濡れ衣
「あとは、玉座の間に好き好んで入ってくると言えば……女勇者くらいか」
女勇者か……可能性はゼロではない。
「たしかに、玉座の間の位置を知られてから瞬間移動で好き勝手に来ますからねえ……」
だからといって、そんなに都合よく玉座の間に来て何も言わずに銃だけ奪って逃げたりするだろうか。
勇者がやることじゃない……。でも、魔王討伐こそ勇者の最終目標なのだから……有り寄りの有りなのかもしれない。
「早く魔王城を移転させなくてはなりません」
「無理無理無理! そんな余裕これっポッチも無いぞよ」
人差し指と小指でこれっポッチを表す。
「たしかに」
魔王軍の年間予算は火の車なのだ。火だるまなのかもしれない。
「では参るぞよ」
「はっ」
「瞬間移動――」
魔王様の瞬間移動の魔法で、女勇者が住む小さな小屋へと移動した。
真夏の小さな小屋は蝉の声すら聞こえてこない。
熱い日差しにクラっとしそうだ。全身金属製鎧だから表面で玉子焼きが焼けるくらいに温度が上がるぞ。
「早く用を済ませて帰りましょう。暑過ぎます」
「長居は無用ぞよ」
コンコンコン。
小屋の扉を壊さないように加減してノックする。
「……」
返事がない。
「おかしいなあ。返事がないなんて。無駄に文字数ばかり増えてしまいます」
「それは言ってはいけないぞよ。予が中の状態を魔力スキャンするぞよ」
「お願いします。急に開けてお風呂上りとかは危険です」
美味しいところを全部持っていかれます。
人気を全部かっさらわれてしまいます。
「禁呪文、『キゾノ・ドントホ!』」
「……」
……ネーミング。というより、魔王様は扉に開いた小さな穴から中を覗き見しているのでガッカリする。禁呪文じゃなさそうで……やっちゃいけないから禁呪文のような行為でもある。
「大変ぞよ! 女勇者が部屋のど真ん中で倒れておるぞよ!」
「マジっすか」
慌てて扉を開けると、女勇者はテーブルの横にぶっ倒れていた。何者の仕業――というよりも――。
――部屋の中が……外より熱い――!
「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」
完全な熱中症じゃないか。女勇者の体からは汗すら出ていない。抱き起しても反応がなくてぐったりしている。
「アワワ、アワワ、どうしたらよいのだ」
アワワって口で言わないで。
「落ち着いてください。魔王様が慌てないでください。あんた元気でしょ」
アワワと言いながら口に手を入れてオロオロしないでください。ムックか! 冷や汗が出る、古過ぎて。
「冷やす魔法と体力を回復する魔法でなんとかなるでしょう。小癪にもまだ息はあります」
勇者は魔王様の天敵なのだから、本来は助ける義理はない筈なのだ。
「うむ。極寒魔法! 回復飲料水!」
だからネーミング! それに、普通こういうときは「経口補水液」だろう。
魔王様の得体の知れない魔法で部屋の中は24℃まで下がり、女勇者の体温もみるみるうちに適温になった。36℃。
「36.5℃の方が良かったかなあ」
「微妙でございます」
「う……ううん」
女勇者の目がゆっくりと開き、ホッと胸を撫でおろす。
「気が付いたか」
「助かったぞよ! よかったぞよ!」
涙目で喜ぶ魔王様……あんたの敵なんよと言ってやりたい。
「ここは……どこ」
「お前の小屋だ。熱中症でぶっ倒れていたのだぞ」
「え? あ……そうか。……お腹空いてクラっとして……机の角で頭ぶつけたんだった」
「「ドジっ子――!」」
女勇者をそっと椅子に座らせた。
「女勇者よ、夏は魔王様よりも熱中症の方が怖ろしいのだ。覚えておくがいい」
「ありがとう、助かったわデュラハン」
「礼なら魔王様に言うがよい。私は何もしていない」
オロオロする魔王様に的確な指示を与えただけだ。
「ありがとう、魔王様」
「礼には及ばぬ。それより女勇者よ、予の銃を知らぬか」
――はなし飛び過ぎだろ――。
「魔王様、いきさつを説明しなければ女勇者にはチンプンカンプンです」
読者も凄く不自然に感じることでしょう。文字数にはまだまだ余裕がございます。
「ごめんなさい。魔王様の銃なんて知らないわ」
「そうか」
「……」
何をしに来たのだろう――。顎からポタポタ汗が落ちる。部屋の中はまた熱くなってきている。
「ところで魔王様、銃ってなに? 食べ物」
いや、銃は食べちゃ駄目だ。先をくわえるなんてもっての他だ――。
「……いや、知らないのならよい。知る必要もないぞよ」
「ふーん」
「……」
むしろ知らない方がいいのかもしれない。
タッパーに入れた八宝菜を手渡し、たっぷりの水で樽を満たして女勇者の住む小屋を後にした。
玉座の間に帰ってくると太陽は西に傾いていた。
玉座の間に夏の夕陽が差し込む。玉座の間は年中魔王様の無限の魔力により快適に温度管理されている。
「魔王様、女勇者のように銃を知らない方が……世界は平和になるのでしょうか」
魔王様はいつも平和を願っている。であれば、銃など存在しない方がよいのは火を見るよりも明らかな筈だ。
「さらには、剣と魔法も知らない方が……幸せになるのではないでしょうか」
玉座に座る魔王様は静かに目を閉じられた。
今から昼寝するわけでは……なさそうだ。今寝たら夜寝られん。目が冴える。
魔王様はゆっくり口をお開きになられた。
「剣と魔法の世界から……剣と魔法がなくなれば、ほぼほぼ世界崩壊ぞよ」
「……たしかに」
だが、剣と魔法がなくなれば、残る世界は魔王様が望む平和な世界ではないのだろうか。
争いや火種がない……平和と共有の世界。
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