3 王妃選抜試験 三次審査
ねぇ、みなさん……。魔法って、どうやって使えばいいんでしょうか? 誰か教えてください……。
三次審査は魔法をぶっ放して、魔法の才能を見るんですって……。
「それでは、各々の場所で防御魔法をかけますので、属性毎に並んで下さい」
属性? どうやったら分かるんですか?
カボチャパンツさん、私のすがるような瞳に気づいてください。
どうしたらいいのか、迷える子羊がオロオロしていますよ?
「はぁー。また、貴女ですか? ええと、貴女の属性は……。ほほう? 火、風、水、光の四つも適性があるじゃないですか」
カボチャパンツさん、グッジョブ。
ちゃんと気づいてくれたから、最初は面倒臭そうだったのを記憶から消去するよ。
「じゃあ、奥以外どこでもいいですから、列の最後尾に並んでください。割り込みはいけませんよ」
はいはい。知っていますよ。日本人、そうそう割り込みする人はいーませーん。
って、お嬢さんたち。そんなにギュウギュウ詰めて逃げていかなくても、とって食ったりしませんってば。
できている列の人たちが何属性か分からないので、適当に一番近くの列に並んだ。
フムフム。ここは火の魔法を使える人が並んでいるのですな。
火の魔法って基本な感じだし、野宿する時に使えそうだもんね。いい所に並んだかも。
自分の番に何もしないわけにはいかないから、真似をするためチラチラ観察しとこうっと。
両手をかざし、なにやら呪文らしき言葉を口にすると、輝く紋様が出現して、そこから火がボフンと出るのね。
うーん。両方の世界で共通する認識のモノは、訳されて聞こえたり話せたりするけど、さすがに呪文までは訳せないみたい。
魔法なんてなかったし、ゲームだって火の魔法でも色んな呼び方があるもんね。
でも、単純にファイアとかだと助かったんだけどな。
しかし、ネイティブの発音を真似するのは難しい……。
「ヴリティスヴァ!」
ブ、ブリ? ブリティスバ? なんてケッタイな響きなの!
この世界、チート能力で翻訳機能がついていなかったら、会話にならず死んでいたかも……。
「ヴリティスヴァ!」
ヴリティスバ? で、いいんだよね?
とにかく、適性はあるってカボチャパンツさんが言っていたんだし、試す価値はあるよね。
とうとう最後、私の番になった。
他の属性の列に並んでいたご令嬢方も、みんな審査を終えたのか、私一人に冷え冷えとした視線が集まる。
女は愛嬌もだけど、やっぱり度胸だよ! 腹をくくれ!
みんながやっているように、体の正面で手を重ねて突きだし、呪文を唱えてみよう!
「ヴリティスバー!」
「なっ! バカか!!」
うっわぁー。なんか出てきた炎、轟々と燃え盛っていますけど!?
止まりませーん! ごめんなさーい! 防御している人、頑張ってー!
「早く手を離せ!」
「きゃあっ」
吹き出す炎をものともせず、レジナルド様が私の腕を掴み、バランスを崩した私を片方の手で支えながら、強く輝く紋様を消してくれた。
私のモーゼの能力で、周りに人がいなかったから良かったものの、大惨事になりかねなかった……。
「お前! 陛下になんてことをするのだ!」
「いやぁ! レジナルド様の美しい御髪が燃えたら、どうしてくれますの!」
「やめろ。その女を非難するな」
レジナルド様の鶴の一声で、騒いでいた人たちは静かになった。
なんだ……。意外といいところ、あるんじゃない。ちょっとドキっとしちゃったよ……。
優しさに飢えているのかな?
少しだけでも優しくされると泣きそうになっちゃうし、惚れてしまいそうになる……。
ダメ、チョロ過ぎ……。絶対。
突き刺さる視線は変わらないけど、お陰で糾弾するような場の空気は治まってくれたよ。
「静まったか。結果を発表する。お前と、お前。そっちのお前にお前。そして、こいつだな」
流れのままで、レジナルド様の隣にいた私の頭に、彼の手のひらが乗っていた。
「あ……」
頭にポンはよくないって……。何年振りだろう……。
ここまで頑張ってきたのに、本当、泣いちゃうって。
おっと、まずいなー。
私のドキドキもだし、ご令嬢方の怒気がマックスだよ……。
ヒュ~ヒュヒュヒュ~♪ もう一回くらい脇を見て、口笛でも吹いてようっと。
次はいよいよ、レジナルド様のお母様まで登場して、審査が行われるらしい。
ここまで残ったのは、たったの五人。
本当に、この中から未来の王妃が決まるのかな?
って、私は別に、王妃になりに来たのではない!
取りあえず今日の審査はここまでで、みんなに部屋が与えられた。
昼間は絢爛豪華で煌びやかなお城だと思えるけれど、夜はちょっと怖い。
今後のことを色々考えた方がいいんだろうけど、サッサと寝た方がいいかな。
朝、明るくなってから考えた方が、よっぽど前向きでいい考えが出るしね!
早起きして活動するためにも、さぁ、寝ますか――
――コンコン――
誰だ? 慎重に扉を少しだけ開け、隙間から来訪者を確認すると、残った四人のご令嬢たちだった。
やっと眠れそうになって、ウトウトしていたところだったのに。
今、超絶不機嫌だよ?
「ちょっと、よろしいかしら? 顔を貸してくださらない?」
「顔は貸せませんね? そんなにご自分のお顔が嫌いで、私の顔を気に入りましたか?」
うっわ。プルプル震えていますよ。取り巻きの人が青ざめているね。
眠いのを邪魔されたからって、言い過ぎたかな?
「貴女たち、人気が無いうちにやっておしまい」
出ましたー。妨害でーす。この人たちが、無理矢理私を連れ去ろうとしてまーす。
絶対いるんだよね、こういう風に人の邪魔をする奴って。
「ねぇ。また、魔法をぶっ放すわよ?」
「「ひぃっ」」
頑張って私の側に寄ってきたのに、また離れちゃったねー。
「へ、陛下が貴賤を問わない心の広いお方でも、世間の目は異なるのですよ! さっさと身の程をわきまえて、辞退なさったらどう?」
「そうですわ。貴女のようなガサツな女、レジナルド様に釣り合いませんわ!」
「ふーん」
そう言われると、なんか絶対に負けたくなくなるんだよねー。
正々堂々勝負しようじゃないの!
「それって、私を選んだレジナルド様の目が腐ってるってこと?」
「誰の目が腐っていると?」
「「……」」
あ、ご本人登場です。
お嬢さんたち、蜘蛛の子を散らすように逃げても、もう遅いと思いますよ?
「散ったか。……お前……、一体何者だ?」
ズイズイと私が与えられた部屋に入り、長い足を偉そうに組んで、ふんぞり返ってソファに座るレジナルド様。
本当に偉い人だから、偉そうにするなって、文句は言えないけどね。
「嘘をついたら容赦なく処分する。正直に答えろ。お前は何者だ?」
「……こことは異なる世界から、突然こちらの世界に来ました。ミスギカレンと申します。名がカレンです……」
美しい切れ長のグレイの瞳で見られると、蛙のような気分になるよ。
私が覚悟を決めて発した言葉も、表情一つ変えずにいられると、少しだけ小憎たらしいな。
「外国……、と言ったわけではないのだな。……そうか。お前、荷物もなにも持たず、ここに来たようだな?」
「はい」
そうだよ。旅行でここに来たんじゃないのよ。
「必要な物は整えさせる。それと、今後の審査に受かれば、お前の欲しい物を与えよう」
「あ、ありがとうございます!」
すごくいい話だよね! 欲しい物を考えないと!
家とかでもいいのかな? やっぱりお金? いやいや、堅実に仕事かな? それとも、安全にこの世界に滞在する権利?
迷う~!!
「考えておけ」
「はい!」
『欲しい物』に釣られた私は、王妃選抜試験を、けっこうから本気で頑張ってみることにした――