10.規格外
驚きの声は大きく響き、鼓膜がじんじんと震える。
予想を超える大きな反応に私は驚かされ、殿下は笑う。
「ま、まじなんすか? ビーストマスターって」
「事実だぞ? 彼女はセントレイク王国でビーストマスターの称号を得ていた」
「し、信じられない……ビーストマスターなんて都市伝説か何かと思っていました」
「都市伝説はないだろ? 他にもビーストマスターを抱えている国は存在している」
リクル君がそう言うと、ルイボスさんはメガネ、ではなく顎に手をあて考えながら言う。
「いえ、あれも偽装しているだけかと思っていました。三種の適性者さえいれば誤魔化すことは容易でしょうから」
「二つ適性がある人でも珍しいのに、三つなんておとぎ話の域っすよ」
「そういう認識なのか」
リクル君はなるほどなと、一人で納得していた。
ビーストマスターに対する認識は、国によって様々なのかもしれない。
少なくともこの国、二人にとってビーストマスターは、空想上の存在でしかなかった。
疑いの眼……というより、信じられない者を見る眼だ。
「ホ、ホントにビーストマスターなんすか?」
「はい。一応」
「じゃ、じゃあ証拠! 証拠を見せてほしいっす!」
「リリン、いきなりそれは失礼だぞ」
「だって信じられないんすよ! セルビアさんウチと同じくらいの年の見た目っすし、ビーストマスターなんて見たことないっすから! 先輩だって見たくないんすか?」
「それは……そうだが……」
二人の視線が私に集まる。
私は困ってしまう。
「えっと……」
ビーストマスターである証明?
って、どうすればわかってもらえるのかな?
三つの適性を見せればいいのかな?
「セルビア、何か見せてやってもらえるか?」
リクル君からもお願いされる。
私は悩みながら答える。
「見せるのはいいけど、どうすればいいのかな? テイムした生き物は向こうの国に置いてきちゃったし、憑依は身体への負担が大きくて相手の同意もいるから、意味なく使いたくないんだ。だから見せられるとしても召喚だけになるの」
「そうなのか。だそうだが、どうだ二人とも」
「た、確かにそうっすよね。お手軽な力じゃないっすもん」
「うむ、僕としたことが軽率だった」
二人とも申し訳なさそうに……。
そして残念そうな顔をする。
なんだか私まで悪い気持ちになってきてしまった。
「全ては見せられませんけど、召喚だけでもよければお見せできますよ?」
「そうっすね。せっかくなら見せてもらいたいっす」
「うむ。僕も同じサモナーだ。セルビアさんが何と契約しているのか、個人的に興味もある」
「いいな。俺も少し興味はあるんだ。知り合ってから随分経つが、直にお前の力を見せてもらったことはなかったし」
言われてみればそうかもしれない。
リクル君の前で、私が調教師らしいところを見せたことがない。
あるとすれば街で助けられた時。
私は召喚を使おうとして、リクル君に止めてもらった。
「じゃあ、外に移動してもいいですか?」
「ああ」
せっかくだ。
リクル君にも見てもらおう。
この十年で、私がどれだけ成長したのか。
立派なビーストマスターになれたことを。
気合を入れて外に出る。
宮廷の庭は広いけど、セントレイクに比べたら小さいほうだ。
ざっと見渡し、スペースを確認する。
予想していたより小さい。
この広さだと、召喚できる対象にも制限が出てしまう。
「何を召喚するっすかね~ やっぱ聖霊っすか?」
「女性は聖霊に好かれやすい。可能性としては一番高いだろうね」
「あー、だから先輩って聖霊を召喚できないんすね。嫌われてるから」
「ぐお……どうして君はそういうことをストレートに言えるんだ」
彼らが談笑している間に、私は何を召喚するか思考する。
ルイボスさんの言う通り、女性サモナーは聖霊に好かれやすく、契約していることが多い。
私も、契約している相手なら聖霊が一番多い。
けど、せっかく見てもらうんだ。
どうせなら見栄を張りたい。
特にリクル君には、私の成長を知ってほしい。
この広さだと限界だ。
だったら……。
私は空を見上げる。
「……よし」
決めた。
私はカバンから黒い結晶を取り出し、左手に握る。
「あれは黒石? 魔獣を召喚する際に使われる媒体だ」
「ってことは魔獣っすか。聖霊じゃないっすね」
「そうらしい。しかし……なぜ上を見上げているんだ?」
「さぁ? もしかして、空に召喚陣を作るんじゃないっすか? すっごくでかいのを」
「まさか。さすがにそれは――」
左手を突き上げ、右手で支える。
媒体に魔力を流し、召喚の呪文を唱える。
「巡れ、回れ、呼び戻せ――生と死の円環に牙を立てよ」
巨大な召喚陣が展開される。
王都の空を覆いつくすほど巨大で、どす黒い輝きで満たされる。
私は集中している。
誰の声も聞こえない……いいや、誰も口を開かない。
ただ黙って、空を見上げている。
「【サモン】――ウロボロス」
直後、稲妻が召喚陣に落ちる。
光と力に満ち溢れ、天を裂くように大蛇が現れる。
自らの尾にかみつき、円運動を続ける魔獣。
ドラゴンに並ぶ世界最強の一角。
生と死、永遠の時を司る大魔獣。
「ウ、ウロボロス!?」
「馬鹿な! 人間が契約できる魔獣じゃないぞ!」
「……はは、これは思った以上だな」
空を見上げていた三人が、ゆっくりと視線を戻す。
「どう、でしょうか?」
驚いてもらえたかな?
納得してもらえただろうか?
私がここで働くことを。
「す、すごすぎるっすよ」
「これがビーストマスター……なのか」
「規格外だな、セルビア」
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