8 カレンとレジナルドが出した答え
「私は、リリアナが心から好きな人と結ばれること望みます!」
「えっ?」
「『望みます!』だけでは分からないな。説明がない」
ごめん、リリアナ。突然で驚いたよね……。
って、レジナルド様、この前私が『説明がない!』って切れたこと、根に持ってたみたいだね。
本当に少しだけニヤっとし、ドヤ顔で言ってきやがったわ……。
「もちろん、他人が口出しできない、家庭の事情ってものもあるんでしょう。でも、少なくとも、城でリリアナと過ごして、彼女が家を蔑ろにすることや、浅はかなこと、無鉄砲なことをする人間だとは思えません!」
「カレン……」
どう考えてもリリアナは、ダメ男を好きになるような女じゃない。
しっかりし過ぎて、無理していないか心配になるくらいだもん。
「彼女は思慮深く、努力家で、これ程完璧な女性に私は会ったことがありません。そんなリリアナが選ぶ人は、素晴らしい人物だと私は信じることができます」
「本当に下賎な生き物だ。娘のような人間に、会ったことがないだけではないか」
「控えろ、公爵」
はん! いちいち縮こまるなら、口を挟まなきゃいいのに!
「そんなリリアナだからこそ、自分の考えたとおりに生きても、大丈夫ではないでしょうか? この国は、女性が跡を継いで、婿を取ってはいけないのですか? なら、私が欲する望みは、『女性が爵位を継げる国にする』に変更します」
「なっ、女が爵位を継ぐだと! 女になぞ、政治ができるか!」
「公爵に言ってるんじゃありません! レジナルド様に言っているんです!」
リリアナとメイソンさんが、緊張の面持ちでレジナルド様を見ている。
カボチャパンツさんは額に手を当て青くなり、公爵様は怒りで顔を真っ赤にし、ブルブル震えている。
一人だけいつものように、無表情で冷静なレジナルド様……。
いくら欲しい物を与えると言われても、流石に国の制度に口を出すのはまずかったかな……。
「ダイアン、貴方、私が王位についていた時、『女になぞ、政治ができるか!』と思っていたのかしら?」
「お、王太后様……。け、けしてそのようなことでは……」
おお、頼れるお姑さんの登場です。
だよねー。さっきの発言は女性全員を敵に回すよねー。ザマアみろー。
「レジナルド。早く、この王妃選抜試験の結論を言ったらどう?」
「はい。――――この二週間、調査をしていたことがあった――」
結論って言葉に、この場にいる全員の身が引き締まった……。
リリアナ……、メイソンさん……。力になれず、ごめん……。
「カレンは別世界から送られた、『神からのギフト』だということが判明した。過去の文献からも、『神からのギフト』がこの世界に現れた時、その側には聖獣が付き従うようになる」
あ、そういえば前に王太后様から、私は『神様からのギフト』じゃないかって言われて、後で聞こうと思っていたのに、楽しいお城生活ですっかり忘れていた……。
聖獣……? 思い当たる獣って、あの子しかいない……。
あの巨大ネズミちゃんは、聖獣だから私の側にいたってこと?
「『神からのギフト』は王族の伴侶となる存在だ。私は、カレンを妃とする。カレンと私が婚姻するのは確定事項だ。リリアナ嬢は、好いた男とでも結婚すればいい。ただ、最終審査の際、私を慕っていると嘘の演説をしたな? 罰として、公爵家より一つ以上格下の家柄の男と結婚しろ」
え! 私とレジナルド様の婚姻って、確定事項なの? そして、リリアナに罰ですって!?
「また、そちらに鎮座しているのは聖獣である。公爵はまだ赤子の聖獣を捕え、無理矢理使役していたな? そして、『神からのギフト』であるカレンを愚弄したな?」
「し、知らなかったのです! どちらも存じませんでした……」
え、あの子は赤子なの? ねえ、私が乗れる大きさで、まだ赤子なの?
これからどんだけ大きくなるってのよ?
レジナルド様と晴れて婚姻? 『神様からのギフト』と聖獣?
なんか、頭がパンクしそう……。
「公爵が重ねた罪への罰として、娘を二つ格下の男に嫁がせよ。父娘で合わせると、三つ以上格下の相手と婚姻するのだ。以上」
「い、以上って、もっと簡単に説明しなさいよ! リリアナはメイソンさんと結婚できるの? それに、なんでもっと早く、色々と教えてくれなかったの! 『私が欲しいモノを貰える券』を使っちゃったじゃない!」
「フッ」
あ、笑った……。
レジナルド様が笑った……。これってレアなんじゃない?
ほうら、集ったみなさまも、目ん玉ひん剥いて驚いていますよ?
「『カレンが欲しいモノを貰える券』は有効だ。まだ未使用だからな――」
――王妃選抜試験の結論を、華怜が聞いた日から数日――
「カレン。式の時もやはり男装がいいか?」
「ううん。私だって女なの。やっぱりドレスがいいよ」
「ド、ドレスを着るのか……。期待している……」
国のしきたりとかないのかな?
レジナルド様は、けして独断で決めたりせず、必ず私の希望を聞いてくれる。
レジナルド様の生態が分かってきた。彼って冷酷でも非情でもない。
むしろ細やかなところにまで、気が届くような人だ。
無表情なところは否めないが、ただ、ブッキラ棒だから、誤解されやすいだけなんだよね。
色々とこの世界のことやレジナルド様のこと受け入れては来たけれど、恋愛もしないで一気に結婚することに、正直まだ戸惑っている。
異世界で王妃という仕事について、政治家としても働けて、こんなに綺麗な男性の側で生きていけることになったのだから、ありがたい話ではあるんだけどね。
でも、想いが通じ合った人と結婚したいよね?
これ以上を望むのは我儘かな?
こうやって二人で式の段取りをしながら、色々と話をしている。
お互いのことを知るための時間、って感じかな。
「カレンは『神からのギフト』として、本当にこの国の象徴となったな」
「まだよく分かっていないんだけど、そうなんだよね……」
「“約束一、この国の妃として常に自分より王国民の幸福を第一に考えて参ります”できるよな?」
「当然よ。前にも話したけれど、元の世界でだって、そう思って政治家として働いていたんだから!」
レジナルド様ったら、どんな記憶力してるんだ。
「“二、国家の恒久的な繁栄と更なる発展のため、力を尽くします”できるな?」
「ええ。もちろん! 国家規模になって、すっごくやりがいがあるわね!」
しがない田舎町の地方議員が、いきなり国政選挙で当選しちゃったみたいだよ!
「“三、レジナルド様の妻として、笑いが絶えぬ、明るく楽しい夫婦関係を築きます”……か。私もそうあるよう努める……。そして、私と同じように、カレンにも私を慕ってほしい……」
「えっ? 同じように慕って、って……」
「いい加減気づけ。私がここまでするのはカレンにだけだ。お前が好きだから、執務を最速で終わらせて、こうして互いを知るための時間を取っている」
そっか……。私といい夫婦関係を築けるように、努力してくれていたんだ……。嬉しいじゃないの……。
日本では、父も母もいなくなって孤独だったのに、とうとう家族と呼べる人ができるんだ……。
「ありがとう、レジナルド様。この世界とも、レジナルド様とも、上手くやって行けると思う。お互い本気で好きになれるよう、頑張って行こう?」
「私は大分そうなりかけているがな。カレンの頑張りとやらに期待している。そして、カレンもすぐ落ちるだろうな。覚悟しておいた方がいい」
「うん。期待しているよ、レジナルド様……」
――この国に、無表情で冷酷そうに見えるが、王妃にだけはデレる王と、普段は最新の男物の服を身に纏う、女性人気が高く勇ましい王妃が誕生しようとしていた――