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ヨーロッパの覇者が向かうは異なる世界  作者: 鈴木颯手
第1章【転移と戦争介入】
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第8話「ベルエガ戦争6」※

神聖歴1222年8月18日 アーシア公国公都アンクール

 アーシア公国が神聖ヨーロッパ帝国の介入に気付いたのは意外にも侵攻から4日後の事だった。ただし、これはアーシア公国が独自に知れたわけではなく、アーシア公国の本土に神聖ヨーロッパ帝国軍10万が上陸したためである。地平線まで続きそうな大軍にアーシア公国側は大パニックとなっていた。


「馬鹿な……! あんな大軍をどうやって……!」


 大公ルセイマン4世は頭を抱える。アーシア公国及びベルー王国にとって1万と言う軍勢ですら自国では集められない大軍なのだ。それにも関わらずにそれよりも一桁多い10万の軍勢と言うのはただただ茫然とする以外にどうしようもなかった。


「ブランデル島の兵を引き抜けないか?」

「残念ですが無理です。敵の船は強力で、我が船団は多大な被害を受けています。更に敵は舟から魔導砲のようなもので攻撃をしてきており、沿岸部に甚大な被害が出ています」

「魔導砲だと!? 敵の技術力は彼の大国レベルということか!?」

「可能性は高いでしょう。その場合、我らに対抗する手段はありません」


 そもそも、彼の国が北部に侵攻する際にその道案内をする代わりに侵攻後の国内の自治権と技術供与を受ける事で膠着した戦線に動きを見せようとしたが、結果的にベルー王国も同じような事を行って自らの有利に動かした。

 その事実にルセイマン4世は絶望感を感じるがそうこうしている間にも神聖ヨーロッパ帝国軍は内陸に侵攻を開始していた。


「……陛下、我らが時間を稼ぎます。この情報を以て彼の国に亡命してください」

「っ! 余に国を捨てろというのか!?」

「我らが彼の国に従属を誓った時点で国ではなくなりました。加えて、今陛下がここに居ても出来る事はありません。ならば、少しでも希望があると信じて彼の国に助けてをもらうべきでしょう」

「……」


 ルセイマン4世は黙り込む。頭では理解できるが心はそうではない。国の頂点に立つ者として国の為に戦いたかった。しかし、現状ではどうしようもない事は事実であり、ここで無駄死にをするわけにはいかなかった。ルセイマン4世は悔し気な表情をして、絞り出すように呟く。


「……将軍、亡命の準備を」

「かしこまりました」


 将軍と呼ばれた男は覚悟を決めた表情で返事をするのだった。









神聖歴1222年8月31日 神聖ヨーロッパ帝国帝都神聖ゲルマニア

 神聖ヨーロッパ帝国による戦争介入から既に2週間以上が経過したこの日、神聖ヨーロッパ帝国では重要な会議が開始された。会議には皇帝であるカイザー・ヴィルヘルムを始め政治・軍事・外交を担う皇族たち、更にそれ以外の関係者と総勢100人を超える人数が集まっていた。


「では、早速ですが本題に入りましょう。アーシア公国は予想外にも我々の統治に反発しています」


 既にアーシア公国本土は完全なる占領が果たされていた。最後まで抵抗した将軍と呼ばれる人物を始め国家の中枢の人間は大半が死亡が確認されている。後はこの地を神聖ヨーロッパ帝国の植民地乃至海外領土とするべく統治をするだけなのだが、予想外にも現地人の大規模な反発や反乱、ボイコットが行われた。そのせいで統治政策は停止し、駐留軍が休む暇もなくそれらを鎮圧し続けているが鎮圧しては新たな反乱やボイコットが発生する等いたちごっこに近い状況となっていた。


「どうやら反乱を起こしている者達に大規模な支援を行っている国が存在する様です」

「それは何処か判明しているのか?」

「判明はしていません。ですが、予測は可能です。先ずはこれを見てください」


 報告をしていた男がそう言うと中央部に設置されたモニターからダルクルス大陸の全体図が映し出される。介入時には北部しか判明していなかったこの大陸も現在ではその形をしっかりと見ることが出来ていた。


「これが現在のダルクルス大陸の様子です。……見ての通り、南部から中部にかけて強大な国家が存在しています。彼の国の名前はバルパディア。ダルクルス大陸において他の追随を許さない国力と、最低でも産業革命時の国力をゆうしていると思われます」

「産業革命……。遂に我が国と同等の国家が現れたか……」


 神聖歴1000年から1100年にかけて起きた産業革命の成功で神聖ヨーロッパ帝国は世界最強の国家へと至った。それから100年後に中華帝国も産業革命に成功するまで神聖ヨーロッパ帝国は常に連戦連勝と言ってよかったが結果的に腐敗と孤立化を促進させる結果となっていた。


「帝国先端研究所です。アーシア公国より鹵獲した装備を解析しました。今も解析中ですが現在までで判明している事を報告します。先ず、バルパディアの技術は科学技術がほぼ使われておりません。基礎的なものは使われている様ですがこの世界で一般的な魔導技術によるものの様です」

「魔導技術か。それはどれほどのものなのだ?」

「詳しく話すには情報が不足していますが科学技術と同じ発展を遂げられる可能性を秘めている事だけは判明しています」


 その言葉は現在では科学技術の方が勝っていると言っているに等しかった。それはつまり少なくともバルパディアは神聖ヨーロッパ帝国を超える技術は持っていない可能性が高いという事である。その事に誰もが安堵を見せつつも油断せずに今後の動きを考える。


「彼らに与えられた物は旧式の様でこれが一世代前のものか、それとも何世代も前のものかで敵の軍事力は分かるでしょう。ですが、現在はもっと情報を得る必要があります」

「その件については情報局の方で既に動いています。……昨日彼の国に密入国出来たと報告がありました。今後は敵の様々な詳細を報告させる予定です。恐らくですが明後日辺りには表面上の敵の様子が判明するでしょう」

「軍部もバルパディアが動く可能性を考えて海と陸両方において防衛体制を整えています。ですがアーシア公国本土は最悪の場合放棄してベルエガ群島の防衛を優先しようと思っています。かの地では抵抗運動が起こっていませんので」


 それぞれの分野の代表者が報告や今後の対策を話しながら会議は続く。約三時間後に会議は終了し、神聖ヨーロッパ帝国の今後の動きはほぼ決定された。そして、それとほぼ同時にダルクルス大陸最強の国家バルパディアも大小さまざまな動きを見せ始めていた。


挿絵(By みてみん)

南方世界の全図

紫:神聖ヨーロッパ帝国領

薄紫:神聖ヨーロッパ帝国の占領地

青:神聖ヨーロッパ帝国の友好国

黄:ベルー王国領

緑:バルパディア領

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