銃はチートな武器
「そもそも、銃は魔王様のお嫌いなチートではございませんか」
ようやく立ち上がると、いつもの場所に跪き直した。
「チートとな」
眉間にシワを寄せる魔王様。その表情は私がしたいぞ。羨ましいぞ。
「さようでございます。銃さえ持っていればどんなに弱くても労なく強い力を手に入れられます。これはチート以外の何物でもございません」
「むむむ」
銃を手にしたまま玉座へと座られた。どうでもいいから早く仕舞って。ソレ。
「そのような代物が、万が一にでも敵の手に……人間共の手に渡れば、我が魔王軍にとって脅威になります」
進んだ兵器はいずれ敵にもその情報が知れ渡ります。人間共が銃を大量生産すれば、それは争いの火種になります。
「そのときは、銃よりも強い兵器を作ればよかろう」
銃口をフーッと吹いて冷まさないで。
「銃を作ればミサイルを。ミサイルを作れば核兵器を作ればよかろう」
「おやめください。世界観が壊れます」
剣と魔法の世界にミサイルは刺激的です。タケノコミサイルで十分です。
「核兵器を作れば細菌兵器を。細菌兵器を作ればワクチン兵器を。ワクチン兵器を作ればロボット医者を作ればよかろう」
「ロボットもおやめください――」
剣と魔法の世界にロボットもいりません――。
――ワクチン接種ロボット医者が徘徊するような剣と魔法の世界は想像すらできません――。
「容易いぞよ。召喚魔法『アーターネミータ・ヨデイ!』」
「――!」
魔王様が禍々しい魔法を唱えると、ドシンと重々しい音を立てて骸骨姿の銀色人型ロボットが玉座の間中央に突如姿を現した。
身長は2m超え。私よりも少し大きいのが……腹立たしい。
「ダダンダンダダン。ダダンダンダダン」
……。
「オノマトぺを口で言わないで下さい」
「違うぞよ。これはBGMぞよ。ダダンダンダダン」
「……冷や汗が出ます」
未来のロボットなのに……古過ぎて。
恐ろしく赤く光る眼と磨かれた銀色のフォルムが……キャラが被っているようで腹立たしい。
そして両手には重火器ではなく、ワクチン注射。両手だから2回分……。
「……無駄に恐ろしいでございます」
これならR2○D2や3P〇タイプのロボットの方が効率的な気がします。怖くありません。フレンドリーです。
ズシンズシンとロボットは玉座の間を出て行ってしまったのだが……いいのだろうか。
「よい。魔王城の保健室勤務とする」
「保健室ですか」
……なんか嫌だなあ。保健室に行きたくなくなる。キャラが被っているとは言いたくない。私は四天王の一人なのだから。
「ですが、魔王様が召喚魔法で召喚したモンスター(?)をずっと働かせるのって……ありなのでしょうか」
これも魔王様のお嫌いなチートではございませんこと。
「ありぞよ。無限の魔力なら召喚し放題で期限なし。永久就職ぞよ」
永久就職――?
「なんか、違うなあ……」
「卿も召喚魔法ぞよ」
――!
「おやめくださいっ! 本当にそれっぽく聞こえてしまうではありませんか!」
「ホッホッホ」
「笑うな!」
「……」
――我ら魔族は魔王様が無限の魔力で召喚したモンスターばかりだったなんて……なんか、切ない物語になってしまうではありませんか!
「私はちゃんと母親から生まれてきたのです。記憶もございます」
「え! 生まれた時の記憶があるの!」
ビックリ仰天していらっしゃる。驚け桃のけ山椒のけ……冷や汗が出る古過ぎて。
「はい。私は逆子だったので、生まれるときに首から上だけが出ずに母親の胎内に残ったのです」
「――!」
――生まれるときにチョン切れたから首から上が無いのです――。
「グロイぞよ!」
ガタっと魔王様が玉座で姿勢を崩して驚かれる。
「そう母親が言っておりましたので間違いございません」
「……」
遠い昔の母の記憶が……今でも鮮明に蘇る――。
『よいですかデュラハン。我ら一族は全員そうなのよ』
『やだやだやだ! 僕も皆みたいに首から上が欲しい! お母さんのお腹の中にあるのなら出せるんでしょ!』
あの時は大泣きして母を困らせたなあ……。
『出してよ! 僕の頭を出して!』
『出せるけど、うんこまみれよ。デュラハンの頭は』
……。
『やーだー! ウエ~ン!』
……今でもときどき泣きそうになる……。
「あのとき、うんこまみれでも頭を出してもらっておくべきでした」
一生後悔するとは思ってもいませんでした。水洗いしたら綺麗になる筈だったのです。私の頭。
「……それって、しっかり騙されておるぞよ。言わないけれど」
「しっかり聞こえました。私の母も私と同じでぜったいに嘘などはつきません」
賭けてもよいです。
「……う、うん」
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