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26.祝もふもふ祭り

 話し合いの結果、開催は二週間。

 時間帯は正午から夕刻までの間に決定した。

 王城を長く開放するリスクと、王都の人々が訪れやすい時間帯を考慮した結果だ。

 開催前に王都へ知らせを送る。

 急に始めたって誰も来てくれないし、準備の時間もある。

 最初の話し合いから一週間後に初日を開催する予定で進める。


「どの子がいいっすかね?」

「やはり触れ合いやすさを重視すべきだろう。見た目の怖さが薄く、かつ小さい個体が望ましい」

「それじゃ意味ないじゃないっすか! 見た目が怖くても怖くないぞってことを伝えるための場所っすよ? ここはウチのとっておき、ケルベロスちゃんで行くっす」

「いや、いきなりそれはハードルが高いだろう。せめてブラックウルフ辺りから慣れてもらったほうが……」


 私たち宮廷調教師に任されたことは、当日に参加する生き物たちを選ぶこと。

 今回の目的は、私たちが管理している生き物たちの安全性をアピールすることにある。

 スペース的に全員を入れることは不可能。

 人の出入りを考えると、あまり大きな個体は入れられない。

 何より私たちは三人しかいない。

 万が一のことを考えて、私たちが手綱を引ける数に限定される。

 よって生き物選びはとても重要だ。


「姉さんはどう思うっすか?」

「私は絞る必要はない気がする」

「というと?」

「せっかく二週間もあるんだし、毎日変えればいいんじゃないかなと」

「あ、確かにそうっすね」

「二週間ずっと同じにする必要はなかったか。盲点だったよ」


 という様子で話し合いは順調に進み、私たちは開催まで準備に勤しんだ。

 騎士団やリクル君のほうも慌ただしい。

 簡単に進めているようで大掛かりな催しになった。

 リクル君も頑張ってくれている。

 絶対に成功させようと、私は改めて決意した。


 それから時間はあっという間に過ぎて――


 一週間後の正午。

 王城を開放した一大イベントが開催される。

 城門を開放すると同時に、大勢の人々が押し寄せた。


「思った以上に多いね」

「宣伝が効いたか? それともみんな興味があったのかもしれないな。宮廷調教師……いや、ビーストマスターのお前に」


 そう言ってリクル君は隣でニヤっと笑う。

 ちょっぴり緊張している私に意地悪でもするつもりなのかな?

 私はむすっとした顔をして言い返す。


「リクル君が人気者だからかもしれないよ?」

「ははっ、それこそいいことだろ? 王族が国民に好かれているなんて光栄じゃないか」

「……確かに」


 どうやら私に煽りの才能はなかったらしい。

 一回で悟ってしまった。

 私はため息を一つ、少し高い位置から辺りを見渡す。


「それにしても、カフェっていうよりお祭りになったね」

「この規模だとそうだな。シェフの意見を聞いて露店形式にしたのは正解だったか」

「みたいだね」


 王城のシェフさんの提案で、いくつか露店を出店することになった。

 そのほうが食べ歩けるし、飲食スペースを作らなくてもいい。

 代わりに人員は必要になったけど、そこはシェフさんたちが上手く切り盛りしてくれている。

 専門的なことはプロに任せたほうがいい。

 まさにその通りの結果になった。


「じゃあ私もそろそろ行くね」

「おう。頑張ってアピールしてきてくれ」

「うん!」


 リクル君の元を離れ、私は階段を駆け下りる。

 準備は万端。

 会場へと続く道の途中に大きなホールがあり、そこに魔物たちやリリンちゃんとルイボスさんが待っている。


「お待たせしました!」

「遅いっすよ姉さん!」

「こっちの準備は万端です」

「はい。じゃあ行きましょう!」


 ホールの扉を開ける。

 そこはすでに王城へやってきた人々の中。

 嫌でも視界に入る位置に、私たちは出る。

 後ろには凶暴と言われている魔物たちを従えて。


「お、おお……魔物があんなに」

「本当に大丈夫なのか?」


 不安そうな声を上げる人たちもいる。

 私はそんな人たちに向かって笑顔で伝える。


「心配はいりません。この子たちはテイム済みですので、人間を襲うことは絶対にありませんから」


 安全をアピールするように、私たちは魔物に触れる。

 先頭を歩いてくれているのはブラックウルフ。

 見た目は凶悪そうだけど、犬に近く大きさもちょうどいい。

 毛並みもモフモフしているし、触れ合いにはピッタリな子たちだ。


「皆さんもどうぞ触ってみてください。気持ちいいですよ?」

「さ、触れるのか?」

「ねぇねぇお母さん、わたし触ってみたい!」


 大人たちがしり込みする中で、最初に興味を示してくれたのは小さな女の子だった。

 子供は無邪気で好奇心旺盛だ。

 恐怖よりも興味のほうが強く出やすい。

 母親は戸惑っているけど、これはチャンスだと思った。

 私は一匹をつれて、ゆっくりと女の子と元へ近づく。

 なるべくゆっくり、適切な距離を保ちながら。

 あと一歩踏み出せば触れ合える距離まで近づいて、私たちは止まる。


「触ってみますか?」


 ここから先は私からじゃなくて、相手から歩み寄ってほしい。

 そうじゃないと意味がない。

 私はじっと待つ。

 すると女の子が母親の手を引く。


「行こう! ねぇ!」

「え、ええ」


 それに引っ張られて母親も前へ出る。

 みんなが見守る中、親子は魔物に触れられる領域に踏み入る。

 普通ならぱくりと食べられてしまう距離。

 ブラックウルフは頭を下げる。


「どうぞって」

「わーい!」


 女の子は無邪気に喜び、頭を撫でた。

 犬でも愛でるように。


「ふわふわだぁー!」

「でしょ? 一緒に寝るとすごく気持ちいいんだよ?」

「いいないいな! 私も寝てみたい!」

「じゃあ今度、お姉さんと一緒にね」

「うん!」


 穏やかな空気が流れる。

 この光景がきっかけとなり、人々の心から恐怖が薄れる。

 少なくとも私たちと一緒なら大丈夫だと。


「他の皆さんもどうぞ前へ来てください。せっかくの機会です。触れ合ってみませんか?」


 人々は顔を見合わせ、歩み寄ってくる。

 カフェもとい、祭りはこうして始まった。

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