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4 レジナルドという人物

 レジナルドは、幼い頃から王者の風格を持つこどもであった。

 女王であった母アリアンヌは彼の素質を見抜き、不要な継承者争いを避けるべく、王子レジナルドが物心つく頃には彼を後継者に指名した。


 こどもの頃から、どこか達観したところがあったレジナルドは、物事を冷静に観察し失敗することなく、為政者に必要となる知識を吸収していった。


 知識と魔力は十になる前に教育係の大人を抜き、体の成長とともに剣術や武術も極め、国内で彼の右に出る者はいなくなった。

 まさに文武両道、王の器に魂が入ったような王子であった。



 しかし、本当にパーフェクトな人間など存在しない。必ず人を人たらしめる理由はあるのだ。


 彼は、極端に虚無的な人間だった。

 次期王となる自分の表情一つで一喜一憂する者たちに囲まれ、喜怒哀楽を表に出すことを面倒に感じ、無表情で生きるようになった。


 言葉を発することも然り。

 自分が発した言葉で多くの物事が動き、家臣たちが勝手に余計な争い事を起こすことも虚しく感じ、寡黙であるようにした。


 表情の乏しさに加え、最小限の発言しかしないレジナルドは、本人が辛いとは思わなかったのかもしれないが、ずっと孤独だった。


 あまりにも淡々とし酷薄に感じられるレジナルドに、畏怖の念を抱く者が増え、それは、彼の成長とともに顕著になっていった。


 ニヒルと表現すればまだマシな感じもするが、そんな我が子の様子に、アリアンヌは長年心を痛めていた。


 レジナルドは、自分の存在を大切にできないが故に、周囲とも軋轢を生んでしまうだけで、けして冷酷な人間ではないことを、母親であるアリアンヌだけは理解していた。


 彼はただ、王として責務を果たそうとしているだけなのだ。

 よく回転する頭脳が、他人の一挙手一投足を正確に受け取り、心の奥底では繊細に反応していた。

 だからこそ、余計に生が虚しくなったのだ。




 そこで、アリアンヌは、女王としてまだまだ君臨できる自信はあったが、息子が二十五歳になった年に、三年以内に妃を娶ることを条件に、王位を譲ることにした。


 だが、いつまでも伴侶を得ようとしない息子に痺れを切らし、レジナルドが即位してから二年――

 ようやくレジナルドの伴侶となる王妃の選抜試験を、無理矢理だったが行う運びとなった。


 当然、次の王位継承者を得ることも必要だが、それよりも母心としては、孤独な王を救える女性が現れるのを待ち望んでいた。

 息子の心を溶かし、支えとなり、安らぎを与えてくれるような妃に巡り会えることを、アリアンヌは願っているのだ。




「レジナルド。試験は順調に進みましたか?」

「もちろんです、母上。すでに五名まで絞りました」


 自分の嫁を選んでいるはずなのに、飄々と他人事のようにしている息子に、やれやれと呆れたようにしながらも、母は息子の表情の変化に気づいていた。


「それは、スムーズに決まりそうでよかったわ。明日の審査には、予定通り私も立ち会いますからね」

「はい」


(いったい、今日、なにが起きたのかしら? それほど気に入った()でもいたのかしら? 明日が楽しみだわ)


 今は王太后となったアリアンヌは、息子に気づかれぬよう、カボチャパンツさんことオークリーに、今日の試験の情報を聞くことにした。





 一方、今回の王妃選抜試験の当事者でもあるレジナルドは――


 自身が好む暗い色合いをした背の高い美しい女が、いつの間にか会場に現れていた。

 男が着る最新の服を、さらに斬新にした様な恰好で現れたものだから、皆、度胆を抜かれていた。


 華やかなドレスばかりを見てきたレジナルドにとって、自分の瞳と同じ色の、若い女が好まないグレイ一色の出で立ちで、堂々と会場を闊歩する華怜を面白く感じた。


 一次審査は簡単に華怜を通せたが、次のダンス審査ではパートナーさえおらず、『あの女もここまでか』と、少し残念に感じている自分に驚いた。

 自ら華怜の手を取りたかったが、他の候補者の手前できなかった。


 しかし華怜は、周囲が引いてしまうほど力強い手拍子と踵の踏み鳴らしでリズムを打ち、一人で踊りだした。


 レジナルドは華怜から、視線を外すことができなくなっていた。


 その時の、会場にいた者たちが圧倒される様を思い出す度、常に表情を殺していたはずのレジナルドの眉と頬がヒクつく。


 そのことに気がついたのは、母である王太后アリアンヌくらいだったが……。


 正直、華怜以外の女への興味は持てず、適当に合格者を指名したくもなったが、瞬時に見抜いたダンスの上手い者を、順当に指名していった。


 衝撃はそれだけでは終わらなかった。

 他の女が使えても中級魔法程度だったものを、いきなり上級魔法を華怜が放ったからだ。

 呪文の最後、『ヴァ』と『バー』の違いなのだが、使用した本人はそのことを知らないらしい。


 底なしの魔力は尽きる気配が無く、思わず飛び出し、レジナルドは自ら華怜を止めていた。


 何をしていても、心を動かされるようなモノには出会えなかった。

 つまらない世界に生まれたと思っていたが、王としての責務まで放棄するつもりは毛頭なかった。


 ただ、民のために生きて死んでいく。それだけの生だと思っていたのだ。




 だが、容姿と同じようにモノトーンだったレジナルドの世界に、突然華怜が現れ、鮮やかな色に塗り変えはじめようとしている。


 試験は適正に、最後まで行わなければならない。

 王妃に最も相応しい人物を選定することを覆すつもりもない。

 ただ、個人の気持ちを優先してもいいのなら、華怜のことをもっと知りたいと思った。


 異世界から来たと言ったカレン。視線や態度、返答の仕方からも、嘘はない。


(少し調べてみるべきだな……)





 レジナルドは、珍しく自分の感情に従って動きだした――

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