24.理解してもらうために
騎士団に同行して任務を終えた私は王都へ帰還した。
帰還後、早々にリクル君のもとへ報告に向かった。
「……」
「なるほどな。それで、結局全部テイムしてしまったと?」
「……そうなるかなぁ?」
私は視線を逸らす。
すると彼は大きくため息をこぼす。
「はぁ……なんとなくこうなる予感してたんだが、できれば外れてほしかった」
「すみませんでした」
「悪いと思ってるのか?」
「……ちょっとは?」
「なんで疑問形なんだ。まったく、これ以上魔物の数を増やしてどうするんだ」
再びリクル君は大きなため息をこぼした。
その点は本当に申し訳ないと思っている。
私についてきたセントレイクの生き物たちの住む場所が足りない。
急激に増えた生き物に対応しきれていない。
新たな飼育施設を建設する話はすすんでいるけど、それもすぐには完成しない。
場所を定め、材料を集め、人を雇い、時間をかけてようやく完成する。
その間、生き物たちがストレスを感じないようにお世話をするのが私の役目で、今回の遠征もその一環ではあった。
もっともその結果、逆に生き物の数が増えてしまったわけだけど。
「さて、どうするかな」
「新しく建造している建物はいつごろできそうなの?」
「予定では三か月後だった。けどダメだ。数が増えたから元々想定していた場所と大きさじゃ対応できない」
「そ、そんなにギリギリだったんだね……」
非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
そうと知っていれば……いいや、知っていても結局私は同じことをしたと思う。
魔物だって生きているだけだ。
一方的に住処を、命を奪うなんて可哀そうだと思ってしまうから。
そういう意味では今回のことも、反省はしているが後悔はしていない。
「そことは別にもう一軒作るとかじゃだめ……なのかな?」
「それでもいいが面倒だぞ? 宮廷調教師はお前たち三人だけだ。飼育施設の距離が離れていれば、それだけ移動に時間がかかる。毎日残業になってもいいなら止めないが」
「そ、それは嫌だね」
「だろうな。だから作るなら一か所、もしくは距離の近い場所になる」
リクル君は頭を悩ませる。
執務室でテーブルに向かいうなる。
テーブルには王都の地図が置かれていた。
私も近づいて覗き込む。
印がついている箇所は、どうやら建設予定だった場所らしい。
王宮のすぐ近くで、そこなら移動も簡単だっただろう。
「幸いまだ建設も始めていないから、資材が無駄になることはないが……やはりここしかないか」
「いい場所の心当たりがあるの?」
「まぁな。ここだ」
リクル君が示したのは、市街地の中で空白になっている謎の空間だった。
ちょうど王城の面積とほぼ同じ大きさで、ここからの距離もそこまで離れていない。
広さ的には十分だし、距離も申し分ない。
条件的には完璧な場所だ。
最初からこの場所に作ればいいのではと思うほどに。
ただ、そうしなかったのだから、何か理由があるのだろう。
私はそれを尋ねる。
「ここは?」
「城の跡地だよ。今から六代前までの時代は、こっちに王城があったんだ。戦争で王城の大部分が破壊されて、今の場所に城を移すことになった」
「初めからここにお城があったわけじゃないんだね」
ということは、この城はそれなりに新しい建物なのかな?
六代前なら百年以上は経過しているし、一般的に見たら全然新しくはないけど。
王城や王宮は、先祖代々受け継がれてきた宝の一つでもある。
それ故に、王国内で最も古い建物が王城、という場合もあったりする。
それほど王城とは、国民にとっても王族にとっても大切な場所と言える。
たとえ跡地であっても。
「そんな場所に建てるのって……リクル君はいいの?」
「俺は構わない。土地が限られているなら使うべきだ。父上も同じ考えだと思う」
「だったらここに建てればいいんじゃないの?」
「そう簡単じゃないんだ。一番の問題はそこじゃなくて、ここが市街地の中にあるってことなんだよ」
リクル君はわかるようにぐるっと旧城跡の周囲を指でなぞった。
示された通り、そこは人々が住まう住宅街の中にある。
城を今の場所に移した後、王国は発展して人口が増えていった。
増える人口に対応するため、旧城の周りにも民家が建設されるようになり、現在は城があった場所の周囲が住宅街になっている。
この地に飼育施設をつくるためには、近隣住民の了承が必要になる。
もちろん王族であるリクル君が命令すれば、人々の意見なんて無視して強引に進められるだろう。
だけどリクル君はそれをしない。
理由なんて聞くまでもない。
人々が日々を健やかに過ごせるように計らうことが王族の役目だからだ。
「一般人にとって魔物は怖い存在だ。それがすぐ近くにいるってことへの恐怖はあるだろう」
「テイムされてる魔物なら安全だよ?」
「それを知っているのは一部だけだ。特にうちの国は、お前が来てくれるまで調教師も二人しかいなかったからな。国民にとって魔物は身近な存在じゃないんだよ」
その辺りは大国と違う点だろう。
大きな国ほど国を守り、発展させるためには力がいる。
人間だけでは足りない部分を、魔物や異なる生き物の力を利用する。
大国で暮らす人々にとって、魔物は危険な対象であると同時に、自分たちの生活を守ってくれる存在でもある。
怖い魔物と頼りになる魔物。
二つの考え方が共存した社会に長く浸かれば、嫌でも理解するだろう。
この国は小さく、まだその段階に至っていない。
今すぐ慣れてもらうのは難しい。
「何かないか。安心してもらえる方法が」
「そうだね……」
大事なのはイメージの払しょくだ。
テイムした魔物は怖くない、危険はないと知ってもらうこと。
慣れるために一番手っ取り早いのは、触れ合いだ。
少なくとも私はそう思う。
だったら――






