28.陰謀渦巻く
「本日はここまでとなります。お集まりになられた皆様、ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
夕刻になり、男性が全体にアナウンスをかける。
「お姉さんバイバーイ!」
「ありがとうございました。ビーストマスター様」
「お気をつけて」
訪れてくれた人々の多くは、満足したような表情で去っていく。
リリンちゃんやルイボスさんのほうも盛況だった。
帰路につく人々の後ろ姿を見ながらホッとする。
上手くいってよかった。
それに、喜んでもらえたみたいで。
「嬉しそうだな」
「うん」
「あっちじゃなくて、お前がだよ」
「え? あ、リクル君」
いつの間にか私の後ろに立っていた彼は、呆れたような笑みを浮かべて隣に立つ。
城内の人々はほとんど外へ出て、最後の数人の後姿が見える。
それをリクル君は眺めながらつぶやく。
「仕事の合間に見ていたけど、かなりよかったんじゃないのか?」
「そう思う?」
「ああ。お前はどうなんだ?」
「手ごたえはあったかな。みんな優しい人たちでよかったよ」
私の話に耳を傾けてくれた。
大人も子供も、様々な視点でふれあい、確かめ合いながら感じてくれただろう。
私たちが普段何をやっているのか。
国を支えているのが人間だけではないということを。
直接目で見て触れ合えた体験は大きかったはずだ。
「明日はもっと来てくれるといいね」
「さすがにこれ以上増えたら城に入りきらないぞ」
「ふふっ、そうなったらビックリだよね」
「案外ありえない話でもないけどな」
リクル君は腰に手を当て、人々が去ったあとの会場に視線を向ける。
「今日のことが街に届いて噂になれば、興味を持つ人も増える。今日は来なかった人たちも、楽しかったらしいって聞いたら来てくれるかもしれないだろ?」
「ああ……そうかも」
そうだとしたら嬉しい。
噂が人を呼び、より多くの人たちが私たちに興味を抱いてくれたら。
それこそ望むべく未来だろう。
もちろん逆もある。
楽しくないと思われたら、そういう噂も広がるだろう。
興味を抱いてもらえるかどうかは、全て私たちの腕にかかっているんだ。
「明日からも頑張らないとね」
「そうだな。まずは掃除と片付けだ」
「うん」
「終わったらちゃんと休むんだぞ? 二週間は長い。途中で倒れたりしたら全部がパーだ」
「わかってるよ」
「だといいけどな」
リクル君は私のことを信用していないのかな?
ちゃんとわかっているよ。
倒れたら今日までの準備も、その先のことも無駄になるかもしれない。
何よりここはセントレイクの宮廷じゃない。
休める環境にいさせてもらえるから、心置きなく仕事に取り組める。
改めて思う。
休みがある……それって頑張るために一番必要なことかもしれないって。
◇◇◇
世界には様々な国がある。
大きい国、小さい国。
強い国、弱い国。
いい国、悪い国。
国、と言っても様々で、似ているところはあっても完全に同じものは存在しない。
人の好み、文化、交流。
国を構成するあらゆる要素にバタつきがあり、それらが個性である。
ただし、全世界の国々に共通するものがある。
それは認識であり、常識でもある。
誰もが知り、注目する存在。
そう、ビーストマスターだ。
「――ノーストリアのビーストマスター誕生は事実だったようですね」
「ええ、間違いありません。潜入していた者が存在を確認しました」
「あの話は? 元セントレイク王国の宮廷調教師が管理していた生物ごと引き抜かれたというのは?」
「どうやらそれも事実のようです」
特に大国の事情は、誰もが知りたい情報の一つである。
世界でビーストマスターを有する国家は三つ。
そのうちの一つがすり替わった。
大国の戦力をごっそり引き抜いて、弱小国家だったノーストリア王国が生まれ変わる。
注目しないはずがないだろう。
同じくビーストマスターを有する国家や、それに準ずる大国は。
「事実なら、セントレイクはもう終わりだろう」
「ええ。すでに敵対国家の多くが同盟を組み、侵略戦争の準備をしているようです」
「ならば我々も便乗しておくか」
「お戯れを、陛下。私たちが介入する意味はありません」
王城の寝室で、国王と若い女性が抱き寄せ合う。
彼らは夫婦ではない。
愛人でもない。
しかし特別な存在ではあった。
国王にとっても、王国にとっても。
なぜなら彼女は――
「この国には私が、ビーストマスターがもういるのです。落ちぶれた大国を攻める理由も、助力する理由もありません」
ウエスタン王国のビーストマスター、イルミナ・ヴァンティリア。
十年前に起こった三国戦争にて活躍し、二つの大国を下しウエスタン王国を守り抜いた美しき英雄である。
「ですが、陛下がお望みであれば私は動きましょう」
「いいや必要ない。大国の戦力は半数を失っている。攻めたところで手に入るものもない。それよりは……ノーストリアのほうが興味をそそる」
「引き抜かれたビーストマスターですか?」
「ああ。大国の戦力の半数が引き抜かれた……ということはつまり、その半数をビーストマスター一人で制御していたことになる。事実なら、君をも超える存在かもしれない」
国王の一言に、彼女はピクリと眉を動かす。
軽い苛立ちを感じながら、彼女は妖艶に笑う。
「ふふっ、もしそうなら、どうしますか?」
「無論ほしい。その前にどのような人物か確かめる必要があるな」
「では、その役目は私の従者に任せましょう。もし上手くできそうなら、攫ってしまっても構いませんよね?」
「上手い方法があるなら、な」
イルミナは不敵に笑う。
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