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20.どうぞご自由に

「リクル君?」

「なんのつもりですか? リクル殿下」

「言葉通りの意味だ。戻るかどうかはセルビアが自分の意志で決める。俺たちはその選択を尊重する」


 彼は毅然とした態度でそういう。

 それはつまり。


「残る選択肢でも、ということですか?」

「そう言っている。むしろ、俺としては残ってほしいと思っている」

「リクル君」

「ふっ、個人的な感情はそうでしょう。わざわざ手に入れた戦力をみすみす渡したくありませんからね」


 レイブン様は見透かしたように笑う。

 が、これにリクル君は笑みを返す。


「そっちも大変みたいだな」


 あざ笑うかのように。

 

「……どういう意味ですか?」

「いや失言だ。忘れてくれて構わない」

「言いたいことがあるのであればおっしゃってください!」

「そうか? だったら遠慮なく口出しさせてもらうぞ」


 リクル君はニヤリと笑みを浮かべ、チラッと私に視線を向ける。

 小声で私にだけ聞こえる様に。


「任せとけ」


 と言ってくれた。

 リクル君には何か考えがあるみたいだ。

 私は小さく頷く。


「戦争が起こると言ったが、あれは脅しか?」

「事実を述べたまでです」

「違うな。戦争が起こるのは俺たちの国じゃない。そっちの国の事情だろ? なにせ大国セントレイクが主力の半数を失ったんだ。敵対国家が黙ってないだろうな」

「っ……」


 レイブン様の表情が強張る。

 そうだ。

 当然のことなのに考えが抜けていたけど、困っているのはセントレイク王国のほうだ。

 私が管理していた生物がすべて、私の元へと帰ってきた。

 ごっそりと戦力が抜けた穴を、彼らはどうやって埋める?

 少なくとも短時間では不可能だろう。

 ロシェルさんたちがいくら頑張っても、同じ戦力になるまでは最低でも三年はかかる。

 その間、国をどうやって守る?


「戦争が起こって困るのはそっちだ。俺たちの国は逆に攻めづらくなっている。ビーストマスターの誕生に、戦力の大幅強化が成された今、他の国々からも一目置かれている」

「じょ、状況的にはそちらも変わらない! 急に戦力が増えた国を警戒するはずだ!」

「あいにく、そっちと違って俺たちは敵が少ないんだ。元々が小さい国だからな。争いを避けるため、隣国との親交は順調に深まっている。戦力が増えたことで、彼らも俺たちの国と付き合うメリットが増えた。今頃喜んでいるはずだ」

「お、憶測にすぎない! 私が言っているのは我々と貴国との戦争だ!」

「攻め込むと? それこそなんのメリットがある? 俺たちが争い消耗したところで、他国から一方的に狙われるだけだ」


 レイブン様の意見を早々に否定していく。

 リクル君は活き活きとしていた。

 不謹慎だけど、少し楽しそうに見える。


「あ、あなたでは話にならないな! 国王に会わせていただこう」

「残念だけどそれはできない」

「これは一国の大きな問題だ!」

「ならばどうして、そちらは王族でもない者が来ている?」


 無礼にも声を荒げたレイブン様に対して、リクル君は低い声で指摘する。

 まさにその通りだ。

 国同士の大きな問題だとすれば、レイブン様はこの場に相応しくない。

 王族か、それに近しい者をよこすべきだった。


「大方、今回の件の責任を取らされることになったか? セルビアから聞いているよ。浮気して、彼女を追放したのは誰の仕業なのか」

「くっ……」


 レイブン様が私を睨む。

 けど、不思議とちっとも怖くない。


「事実です」

「お前は……」

「その結果がこの事態だ。さぞ怒っているだろうな。そちらの国王は」

 

 リクル君が煽る。

 図星なのだろう。

 レイブン様が顔を真っ赤にして怒りを露にする。


「小国の王子の分際で」

「お前こそ、ここは俺たちの国だ。部外者は早々に出て行ってもらおうか」

「っ、どこまでも私を……」

「おっと、肝心なことを忘れていた」


 リクル君が私に目を向ける。

 優しくさわやかな笑顔で。


「お前はどうする? 戻りたいか?」

「ううん、全然」

「――!!」


 私はさわやかに答えた。

 偽る必要もなく、深く考えるまでもない。

 リクル君が許してくれたんだ。

 だったら私は変わらず、この国に居続けよう。


「いいんだな……セルビア!」

「はい。私は国には戻りません。もう私はこの国の人間です」

「くっ……」

「ですからもし、この国に戦いを挑むというなら――」


 私はこの国のビーストマスターとして。


「全力で阻止させていただきます」


 全てをかけて戦おう。

 ビーストマスターの名に恥じないように。


  ◇◇◇


 レイブン様は王城を去っていった。 

 最後まで歯ぎしりして、捨て台詞まで吐いて。


「後悔することになる、か」

「最後まで小物っぽい男だったな。あんなのがお前の婚約者だったのか?」

「お恥ずかしながら……」

「ははっ、だったら解消して正解だな。あんな奴と結婚しても、お前は幸せになれない」


 まったくその通りだと、今では心の底から思える。

 きっかけは最悪だけど、こうして自由の身になれたことは感謝している。

 

「格好よく啖呵を切ってたな」

「リクル君だって」

「俺はこれでも王子だからな。国にとって何が大切なのか、いつも考えているんだよ。これが最善だ」

「そっか……」


 最善。

 私が残る選択をしたことが、この国にとって一番いい未来に繋がる。

 彼はそう思ってくれた。

 なら、その期待に応えなくちゃいけない。


「まぁ、今回は俺個人の意思も含んでいるが……」

「え? なに?」

「なんでもないよ。いざという時は頼むぞ? ビーストマスターさん」

「うん! 任せてよ」


 この国は、リクル君やみんなは私が守ってみせる。

 それも私の……ビーストマスターの役目だから。

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またまた新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

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― 新着の感想 ―
[一言] ドラゴンのお手は潰されるだろうな(笑)
[良い点] 楽しくサクサクと話が進むので楽しみにしてます [気になる点] 特にはないです [一言] 応援してます! ゆっくり無理せず更新してもらえたら嬉しいです!
[一言] 主力の魔獣流出、その分の魔獣確保、多方面に対する守り、どれをとっても大国側には大打撃。 三年ねぇ⋯。また初めから魔獣をテイムして調教するのに一人あたり半月は見なきゃいけない。とても三年で完…
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