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3.むしろ好都合では?

 本日何度目かわからない驚きの声をあげる。

 宮廷から出て行け?

 それは……えっと、本当にどういうことですか?

 理解できない私はキョトンとした顔をする。


「言葉通り、君は今日でクビだよ」

「……い、意味がわかりません。どうして私がクビなんですか?」

「君が必要なくなったからだよ。僕が連れてきた人材をまとめれば、君一人よりも効率的に生物たちの管理ができる」

「い、いやその……」


 この人は自分が何を言っているのか理解しているのだろうか。

 そもそも六人と一人を比べている時点でおかしい。

 それ以前に、宮廷調教師の任命や除籍ができるのは陛下や陛下から許可を頂いた方だけだ。

 いち貴族でしかない彼が決められることじゃない。


「はぁ……今のは聞かなかったことにしておきます。陛下の耳に入れば大変なことになりますよ」


 私と念願の婚約破棄ができて浮かれているのだろう。

 この時くらいは喜ばせてあげよう。

 私も、不本意な婚約を解消できていい気分だ。

 実は彼が浮気をしていることはずっと前から気づいていた。

 というより、彼も隠していなかった。

 それだけ私のことが嫌いだったということだ。

 逆に清々しい。

 その相手がロシェルさんであることも気づいていたけど、まさか新しく婚約するとは思っていなかった。

 きっと裏でたくさん頑張ったのだろう。

 

「それでは仕事がありますので、これで失礼します」

「何を言っているんだい? 君はクビだと言ったはずだよ」

「あまり冗談を言われないほうがいいですよ。誰に聞かれているかわかりませんから」

「冗談ではない」


 彼はもう一枚、別の紙を開いて見せる。

 それは先ほどとは真逆の……。


「解雇……」

 

 底に記されていたのは私の名前だった。

 宮廷調教師セルビアを除籍する。

 そう書かれていた。

 王家の紋章が記され、陛下の直筆でサインも頂いている。

 紛れもなく正式な解雇状だった。


「こ、これは……一体どうして……?」

「僕から陛下に進言したのさ。彼らを雇用するから、君をクビにしてはどうかとね」


 レイブン様は得意げな顔で語り出す。


「陛下も悩んでおられたのだよ。由緒正しき宮廷に、平民が紛れ込んでいることに……しかもそれが、王国唯一のビーストマスターだという事実に。確かにビーストマスターの存在は大きい。だが……」

「絶対の存在ではありません」


 ロシェルさんが続く。

 

「調教、召喚、憑依……三つの才能を持っている人が稀だというだけです。結局その一人は三人と同じ価値でしかありません。だったら人数さえそろえてしまえば問題はないのです」

「まさにその通り! 僕が連れてきた人材を見て、陛下も納得してくれたよ。我々がいれば、この国はより強い国になるだろうとね!」


 レイブン様の説明に納得した陛下は、私を宮廷から追い出す許可を彼に出したそうだ。

 追い出す、というのは単なる首とは違う。

 完全に王都から、この国から出て行けという意味だった。

 どうしてそこまでされるのか。

 まさに逆賊の扱いを受けることになる。

 だけど、その理由はすぐに思い当たった。


 私が、ビーストマスターだからだ。


「私が残っていると、王国内で反乱を起こされた時に面倒だから……出て行けという意味ですね」

「さすが、よくわかっているじゃないか」


 皮肉だ。


「まぁ安心してくれ。君が調教した生物たちは、我々が責任をもって管理してあげよう」

「……」

  

 何が責任だ。

 用済みになったからポイ捨てするだけでしょ?

 私が今日まで積み上げてきたものを、苦労を、そのまま奪い去って。

 最初は同情していた私だったけど、あまりの言い分と扱いに、ついに怒りがふつふつと湧いていた。


 どうして理不尽な理由で宮廷を追放されないといけないの?

 私は今日まで頑張ってきた。

 先輩には嫌がらせを受けて、王都に四千体以上いる魔物を一人で管理させられたり。

 危険性の高い聖霊と無理やり契約させられたり。

 憑依すると人格を奪われるかもしれない神格に、嘘を教えられて挑戦させられたりもした。

 今では王国にいる生物の半数を、私が管理、使役している。

 どう考えても一人でやる量じゃない。

 おかげで毎日残業、次の日にも仕事が残って、休日出勤も当たり前だった。

 そんな大変な思いをして頑張って来たのに……。

 頑張って……。


 んん?


「どうしたんだい? ショックすぎて言葉も出ないのかな?」

「あらあら、可哀そうですわ」

「……」


 そうか。

 宮廷を追い出されるってことは、もう仕事をしなくていいんだ。

 あの激務を代わりにやってくれる人もいるんだよね?

 だったら別に、悪いことじゃないよね?


「レイブン様、ロシェルさん」

「なんだい? 最後に一つくらいなら、お願いも聞いてやってもいいぞ」

「お優しいですわ。レイブン様」


 目の前でイチャイチャする二人に、私は笑顔を見せる。

 意表を突かれたような表情の二人に向かって、私は大きくハッキリと口にする。


「今日までお世話になりました」

「え……?」

「……はい?」

「それじゃ、荷物をまとめて出て行きますね!」


 私は軽く会釈をして、二人に背を向ける。

 足音が響く。

 二人の呼吸が合わさって、大きく息を吸ったのがわかった。


「ま、待て!」

「待ってください」


 二人そろって私を引き留める。

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