1.ビーストマスター
ノベル第一巻が8/4に発売されました!
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調教、召喚、憑依。
人間が異なる生物を使役する方法は大きくこの三つである。
それぞれに異なる才能を必要として、そのうち一つでも適性を持っていれば、才能ある者として期待される。
二つに適性がある者は天才だと誰もが認めるだろう。
そして――
三つすべてに適性を持つ者は、天才の中の天才。
真に選ばれし者。
規格外、例外なく世に名を遺すであろう存在を、人々は敬意を表してこう呼ぶ。
――【ビーストマスター】
その称号を持つ者は、長い人類史の中でも数えられる程度しか存在しない。
世界に存在する多くの国々にとって、魔物や聖霊を使役できる者たちの存在は重要であった。
なぜなら現代において、彼らが使役する生物たちの力こそが、その国の力の象徴だから。
ビーストマスターがいる国は、どの国からも一目置かれる。
場面によっては、国王よりも重要な存在となる。
そんな私、ビーストマスターの称号を持つ宮廷調教師のセルビアは……。
「君との婚約を破棄させてもらうよ。セルビア」
人生最大の転機を迎えていた。
それは唐突に、何の前触れもなく告げられた。
清々しい朝だった。
これから仕事へ向かおうと、駆け足で宮廷の廊下を歩いていた時のことだ。
まだ誰も出勤していないような時間なのに、彼は待っていた。
「……レイブン様……今、なんとおっしゃったのですか?」
「聞こえなかったのかい? それとも人外の声ばかり聞き過ぎて、人間の言葉が理解できなくなったのか?」
鋭いナイフのような辛口なセリフを言い放った彼は、私の婚約者であるレイブン・セネガール様。
王国でも有数の貴族の家柄で、次期当主になることが決まっている。
婚約したのは三年ほど前、私が宮廷に入ったばかりの頃だった。
これでも長い付き合いになる。
だから驚いていた。
「君との婚約を破棄する。もううんざりなんだ。ずっとこの関係を解消したかったんだ」
「……」
知ってましたよ。
そんなこと。
婚約をした最初の日から、あなたは私のことが嫌いでしたよね?
理由は言わなくてもわかっています。
「僕は動物が大嫌いなんだ! それなのに君の周りには常に人間以外がいる! いくら君がビーストマスターの称号を持っていても関係ない。君の身体からは動物の匂いしかしない。僕が耐えられるわけがないだろう!」
「……大変そうですね」
正直ちょっと同情はしている。
私との結婚は、彼が望んだものではなかった。
彼の家が勝手に決めたことでしかない。
ビーストマスターの称号を持つ者は、国の将来を担う最重要人物だ。
それほど希少な存在を、自らの家に招き入れることで、自身の権力をより強くする。
彼ではなく、彼のお父様の思惑によって、私と彼は婚約した。
「大体おかしいんだ! 確かに君はビーストマスターだ。でも身分は平民じゃないか。僕は平民を妻に貰う気なんてさらさらない」
そう、私の身分は平民だ。
貴族じゃない。
幼いころに両親を亡くした私は孤児だった。
孤児院で暮らしている中で、ビーストマスターになれる素質を見出される。
その後は王宮にある教育機関に預けられ、宮廷で働くための教育を受けさせられた。
ビーストマスターの称号を頂いた今も、身分は変わっていない。
貴族ではないくせに宮廷入りし、ビーストマスターになった私は、貴族出身の同僚たちからはとても嫌われている。
おかげさまで上司からのパワハラもたくさんだ。
という感じに、私としても今の環境が幸せかと聞かれたら、首を傾げるだろう。
レイブン様の気持ちもわからなくはない。
婚約破棄したいというならすればいいと思うけど……そう簡単な問題じゃないはずだ。
「お言葉ですがレイブン様、私たちの婚約は、私たちの意志だけで破棄することはできません。あなたの御父上、セネガール公爵様の許可が必要です」
「ふん、そんなこと言われるまでもなく知っている。この僕がただ感情のままにこんな話をしていると思うか?」
「え……」
違うんですか?
と、口から出そうになった言葉をギリギリしまい込む。
いつも私を見る度に嫌な顔をして、動物臭いから近寄るなと怒鳴る彼のことだから、いつもの発作的なあれだと思っていた。
彼はニヤリと笑みを浮かべる。
「ようやくだ……ようやく準備が整った。君との婚約を解消し、このふざけた悪縁を絶つための!」
興奮気味に宣言するレイブン様。
いつもみたいに感情的になっているようにしか見えない。
ちゃんと考えがあるのだろうか。
私は首を傾げる。
すると、私の後ろからコトン、コトンと足音が響く。
わざと響かせているんじゃないか。
そう思えるくらいハッキリと、こちらに向かって歩いている。
レイブン様からはその人物が見えている。
彼は笑った。
得意げな顔で。
私は後ろを振り返る。
「ごきげんよう、セルビアさん」
「ロシェルさん?」
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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