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ヨーロッパの覇者が向かうは異なる世界  作者: 鈴木颯手
第1章【転移と戦争介入】
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第1話「年末」

神聖歴1221年12月31日 神聖ヨーロッパ帝国 帝都神聖ゲルマニア

 たった一つの違いから生じたパラレルワールド。そんな世界の地球にはヨーロッパ全土を支配下に置く強大な帝国が存在した。カール大帝より延々と続く一つの統一王朝はこの日最も神聖な日を迎えていた。一年の締めくくりであり、より良き日と信じて迎える最初の一年の前日だからだ。

 この日は誰もが祝う。町に出れば酒を飲み、肉を食い、親しき友たちと他愛ない話で盛り上がる。家の中では家族で穏やかに過ごし、仲を深めていく。

 それは神聖ゲルマニアの中心地に聳え立つ皇城においても変わりはない。齢48の皇帝カイザー・ヴィルヘルムを始め皇族は一堂に会し、大いに遊び、笑い、食事を摂る。


「一時は亀裂が入っていた皇族もこうして全員が仲良くできるようになったか……」


 そんな様子を楽し気に眺めているのはカイザー・ヴィルヘルムであり、彼は幼少期にあった皇族同士の血なまぐさい争いが欠片も見受けられない様子に満足気に呟いた。即位してから僅か10年程で改善できるとは彼も思っていなかったがこうしてみんなで仲良くしている様子を見ると無駄ではなかったと再認識できた。


「おじい様! 一緒に遊びましょう!」

「じいじ! これ上げる!」


 そんなカイザー・ヴィルヘルムに二人の孫が近づいてくる。数十年後には皇帝となるであろう長男とそれを支える次男の二人の純粋な笑みに自然と彼の顔は綻んでいく。そこには民衆に向ける強大な国家の皇帝としての威厳ある表情は見受けられない。喜んで孫二人と遊び始めた。


「こうしてみると新大陸に手を出さないのは正解だったかもしれないな」

「そうですね。本格的に介入をしていれば今頃書類の山に埋もれていたでしょうからね」


 “東の覇者”、“アジアの帝王”の異名を持つ中華帝国。彼の国の調査団が発見した新大陸。様々な国家が入植を行ってから既に200年近い年月が流れているが自分たちとは違う、高度な文明を持つ現住民族の反抗に遭って尽く失敗していた。ヨーロッパの統一や東方遠征に力を向けていた神聖ヨーロッパ帝国は新たな拡大先としてこの大陸に手を出すべきか否かという議論がされていたが結果的に現段階での侵攻は見送られた。その結果としてカイザー・ヴィルヘルムを始め官僚たちは穏やかな年末を迎えることが出来ていた。


「とは言えあの大陸は魅力的だ。我らの技術力があれば占領は可能ではないか?」

「そうなった場合中華帝国やアフリカ諸侯も軍隊を派遣するでしょう。新大陸を部隊に世界大戦をする事になりますわよ?」

「それは勘弁だな」


 50年前に発生した中華帝国と神聖ヨーロッパ帝国による国家の総力をあげた戦争。アフリカ諸侯やオセアニア地域にまで飛び火したこの大戦で両国は現代戦として括られた戦争方法に恐怖した。それ以来世界各国は紛争などの小規模な戦闘行為すら警戒する程戦争を禁忌として扱っていた。


「中華帝国も情報部の調査で原子爆弾の開発に成功したらしいからな。流石にあれを使われれば俺達だってただでは済まない」

「あら? それさえなければ中華帝国に対して負けないと言っているように聞こえますわ」

「実際そうだろう?」


 10憶もの人口を有し、あらゆる資源を独占する神聖ヨーロッパ帝国。その分軍事力も強大であり、中華帝国が漸く兵器にした原子エネルギーを用いた様々な戦艦や空母、潜水艦を実戦運用している。それ以外においても人口以外の面で中華帝国より優位に立っている。戦争に対する忌避がある故に攻撃をしないだけで両国が戦えば神聖ヨーロッパ帝国が勝利できるというのは詳細を知る者なら誰もが知っている事であった。


「たった50年でここまで差が出るとは思いませんでしたわ」

「戦争行為を嫌い、成長を止めた彼ら(中華帝国)と、戦争になっても勝てるように準備を続けてきた俺達(神聖ヨーロッパ帝国)の差だ。新大陸問題が片付けたら世界の覇者に名乗り出るのもいいかもしれないな」

「それもいいかもしれませんわんね」


 純粋に今を楽しむ子供たちを見守りながら大人たちは楽しみつつも政務の事を忘れない。世界情勢の話をしつつ来年の国家運営を話し合うのだった。





 そんな誰もが思い思いの年末を過ごし、神聖歴1222年1月1日を迎えた時、


神聖ヨーロッパ帝国は地球から姿を消した。


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