2.え、追放?
金色の髪をなびかせ、煌びやかな衣装に身を包む彼女。
ロシェル・バーミリスタ。
私と同じ宮廷調教師の一人で、一応は同期。
適性は召喚、契約した聖霊や魔物を召喚することができるサモン使い。
普段はもっと遅い時間に宮廷へ来る彼女が、こんなにも早い時間に顔を出すなんて珍しい。
そう思いながら軽くお辞儀をする。
「おはようございます」
「ええ」
軽やかに、堂々と。
彼女は歩き、立ち止まる。
レイブン様の隣、肩と肩が触れ合うほど近くで。
「ロシェルさん……?」
「ごめんなさい、セルビアさん。あなたの婚約者は、今日から私の婚約者になったのよ」
「……え?」
何を言っているんだろう、この人は。
以前から私のことが嫌いで、会うたびに小言を口にするような人だった。
けど、今日の冗談は無理がある。
それなのに、レイブン様は彼女の肩に手を回す。
「そういうことだ。彼女が僕の新しい婚約者だよ」
「……本気ですか?」
「ああ、もちろん。父上の承諾もすでに得ているんだ」
「そんな……」
ありえない。
別に、私のほうが婚約者として相応しいとか思っているわけじゃない。
客観的に見て、ビーストマスターの私と、サモンしか適性がない彼女が入れ替われるだろうか?
ビーストマスターという称号を持っているからこそ、彼の御父上は私との婚約を進めた。
確かにロシェルさんは貴族で、身分的には釣り合う。
しかしそれだけの差で、果たして御父上が認めるだろうか?
そして何より、彼の行動には大きな矛盾があると思う。
「レイブン様、彼女も調教師です」
「もちろん知っている。だが、彼女であれば何の問題もない」
「どうしてですか?」
「彼女は聖霊を専門とするサモン使いだ。聖霊は魔物や動物とは違う。力が実態をもった存在だから匂いもしない。何より見た目が綺麗だろう?」
聖霊が綺麗だという意見には同意する。
もちろん、他の生物だって綺麗なものはたくさんいるけど。
だけどそうか。
聖霊だけしかサモンできない彼女だからこそ、レイブン様は妥協することができたのか。
その点は納得した。
ただ、結局一番の問題は解決していない。
ビーストマスターとサモン使い。
そこには大きすぎる差がある。
「自分と彼女では釣り合わない……そう思っている顔だな」
「い、いえ、別にそういうわけでは」
「心配はいらない。この日のために、私がどれだけ準備したか見せてやろう」
そう言いながら、彼は一枚の紙を取り出し、私に見せつける。
彼が見せてきたのは宮廷の雇用証明書だった。
調教適性が二名、召喚適性が三名、憑依適正が一名。
「この者たちを宮廷調教師ロシェル・バーミリタの部下として雇用する……?」
「これで実質、彼女は君と同等以上の力を持つ宮廷調教師になった。六名の部下は彼女の手足となって働いてくれる。六人と一人……これだけ人数がいれば、君一人よりよほど仕事も早い」
どや顔のレイブン様と、見せつけられた証明書を交互に見る。
正直、これには驚かされた。
適性者はどこにでもいるわけじゃない。
探すのは相当苦労したはずだ。
いつから本格的に動いていたのかは知らないけど、よくこの人数を集めたと思う。
まぁでも……これで私より上ですというのは、少し違う気もするけど。
ロシェルさんはそれでいいのかな?
私は彼女に視線を向けた。
ニヤっと笑みを浮かべて、自慢げな顔をしている。
どうやらこれでいいみたいだ。
自分の力ではなくても、力をもっている人材をまとめる役は意外と大変なのかもしれない。
私はやったことがないから知らないけどね。
「わかったかい? もう準備は万全なんだ」
「そうみたいですね。でしたら婚約の破棄を受け入れましょう」
元より彼のことが好きというわけじゃない。
むしろ私の大切な仲間たちを臭いとか汚いとか、言いたい放題言うからちょっとムカついていたし。
いい機会だから婚約も解消してスッキリしよう。
私に伸し掛かる重みが、一つ消えてくれた。
と、喜んでいたら――
「それだけじゃない。君には宮廷から出て行ってもらうよ」
「……はい?」