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31.隙が……ない!

「なっ……」


 俺は動揺した。

 気のよさそうな女性の一言に。

 

「なんの……話ですか?」


 同業者……そう言ったのか?

 ありえない。

 数秒言葉を交わした程度で俺の正体がばれたのか?

 一体どうやって?

 俺はまだ何もしていない。

 ポゼッシャーとしての力を一度も行使していない。


「あれ? 違いましたか? 同じ匂いを感じたので、てっきりそうだとばかり」

「に、匂い?」


 え、俺って臭いのか?

 おかしいな。

 ちゃんと毎日シャワーを浴びているんだが……。

 クンクンと自分で嗅いでもわからない。

 自分の匂いだからか?


「そんなに動物臭いですか?」

「いえ、そういうわけじゃなくて。なんと言えばいいんでしょう。私たち調教師は、聖霊や悪魔と契約したり、魔物を従えているので普通の人間とは違った独特な魔力を宿すんです」


 彼女は説明を始める。

 それについては知っている。

 俺だってポゼッシャーのはしくれだ。

 だが普通、魔力なんて見えないし感じることもできない。

 ましてや他人の魔力なんて……。


 まさか――


 彼女は知覚できるのか?

 他人の魔力の性質を。


「お兄さんからは、私たちと同じ感じがしたんです。えっと、たぶん悪魔かな? あ、決してお兄さんが悪魔みたいと言っているわけではありませんので! 気を悪くされたらすみません」

「いや、別に……時々言われるので平気です」

「え、そうなんですか?」

「まぁ同僚に。お前は悪魔みたいな時があるなと」


 口から出まかせだが、今ので確信した。

 彼女は感じている。

 他人の魔力を。

 本来わかるはずのないものが彼女には理解できている。

 俺が契約しているのは悪魔が多い。

 まだ一度も見ていないのに、俺の手札の種類まで当ててしまった。

 彼女は本物だ。

 若く可愛い見た目をしていても、規格外の力を秘めている。


 まったく困ったな。

 ビーストマスターっていうのは、どいつもこいつもイカレている。


「……」

「お兄さん? やっぱり顔色が悪いようですが……」

「気にしないでください。ただのちょっと寝不足です。仕事が忙しくて」

「お仕事ですか。大変ですね……しっかりお休みになられてください」


 彼女はニコリと微笑む。

 とてもやさしくて明るい表情だ。

 きっと本人の性格を表しているのだろう。

 俺が知っているもう一人の、性悪なビーストマスターとは対極。

 だけど、同じだ。

 彼女もまた、秘めた力の大きさがあふれ出ている。

 

 さっきから……。


 周囲の魔物たちが睨んでいるのも、おそらくその一つだろう。

 彼らは気づいているんだ。

 俺が普通の人間ではないことに。

 主であるビーストマスターに近づく俺を、いつでも食い殺せるように備えている。

 おかげで俺は一歩も前に出られない。

 彼女が俺に近づくにつれ、魔物たちの警戒が上がっていく。

 完全に囲まれてこの間合いだ。

 俺が憑依を発動させるよりも早く、彼らの攻撃が届く。

 呼吸することすら緊張する。

 あの女からは調査優先で、可能ならば攫ってこいと言われているけど……。


「……無理だろ」


 俺はぼそりと呟く。

 まったく隙がないんだ。

 本人は優しそうで簡単に攫える気はするけど、周りがそれを許さない。

 少なくとも彼女の領域内では、彼女に手出しできない。


 帰りたい。

 ものすごく帰りたい。

 でもここで何もせずに帰ったら、今度はうちの性悪ビーストマスターに何をされるかわからない。

 どうせ逃げ道はないんだ。

 突っ込むならこっちの優しくて可愛いビーストマスターにしよう。


「あの、ビーストマスター様はどうしてこの国にいらっしゃったんですか?」


 覚悟を決めた俺は、彼女から情報を聞き出すことにする。

 俺の質問に彼女は眉をピクリと動かした。


「それはその、いろいろありまして」

「いろいろですか?」

「はい」


 彼女は苦笑い。

 やはり何か他人に言えない事情があったのか。

 上手く探れるかどうか……。


「セントレイク王国で何かあったのですか?」

「大したことじゃありませんよ」

「そんなことはないでしょう。国を移るなんて相当な覚悟が必要です。しかもあなたはビーストマスターだったんですから」

「あははっ……まぁ、ちょっと仕事が上手くいかなかった……?」


 彼女は視線を逸らしながらごまかす。

 詳しい事情は話すつもりがないようだ。

 仕事が上手くいかなかったという理由も、現状を考えれば誰でも予想できる。

 俺が知りたいのは、いろいろの部分なんだが。

 さて、どうやって聞き出すか。


「お兄さんもお仕事が忙しいんですよね」

「え、ああ、はい」

「今日はお休みなんですか?」

「いえ、そういうわけじゃ……」


 しまった。

 ここは休日だというべきだった。

 咄嗟に本音が。


「じゃあこの後はお仕事なんですか?」

「そんな感じです」

「大変ですね。眠れていないとおっしゃっていましたけど、お仕事の量が多いんですか?」

「多いですね。明らかに一人じゃ終わらない量だったり……責任が重すぎる仕事を一人で任されたり」


 ため息が漏れる。

 口に出してしまうと余計に空しい。

 どっと疲れる。

 今だって本当は休みを貰ってのんびりと……。


「そうなんですね。次のお休みはゆっくり休んでください」

「次はいつになるかわかりませんね」

「そんなに……休む時間もないのは辛いですよね。自分の時間はとれないし、仕事以外のことを考える時間もないですから」

「そうなんですよ。次の休みは何をしようなんて考えられない。一つ仕事を終えても次の仕事がすぐにくる。疲れているか、なんて聞いてもくれない」

「わかりますその気持ち。周りはみんな休んでいるのに、自分だけ職場に残るんですよね」

「それですよ! なんで俺だけって思っても口にできない」


 なんだ?

 なんなんだこの人は……?

 どうしてこんなに共感してくれるんだ?


「俺もなんどかお願いしたんです。もう少し仕事を減らせないかって。そしたらあの性悪女……だったらクビにするって脅すんですよ?」

「ひどい。ちゃんと働いている人に向かってそんなのあんまりですね」

「本当にそうで。けどお金がないと生きていけないから仕方なく……今だって本当なら休みなのに、わざわざ遠い国まで遠征させられて」


 自分でも驚くほど本音が漏れる。

 疲れているのだろう。

 苛立っているのだろう。

 誰にも共感してもらえなかったから、こうして頷いてもらえるだけで嬉しくて。

 ついつい言葉に出てしまう。

 もはや制御できなくなっていた。


「あの女、ビーストマスターじゃなかったら絶対出世できてないですよ」

「ビーストマスター?」

「そうですよ。あなたと同じ……あっ」


 言ってしまったことを後悔する。

 さすがに今の発言は、言い訳できないな。

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