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12.天と地

 セルビアが消えた宮廷は慌ただしかった。

 主に調教師たちが、脱走してしまった生物たちの捜索に当たることになったからだ。

 

「なんで私たちまで」

「本当よ。失敗したのってあれでしょ? ロシェルさんとこの」

「しっ! 聞こえるわよ。一応彼女、レイブン様の婚約者なんだから」

「ふんっ、そのレイブン様がビーストマスターだったセルビアさんを追い出したって噂よ。面倒なことをしてくれたわまったく」


 ロシェルや彼女の部下を除く調教師たちも、この件には無関係でありながら捜索に駆り出された。

 今回の失態は、宮廷調教師全体の管理不足としてお叱りを受けたからだ。

 しかし実際は違う。

 レイブンが先導し、セルビアを追放した後釜に、ロシェルと新人をはめ込もうとした結果である。

 皆、セルビアのことは快く思っていなかった。

 平民でありながらビーストマスターの地位についていたから。

 誰もが嫉妬していた。

 と同時に、その実力は認めていた。

 同じ力の一端を持つものだからこそ、セルビアがいかに優れた存在が理解できていたから。


 ロシェルは未熟だった。

 理解しているようで、何もわかっていなかった。

 自身とセルビアとの間にある、見えないほど深い溝を。


「ロシェル」

「レイブン様」


 彼女の元にレイブンがやってくる。

 ひどく暗い表情で、怒りに満ちた瞳で。


「今すぐセルビアを探す。君も協力してもらうぞ」

「え、セルビアさんを、ですか? どうして今さら、彼女は追放して――」

「言わなくてもわかるだろう!」


 レイブンが怒りに声を荒げる。

 部屋中に響き渡る声量に、ロシェルは怯えて震える。

 

「この状況こそが理由だ! 他の何がある!」

「……申し訳ありません」

「まったくだ! 君たちが彼女の代わりをできるというから進めたのに! このままでは僕が責任を取らされる。わかっているな? 君たちも同罪だぞ」

「――っ、はい」


 ロシェルも言い返したい気持ちはあるだろう。

 しかし、セルビアの代わりを自分たちがすると、そう進言したのはロシェルだった。

 彼女が一番、セルビアの力を見誤っていた。

 自分しか見えていなかったのだ。

 彼女を蹴落とし、自分が上に立つ未来を夢想して、現実と乖離していた。


「部下たちも総動員して探すんだ。見つけ次第僕に報告しろ。可能ならその場で連れ戻す。もしも抵抗するようなら……手段は選ばない」

「レイブン……様?」


 それはかつて見たことがないほど、どす黒く下劣な表情だった。

 ロシェルは察する。

 自分が利用した男が、どれほど愚かで恐ろしい思想を持っているのか。

 その瞳は、まるで餓えた魔物のようだった。


  ◇◇◇


「やってくれたな。セルビア」

「ごめんなさい……」


 しょんぼりしながら謝罪する。

 リクル君がため息をこぼし、報告書に目を通す。


「王都の空を突如覆った謎の大蛇……おかげさまで王都は大混乱だよ」

「……はい」


 張り切りすぎた。

 みんなにいいところを見せたくて、ウロボロスを召喚してしまった後で気づく。

 ここはセントレイク王国じゃない。

 私のことを誰も知らない。

 そんな場所で、いきなり空に大蛇が出てきたら?

 誰だって怖いし驚くよね。

 

「考えが及びませんでした……」

「いや、まぁ俺も変に煽った気がするし、責められる立場じゃないんだが……次からは何を召喚するか、事前に相談してくれ」

「はい」


 私は改めて、深々と頭を下げた。


「本当にごめんなさい」

「ああ、次から気を付けてくれ。基本的に王都内で召喚は使わないこと」

「そうします」


 今日までの人生で一番の反省を見せる。

 一先ず今回に関しては大きな騒ぎになるまえに納めることができた。

 事態を察したリクル君が手を回し、王都の人たちに私のことを紹介してくれたんだ。

 新しい宮廷調教師が入ることになったこと。

 その試験をしていた、という嘘の情報を混ぜ合わせて。

 ビーストマスターであることも同時に公開したおかげで、恐怖心はほぼ全て期待へと昇華された。


 この国にもついにビーストマスターが誕生した!


「今や国中その話題で持ちきりだぞ」

「な、なんだかお恥ずかしい」

「ははっ、これでもう逃げられなくなったな。お前は嫌でも、この国の一員として働いてもらうぞ」

「逃げるつもりなんてないよ。私も頑張るつもりでいるから」


 彼の手を取った時、私は決めていた。

 私はここで生きていく。

 人間らしい生活をして、当り前の幸せを手に入れるんだ。

 そのためにも。


「さて、本格的に仕事を始めてもらうことになるんだが、何か希望はあるか? 期待のビーストマスターだ。大抵の希望なら通るぞ」

「じゃあ、休みをちゃんとください!」

「ん? ああ、そうだったな。お前はそれすらなかったのか」

「うん。だからほしいものってそれくらいなんだ。ちゃんと休みがとれて、仕事とプライベートを分けたい」


 それだけが私の欲だ。

 と伝えると、彼は笑ってしまう。


「ふっ、国の象徴にすらなりえるビーストマスターの願いが、ただ休みがほしいだけか。そんなことを願うのはきっとお前くらいだぞ?」

「そうなのかな? 他のビーストマスターには会ったことないからわからないけど、みんな忙しいんじゃないかな?」

「お前ほどじゃないさ、きっと。よしわかった。お前の希望はちゃんと聞こう。ちゃんと働いて、ちゃんと休め!」

「うん。ありがとう」


 それさえあればいい。

 休みがあるだけで、私にとっては天国だ。


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