25.そうだカフェを作ろう!
「触れ合える場所を作ればいいんじゃないかな?」
「なんだ? 触れ合える場所?」
「うん。たとえばカフェみたいな場所で、生き物たちとゆっくり触れ合えるようにするの。上手くいけば恐怖をなくして、みんなにとって安らげる場所になると思うんだ」
「……なるほどな。悪くないかもしれないぞ」
テイムした魔物は怖くない。
危険な存在ではなくて、より身近な頼れる相手だと知ってもらう。
その方法で最も効率的なのは触れ合いだと思った。
誰しも知らない、触れ合えない相手だからこそ怖いんだ。
噂や未知に対する恐怖は、知ってしまえば薄れる。
調教師やテイムした生き物たちのことを人々に知ってもらうのも、私たちの役目だろう。
「ただその場合、余計に時間がかかるだろうな。施設以外にカフェ用の建物も必要になる」
「そこは上手くどこかを借りられないかな? 一時的でもいいんだ。みんなに知ってもらう機会を作りたいだけだから」
「だったらいっそここを開放するか」
「ここって……まさか王城を?」
私が驚きながら尋ねると、リクル君は笑顔で頷いた。
「ここなら広さも申し分ないし、今から新しく店舗を作る必要はない。生き物たちの移動もなくて楽だろう?」
「それはそうだけど、いいのかな?」
「父上には俺から話しておく。あとの問題は開催時の警護だな。仮にも王城を開放するんだ。ちゃんとした警備体制は必要になる。その辺りはロードンに頼もう」
「ロードンさんには私からお願いするよ」
騎士団長のロードンさんなら先の一件で交流が持てた。
リクル君ばかりに走り回ってもらうのは忍びない。
私にできることは私がやろう。
「話がついたら一旦ここへ戻ってきてくれ。ついでにお前以外の調教師も連れてきてくれるか?」
「うん。任せて」
私たちはそれぞれの仕事に向かう。
◇◇◇
私が向かったのは騎士団の隊舎。
近くに行くと騎士のほうから声をかけてもらえて、すんなり中に入れてもらえた。
騎士団長の部屋に案内され、ロードンさんに事情を話す。
「なるほど、そういう話であればぜひ協力させていただきましょう」
「本当ですか!」
「もちろん。魔物たちもこの国を守る貴重な戦力です。それを理解してもらえる場所は必要でしょう。何より、セルビア殿の頼みなら断る理由がありません」
「ありがとうございます!」
思っていた以上に私に対する信頼は厚いみたいだ。
先日の森での一件で、誰も傷つけず、一切の戦力を損なうことなく森を制圧したことが理由だろうか。
どちらにしろ、これで騎士団の協力は得られた。
私はロードンさんにリクル君の執務室へ行ってもらうようにお願いした。
それから私は宮廷にいる二人の元へ向かう。
今の時間ならちょうど休憩中だ。
「リリンちゃん、ルイボスさん」
「セルビアさん、お帰りなさい」
「遅かったっすね! 何かあったんすか?」
「うん。二人に聞いてほしい話があるんです」
予想通り休憩中だった二人に、私は事情を説明する。
話を聞き終わるとリリンちゃんが目を輝かせる。
「いいっすねそれ! 最高じゃないっすか!」
「そう思ってくれる? 二人にも協力してもらいたくて」
「もちろんするっすよ! うちの子たちの可愛さアピールなら任せてくださいっす!」
リリンちゃんはトンと自分の胸を叩いて自信をアピールする。
彼女ならそう言ってくれると思っていた。
予想通りの反応でホッとする。
ルイボスさんはというと、驚きながらメガネをくいっと持ち上げる。
「まったく、派手なことを思いつきますね」
「さすが姉さんっすね。どこかのメガネしかない先輩とは大違いっすよ」
「……事あるごとに僕を罵倒するのはやめてくれないか? 普通に傷つくんだぞ?」
「あはははは……」
この二人は相変わらずだ。
私はルイボスさんに改めて確認を取る。
「協力していただけませんか?」
「もちろん協力はするよ。住民への理解は必要不可欠であり、それは僕たち宮廷調教師の仕事の一部だからね」
「ありがとうございます!」
二人の協力も得られた。
私は二人に同行してもらって、リクル君の執務室へと向かう。
道中、ロードンさんとも合流して四人で向かった。
部屋に入るとすでにリクル君が待っていて、私たちはソファーで対面に座る。
リクル君が話を切り出す。
「全員集まったな」
「うん」
「よし。三人とも、ここに来たってことは事情は把握した上で協力してくれるってことで問題ないな?」
「はいっす!」
「そのつもりです」
「我々騎士団も協力いたします」
リクル君は頷き、おさらいと言って改めて説明する。
今回の経緯と必要な理由について。
「今から決めることは大きく二つ。開催の期間と時間帯だ」
「それだけでいいんすか? カフェにするんすよね?」
「料理とかに関しては王城のシェフに任せる。俺たちみたいな素人が考えるよりずっといいだろ?」
「確かにそうっすね」
思いつきとはいえ王城を開放するんだ。
テキトーな仕事はできない。
やるなら絶対に成功させようと意気込む。
「同じ理由で当日の警護は騎士団に任せる」
「お任せください」
「参加させる生き物の選定と管理もだ。そっちはセルビアたちに任せるぞ」
「うん、そのつもりだよ」
そうなると確かに、決めるのは期間と時間だけだ。
私たちは話し合う。
細かい段取りも含めて。
「せっかくなら楽しい催しにしたいね」
「そうなるといいな」
願わくば、この機会に多くの人に知ってほしい。
私たちが普段何をしているのか。
国が、人々が、どうやって守られているのかを。






