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ヨーロッパの覇者が向かうは異なる世界  作者: 鈴木颯手
第1章【転移と戦争介入】
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第7話「ベルエガ戦争5」

神聖歴1222年8月14日 ベルエガ群島 ブランデル島アルトウェッペン

 ブランデル島において最大の都市だったアルトウェッペンは神聖ヨーロッパ帝国軍の強襲上陸により占領された。前日に行われた艦載機による地上攻撃でアーシア公国軍は全滅しており、上陸した5万の兵を妨げるものは爆撃で誕生したクレーター以外に存在しなかった。


「技術力に格差があるとこうなるのか……」


 上陸軍に所属しているフィリップ一等兵は爆撃で吹き飛んだ敵兵の死体を見ながらそう呟いた。事前に通達されていた通り敵の攻撃はなく、先発隊が無事に廃墟と化したアルトウェッペンを制圧しており、敵のゲリラ攻撃も行われていない。入隊3年目で漸くの初陣だが拍子抜けするほど呆気ないものとなりそうだった。


「フィリップ! ぼさっとしてないで死体を集めろ! 放っておいて腐っても困るからな」

「っ! 了解!」


 上官に怒鳴られたフィリップは慌ててゴム手袋とマスクをして死体処理を始める。因みに、神聖ヨーロッパ帝国において戦場の死体処理は新兵の役目となっている。その為に入隊して最初に教わるのが死体処理の方法と運び方、死体を見ても冷静でいられるコツなどである。フィリップも当初は死体処理を楽に出来る程圧倒的な戦争が起こるとは思っていなかったがこうしていればあの訓練も無駄ではなかったと思えてくる。


「とは言えこの調子だと何時まで経っても終わらなさそうだな……」

「フィリップ! サボるな! 手を動かせ!」

「は、はい!!」


 どこまでも続く死体が転がる地面を見てげんなりしていると再び上官から怒鳴られ慌てて死体処理を再開するのだった。








同刻 ベルエガ群島 ブランデル島フルーベ

「本国は一体何を考えているのだ!」


 ブランデル島はベルー王国とアーシア公国の主力が一進一退の攻防戦を繰り広げている島である。その為、その主力軍を率いているヴァース将軍は少なくともベルー王国内でかなりの権力を有していた。

 しかし、そんな彼は本国が勝手に決めた神聖ヨーロッパ帝国との取引を後から聞いて不満を持っていた。何故突然現れた国家に我らが降らねばならないのか? ベルー王国とて斜陽の時を迎えてきているがそれでも確かな実力を持つ国であるとヴァースは考えていた。


「おい! 今すぐ船の準備をしろ! 本国に行き直談判してやる!」

「で、ですが本国より神聖ヨーロッパ帝国が既に動き出しているとの事で……。動き次第では我らも軍勢を動かす準備が必要です……」


 神聖ヨーロッパ帝国が介入しようとも、この戦争はベルー王国とアーシア公国によるものである。その為、自分たちの戦争であると示すために神聖ヨーロッパ帝国の動き次第ではあるがこちらも動く必要があった。神聖ヨーロッパ帝国がアーシア公国と戦っている間、見ているだけという状況だけはつくるわけにはいかないのだから。


「……」

「それにアーシア公国は彼の大国の兵器を手に入れたと聞きます。それらは兵士が何人いようとも負けない強さを持っているとの事。将軍の差配なければ対抗すら難しいです」

「……そうか。ならば直談判はやめよう」


 部下の必死な引き留めを聞いて渋々と言った感じだが留まる事を決意したヴァース将軍にホッと胸をなでおろす。実際、全軍の指揮権を唯一握る将軍が不在になるのは色々と困るのも事実であった。


「ならば我らで決着をつけるぞ。敵は兵器を手に入れて浮かれているだろう。ならばその心の隙をつく。我が直下の騎兵200は出陣準備! 前線の部隊と合流後、敵に奇襲攻撃を仕掛ける!」

「っ! はっ! しかし、将軍も出られるのですか?」

「我が直下の騎兵を指揮できる物が他にいるのか?」

「いえ、そう言う訳では……」


 ヴァース将軍直下の騎兵。それは元が山賊などのあれくれ者のみで構成された部隊であり、その関係上指示を素直に聞くような者達ではなかった。彼らを全員自分でそろえたヴァースのみが、彼らを軍として機能させながら戦闘が出来る唯一の人物だった。


「我らの力で以て敵を殲滅してくれる! これまでは敵と兵数が互角ゆえに慎重な行動をするように命令されていたがもうそんな必要もない! 敵の力が増す前に決着をつける!」


 そう叫ぶとヴァースはすぐさま騎兵を招集すると自ら先頭を切って前線へと向かっていく。それは部下が止める間もなくと言った言葉が似あう程素早い行動だった。


「我らこそ世界最強の騎兵である! 我らで倒せない存在などいない事を証明せよ!」

「「「「「ウオォォォッ!!!」」」」」


 ヴァースの鼓舞に騎兵たちは獰猛な雄たけびを上げる。そして、そのまま住民がいなくなった前線付近の町まで来ると前線の指揮官が出迎えた。


「ヴァース将軍!? こんな前線までどうして……!」

「敵を倒しに来た。敵はどうなっている?」

「それが……」


 指揮官は何処か言い辛そうにしつつ櫓を兼ねている町の塔に案内するとそこから見える前線の風景を見せる。……そこには悲惨な光景が広がっていた。大地は焼け、地面は陥没し、死体は四肢がもがれて血をあたりにまき散らしている。地獄絵図と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。


「何だあれは……!」

「昨日です。轟音とともに空から何かが襲来してアーシア公国軍をみなごろしにしていきました……。それも僅か数分の事でして……」

「数分!? 数分でこれほどの被害を与えたというのか!?」

「はい。恐らく本国が言っていた神聖ヨーロッパ帝国の仕業ではないでしょうか? 出なければ我々を攻撃しないで敵兵だけを攻撃するとは思えません……」


 ヴァースはあまりの光景に絶句しつつ、漸く理解できた。何故本国が見た事も聞いたこともない国家に頭を下げる事になったのか。理由は明白だった。一目見ただけで自分たちでは叶わない相手だと理解できてしまったからだ。それはこの様な光景を見て初めて知るものではなく、見なくても分かる程強大な存在だったからだ。ヴァースは少し前までの自分がどれほど愚かだったのかが理解できる。これほどの力を持つ国に反抗しようものなら?きっと戦闘と呼ぶ事すら出来ない程一方的に攻撃されるだろう。


「……全兵士に厳命せよ。前線を出て進むような事はせずに陣地に引き籠れと。それと我が国の旗を見やすい様に高く、多く掲げろと」

「将軍……」

「敵と間違えられて攻撃されては不味い。これほどの力だ。本国すら片手間に滅ぼされるぞ。……何をしている! さっさと通達しろ!」

「は、はい!!」


 指揮官は慌てて塔を駆け下りていく。これ以降、ベルー王国軍は陣地を出る事はなく、また自国の国旗を高く、多く掲げて自分たちがどの軍隊なのかを分かりやすい様にした。

 それが功を奏したのか、前線に神聖ヨーロッパ帝国軍が姿を現すまで彼らが攻撃を受ける事はなかった。


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