表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

9 パーデン公爵

第2章の開始です

 偉そうにたくわえた髭を撫でながら、デップリとした身体に脂ぎった顔を乗せた男が、ニヤニヤして私を見上げてくるよ。


「レジナルド様、ご無沙汰しております。いやぁ、私の娘を一次審査で落とし、どのようなお方とご婚約なされたかと思えば……」


 なによ? なんか文句でもあるのかい?

 その薄ら笑いが癇にさわるなぁ。


「確かに、素晴らしい肢体をお持ちのレジナルド様に相応しい大女――いや、失礼致しました。お方ですなぁ。お初にお目にかかります、カレン様」


 この人、今、ハッキリと悪意を持って、大女って言ったわよね!

 って、ちょっとあんた、どこ見てんのよ! 礼をしながらピタリと止まるな!


 今日は気分転換にと、女物のドレスをまとっていた私の胸元を凝視してきたよ!


 転移した先の異世界人は、私より背が低い人も多く、視線が胸に近くなるのは分かるけれどさ…。

 ジロジロとドスケベな目で、胸を覗こうとしてくる……。



「見るな」

「フグォ!」


「あっ……」


 レジナルド様が目潰をした……。あれは、いったそぉーだね。

 ゴロゴロと両目を押さえて床を転がるのは、この国のパーデン公爵。


 常に不機嫌そうな表情だからパッと見変わらないが、レジナルド様、ソコソコ怒っているみたいだよ?

 一応私、彼の所有物みたいなもんだからね。




 ――美杉 華怜(かれん)――二十七歳、元日本人。


 ファンドブルグ王国の王妃選抜試験を見事クリアし、晴れてこの国の王レジナルド=ファンドブルグ様と、ただいま婚約中です!


 で、婚礼の儀なるものを(ふた)月後に控え、このまま順調にレジナルド様と夫婦(めおと)となれる――――わけがない――




「パーデン公爵!」


 見かねたカボチャパンツさんが助けに入った。


 カボチャパンツさんこと、オークリー宰相の名前はバッチリ覚えたけれど、あの人が私の服装を、『今日も斬新ですなぁ』って小馬鹿にし続ける限り、私はあえて『カボチャパンツ』と呼んでやる!

 今日みたいに女物の服を着ていたって、馬子にも衣装的な顔で見てくるのがコムカつくのよね。


 で、まだレジナルド様は、未だ『様』を付けて呼んでいます。


 だって、あくまでもまだ婚約期間中で相手は王様だし、呼び捨てはちょっぴり恥ずかしい――――私だって、もじもじくらいするわよ?

 夫婦になっても古風な日本人の私には、『あなた』と呼ぶのが関の山かも……。

 でも、少しずつ頑張ってみようっと!



 レジナルド様と婚約し、この国のことを学びはじめて分かったことがある。


 この国には三大公爵家なるものがあるらしい。

 今まではジャンケンのように、三つの公爵家が互いを牽制し合い均衡を保ってきた。

 けれど、リリアナが次期公爵となり、男爵家の三男と結婚することが決まって、均衡を破って一番になろうとする奴が出てきた。


 それがこの、デップリドスケベ公爵こと、パーデン公爵だ。


 女が公爵になるからって、抜け駆けできると舐めてかかるのは許せないな。

 男爵家の三男と結婚することも、二人の能力が高けりゃ問題ないでしょうが?

 リリアナと組んで、いつでもそのケンカ、買ってやるぞ?


 で、パーデン公爵。今日はわざわざ何をしに来た?



「グゥ……。大変失礼いたしました。あまりにも王の婚約者様が魅力的で……」


 あ、復活したわね。何が魅力的よ。

 はじめは明らかに、大女って馬鹿にしていたくせに。そう思うなら発情しないでくれる?

 本当に男って馬鹿。好みと発情は別物なんだろうね。


「いやあ、実は、甥のリンコーク帝国の皇太子殿下が、婚礼の儀の前に我がファンドブルグ王国に来訪し、国内視察をしたいと仰っているようでしてな」


 どうやら、婚礼の儀への参列兼視察という名目で、隣国から甥の皇太子様が少し早めに来たいと言っているらしい。

 で、相手国と懇意にしているパーデン公爵が打ち合わせに来て、ただいまレジナルド様から目潰しをくらい、悶絶したと――


「おお、確か奥方様のお兄様が、リンコーク帝国の現皇帝陛下でしたな」


 カボチャパンツさんの補足によると、そのリンコーク帝国の皇帝陛下は七人兄弟で、パーデン公爵の奥様が末の妹さんなんですって。

 まあ、その世代なら、こちらの王国は女王陛下の時代だし、政略結婚でパーデン公爵に嫁がされたのかもね。

 うん、ご愁傷様です。


「長期滞在されても、私は構えんが?」

「ええ、ええ。レジナルド様のお手を煩わせはいたしません」


 まあ、レジナルド様らしい回答だよね。


「例えリンコーク帝国の皇太子殿下とはいえ、国力は我が王国が勝っておりますし、王自ら対応せずとも失礼にはあたらないでしょう」


 カボチャパンツさんも、特に断ったりはしなさそうだね。


「ええ、ええ。本当にそれで構いません。ただ――そうです! カレン様は、まだご公務をされてはおりませんでしたね? 王国を知るためにも視察にご同行いただき、甥の案内役をしてください!」

「えっ!?」


 私に白羽の矢が立った。チラリとレジナルド様の様子をうかがう。


「私は構わん」


 ええっ!? あっさり承諾しやがったよ!

 自分が相手をする気がないのに人に任せるなんて、鬼だな。

 一緒の時間を過ごして互いを理解し、少しは仲良くなってきたと思っていたのに……。


 一緒の時間と言っても、式の打ち合わせが多いのだけれど、その時間を楽しみにしていたのは私だけだったの?


 うん。どうやらそうだったのかもしれないね。

 ……。いいわ! レジナルド様がその気なら、とことんやってやる。

 接待するなら、張り切ってやっちゃうからね!





 胡散臭いパーデン公爵の申出にアッサリ乗り、私を差し出したレジナルド様への不満をパワーに変え、私はリンコーク帝国の皇太子殿下の接待をすることとなった――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ