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27.大人の役目

「おお……大人しいな」

「テイムしている生き物は人間を仲間だと思ってるんすよ。だからこっちから危害を加えない限り襲われる心配はないっす」

「大きいわね」

「魔物の多くは戦いの中で生きています。身体の大きさは戦うために必要なものです。確かに少し怖いですが、大きいことは僕たちにとっても利点があります。例えば荷物の運搬。馬では力不足な大荷物も、彼らなら引っ張れます」


 リリンちゃんとルイボスさん。

 二人が訪れた人々に説明してくれている。

 丁寧にわかりやすく、触れ合いも混ぜ合わせながら。

 いきなり魔物に近づくのは怖くても、同じ人間である私たちが隣にいれば恐怖は和らぐ。

 一先ず安全、安心は伝わっただろうか。

 私の元にも多くの人々が集まる。


「あなたがビーストマスター様なのですか?」

「はい。セルビアと申します」

「おお……では以前に王都の空に大蛇を召喚されたのも?」

「はい。その節はお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。皆さまを驚かせるつもりはなかったのですが、配慮が足りませんでした」


 私は深々と頭を下げる。

 すると質問した男性は慌てて手と首を振る。


「そんな、顔をお上げください。この国にビーストマスターが誕生することなど誰も予想しておりませんでした。私を含む国民は皆、驚きと喜びを感じているんです。よくぞ来てくださいました」

「ありがとうございます。私も、この国に来られてよかったと、心から思っています」


 偽りなき本心を口にする。

 温かくまっすぐに、人々へ伝わるように。

 周りの魔物たちは、私の想いに合わせる様に軽く頭を下げた。

 それが見ていたみんなにもわかったらしく、クスリと笑う。


「まるで親と子のようですね。セルビア様の動きに合わせ魔物たちが頭を下げましたよ」

「ふふっ、そうですね。私は彼らを仲間であり、大切な家族だと思っています。彼らもそう思ってくれていたら嬉しい」


 近づいてきた魔物たちの頭を撫でてあげる。

 こうしていると、凶暴な生き物にはとても見えない。

 見た目は多少いかついけどね。

 それでも、悪の化身ではない。

 私たちが恐れるのは、魔物たちのことをよく知らないからだ。


「魔物も動物も、身体の構造はそこまで大きく変わりません。彼らの最大の特徴は、普通の生き物よりも魔力を濃く宿していることです。彼らの身体を動かす力は、大半が魔力ですから」


 私は集まってくれた人々に軽く説明する。

 魔物の誕生は今でも謎に包まれている。

 一説によれば、野生動物の突然変異で誕生したのが始まりだと言われている。

 その原因こそが魔力であると。

 魔力は私たち人間にも宿っている力で、生命のエネルギーでもある。

 ただし生物のみが宿す力ではなく、植物を含む自然や、ものによっては無機物でも魔力を宿す場合がある。

 大自然の中には魔力濃度が濃い場所があり、そういう場所で生まれた生き物に大きな影響を与える。

 まだまだ研究され続けていることだから、結論を出せない。

 それでも違いはあれど、同じ世界に生きている命であることに変わりはない。

 だったら共存だってできるはずだ。

 きっかけさえ作れば。


「私たちの力は、彼らと人間との間にある隔たりをなくすことができます。ですから皆さんにも、共に生きるという選択肢があることを知ってほしいんです」

「難しく、そして深い話ですな。確かに共存できるのであれば、これほど頼りになる存在もいないでしょうね」

「はい。ただもちろん、野生とテイム済みの差は大きいです。大人の方々はお分かりだと思いますが、野生の魔物が危険であることは変わりません。子供たちが勘違いして怪我をしないように注意する必要もあります」


 今回の催しで、一番問題になるのはそこだろう。

 無邪気な子供たちは魔物が危険な存在ではないことを知る。

 テイムされた魔物が安全なのであって、野生の魔物たちは生きるために獲物を求める。

 知らずに近づいてしまったら、たどり着く未来は死だ。


「ねぇママ! 私も魔物さんがほしい!」


 狙いすましたかのように、どこからか女の子の声が聞こえた。

 ブラックウルフに触ってくれた子だ。

 母親にせがんでいる。

 ペットとして飼育したいらしい。


「ねぇほしいよ! ママ!」


 魔物に触れて興味を持ってしまった結果だ。

 このまま放置すれば大変なことになる。

 私の責任で、彼女を危険にさらしたくはない。


「すみません。話をしてきます」

「いや、心配はいりませんよ」

「え?」

「見ていてください」


 声をかけに行こうとしたら制止された。

 私は首を傾げる。

 なぜだか皆、その光景を見守っていた。

 母親がせがむ子供の視線に合わせてしゃがみこむ。


「ダメよ」

「なんで? こんなに可愛いのに」

「それはね? この子たちがしっかり躾されているからよ。ビーストマスター様が見てくださっているから平気なの。お外の魔物さんはもっと怖くて、こんなに近づいたらパクッて食べられちゃうわ」

「そうなの? 食べられちゃうの?」


 母親は優しく頷く。


「魔物さんと仲良くなりたいなら、ちゃんとお勉強して、ビーストマスター様みたいにならないとダメなの。だから、私がいいって言った魔物さん以外には近づいちゃダメよ? 約束できる?」

「……わかった。じゃあ私もお勉強して、大きくなったらビーストマスターさんになる!」

「ふふっ、頑張らないといけないわね」

「頑張るもん!」


 母親に説得された女の子は笑顔を見せる。

 素直でいい子だ。

 それに、母親も子供とのコミュニケーションがしっかりとれている。


「危険なことを教えるのは、私たち大人の役目です。ビーストマスター様だけのお仕事ではありません」

「……そうみたいですね」


 私じゃきっと、あの女の子を説得できなかっただろう。

 母親の強さと頼もしさをこの目で確かめられた。

 こんな風にみんなが協力してくれるなら、理解される日も近いだろう。


 こうしてお祭り一日目が終わる。

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