私が連れてきた魔物たちが、グルグルと唸っている。

 こっちを見ているようで、私に対してじゃない。

 お客さんに向けての威嚇でもない。

 

 ハエに?


 改めて飛んでいるハエを意識する。

 別に普通のハエだ。

 テイムやサモンで生じる他者の魔力は感じない。

 小さすぎて感じ取れていない……というわけでもなさそうだ。

 普通のハエに敵意はない。

 しかしなぜか、意志を感じてしまう。

 私の周りばかり飛んでいるのも、私を見ているから?

 だとしたらこのハエたちは……。


「ハエ……ハエ……ハエの王?」


 ある大悪魔が思い浮かんだ直後だった。

 今度は疑いようもない。

 膨大な魔力の流れを知覚し、誰よりも早く空へと視線を向ける。

 そこに展開される巨大な召喚陣。

 召喚が開始される前に、私はそれがなんなのか理解する。


「なんだ? 演出か?」

「姉さん!」

「セルビアさん、これは?」

「私じゃありません!」


 その一言に、周囲の人たちへ緊張が伝播する。

 直後、召喚陣は光を放ち発動する。

 現れたのは予想通り、禍々しく黒いオーラを纏った巨大な……ハエ。


「お母さん見て! でっかいハエ!」

「っ……」


 子供は無邪気に指をさす。

 しかし大人は感じ取っていた。

 あの巨大なハエが、ただの虫ではないことを。

 そして私たち調教師は誰よりも危機感を抱いていた。

 知らないはずがない。

 悪魔たちがいるとされる地獄。

 そこに巣くう王と呼ばれる個体……あれはそのうちの一つ。


 ハエの王――


「ベルゼブブ」


 ハエの王は叫ぶ。

 全身から無数のハエを召喚して、黒い波となって会場に押し寄せる。


「結界の展開を!」


 会場の警備をしていた騎士団長さんが叫んだ。

 彼の指示によって王城を守る結界が展開され、ハエは阻まれる。

 この結界は敵対者の侵入を防ぐ。

 普通の人間や私たちがテイムした魔物たちは問題なく出入り可能な結界だ。

 リクル君が急ピッチで用意してくれたものがあってよかった。


「今のうちに避難を! 戦闘は極力回避せよ!」

「リリン、セルビアさん! 僕たちも避難に協力しよう」

「了解っす」

「はい!」


 問題は結界の外に出てからだ。

 この結界もいずれ効果が消える。

 それまでに皆さんを安全な場所へ移動させなければならない。

 ここで考えるべきは敵の狙い。

 会場を襲うために召喚された?

 だとしたら狙いは、会場に集まっていた人?


 しっくりこない。

 直感だけど、違う気がする。


「……アトラスさん」


 そうだ。

 彼は無事だろうか?

 この襲撃の犯人はおそらく、大国ウエスタンの……。

 だとしたら彼の身も危ない。


「セルビアさん!」

「アトラスさん?」


 ちょうど彼のことを考えていたタイミングで、彼のほうから私たちのもとへ駆け寄ってきた。

 全力で走ってきたのだろう。

 ひどく呼吸を乱し、焦っている。


「よかった。無事だったんですね」

「来たなら早くするっすよ! 今からみんなを誘導するっすよ!」

「違う……そうじゃない! 彼女の狙いは会場に来ていた人たちじゃない。俺たちだ」

「え? どういう――」


 直後、結界の一部に穴が開く。

 ハエは小さい。

 小さな穴が一つ空けば、そこから流れ込む。

 大量のハエが向かったのは逃げようとする人々……ではない。

 迷いなく、ハエたちは私たちの元へ。


「こっちにくるっすよ!」


 迫るハエたちの前に、魔物が立ちふさがる。

 危険を察知して私たちを守ろうとしてくれている。


「助かったす……」

「今のうちに守りを固めるんだ! 住民の避難は騎士たちに任せればいい」

「でも万が一そっちにハエが行ったら」

「わからないのか? あの女の一番の標的はあんただぞ!」


 アトラスさんは焦り顔でがしっと私の肩を掴む。

 その力強さに心臓が締め付けられる。

 緊張と、不安。

 上空にいるハエの王は、ハッキリと私のことを見ていた。


「……だったら尚更守っているだけじゃだめです」

「え?」

「狙いは私……なら、私があれの相手をします」

「姉さん!?」

「本気なのかい!」


 リリンちゃんとルイボスさんが同時に驚く。

 私は大きく頷く。


「あれを倒さない限りハエは増え続けます。どっちみちそれ以外に方法はありませんから」

「で、でも」

「俺は賛成だ。あれを召喚したのはおそらく……いや、間違いなくうちのビーストマスターだろう」


 アトラスさんは言い切る。

 彼がそう言うなら間違いない。

 私もその予感はしていた。

 ハエの王を召喚できる人なんてそういない。


「彼女の相手ができるのは、同じ力を持った……」

「私だけですね」

「ああ」


 だったら迷うことはない。

 リクル君がこの場にいたら、きっとこう言うだろう。

 

 お前がやれると言うのなら信じる。

 だから……勝ってくれ。


「私があれを倒します! みんなも自分の身を守ってください!」


 私はアルゲンを呼ぶ。

 一羽ではなく群れで、その内の一羽に乗って空へと上がる。

 結界を抜け、対峙する。

 悪魔たちを束ねる存在……ハエの王と。

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