22.遠征
「初めまして、セルビア殿。騎士団長のロードンと申します。此度は我々の作戦に参加していただけるとのこと、心強いです」
「あ、いえこちらこそ、勝手にお邪魔して申し訳ありません」
「勝手じゃないだろ? お前はビーストマスターなんだから堂々としてればいいんだ」
「そ、そんなこと言われても……」
初めての騎士団長との顔合わせ。
予想以上に怖そうな顔で、屈強な人が出ていた。
身体つきがまず違う。
握手したらそのまま手を握りつぶされそうなくらい、腕も太くて手も大きい。
それに年上、目上の人の雰囲気もあって萎縮する。
「殿下のおっしゃる通りです。セルビア殿は今や我が国の要でしょう。どうぞ硬くならず、普段通りにしていただければ」
「騎士団長もそう言ってるぞ?」
「か、簡単に言わないでよ。すみませんロードンさん、私はまだまだこの国では新人なので、わからないことのほうが多いです。だからいろいろと教えてほしいと思っています」
「そうですか。セルビア殿は謙虚ですね。若いのに素晴らしい。殿下もいいお方を連れてきてくださった」
丁寧な口調に私に対する敬意を感じる。
騎士団長さんは見た目よりずっと優しいのかもしれない。
陛下と初めて対面した時に似ている。
見た目と性格のギャップというか、合っていない人がこの国には多い?
「さて本題だ。今回の作戦についておさらいしておく。ロードン、頼む」
「はっ、では簡潔に」
騎士団長から説明を受ける。
すでに現状は把握していて、どう対処するかのお話。
地図を広げ、位置を確認し、範囲を特定する。
魔物を一匹も逃がさないように、騎士団と私のテイムした子たちで包囲する。
その後は徐々に外側から攻めていく。
「兵力を分散することになりますが、魔物たちも一か所に固まっているわけではありませんので問題ないでしょう。いかがですか? セルビア殿」
「はい。私も問題ありません」
「問題なさそうだな? じゃあ予定通り、今夜出発してもらうぞ」
夜のうちに王都を出発し、朝方までに準備を整える。
魔物たちは夜のほうが活発に動き、朝になると休むものが多い。
動き疲れているところを狙う作戦だ。
私は時間までに連れて行く子たちを厳選する。
森の規模が実際に見てみないとわからないから、飛行できる子はほしい。
あとは森の地形を壊さないで戦える子たち。
「アルゲンとブラックウルフかな」
長距離の移動も考えると、この二種類が一番合っている。
アルゲンは身体の大きな鳥の魔物で、人間も一人程度なら乗せて飛べる。
ブラックウルフは漆黒の毛皮をまとった狼。
小型だけど素早く、群れで連携をとることで大型の魔物すら捕食する。
連れて行く子たちを決めたら、あとは準備して待つだけ。
時間になり、夜がやってくる。
私は魔物を引き連れ騎士団と合流、そのまま静かなうちに王都を出発した。
私はブラックウルフの背に乗り、騎士団の先頭を進む。
隣には馬に乗っている騎士団長の姿がある。
「セルビア殿、本当に助かります。移動中の周囲の警戒までしていただいて」
「いえ、お礼ならあの子たちに言ってあげてください」
空を飛ぶアルゲンたち。
彼らが空中で旋回し、周囲を警戒してくれている。
もしも何か見つかれば、すぐに私に教えてくれる。
「あれもセルビア殿がテイムされたのですね」
「はい。セントレイクにいる頃ですけど」
「獰猛な魔物がこうも従順に……戦ったことが有る身としては、正直信じられませんね。テイムというのは、どういう生物にも有効なのですか?」
「そうですね。魔力を持っている生き物なら全て対象です。テイムには魔力が不可欠ですから」
テイムとは、手懐けること。
その方法は対象に自身の魔力を注ぎ込むことで、自身の魔力で相手を縛る。
本来、テイムする際は相手を弱らせる必要がある。
元気な状態で魔力を注ごうとしても、相手に拒絶されてしまう。
弱った相手は回復のために様々なものを取り込もうとする。
そこに魔力を注ぐことで、対象を屈服させる。
ただし魔力量に圧倒的な差がある場合や、相性がいい場合などに限り、弱らせなくてもテイムが可能になる。
私は魔力量には自信があって、大抵の魔物なら戦わずにテイムできる。
「今日の子たちも、できればテイムしてあげたいんです。彼らも生きるのに必死なだけで、悪になろうとしているわけじゃありませんから」
「なるほど、それは確かにそうですね。彼らからすれば、我々のほうが悪でしょう」
「どっちも悪ではありません。お互い、生きるために足掻いているだけです」
「左様ですね。願わくば、共に生きる道を模索したいものです」
「はい」
そのための方法の一つが、私の力だ。
争うだけが力の使い方じゃない。
奪う力は、守る力に変わることだってある。
移動を続け、朝日が顔を出す。
私たちはすでに目的地に到着し、静かに、確実に森を囲んでいく。
私はアルゲンの背にのり、上から森の状態を確認する。
「結構な種類がいる……けど」
思ったよりも生息範囲は広くない。
このくらいの広さならギリギリ足りるかも。
私はアルゲンで騎士団長の元へ降りる。
「セルビア殿、いかがでしたか?」
「魔物は確認できました。ちょうど休み始めているところです」
「左様ですか、ならば予定通りに」
「それなんですけど、一つ試してもいいでしょうか? 誰も傷つかずに済むいい考えがあるんです」






