23 母強し
「ひええぇ。ガチの悪魔か幽霊が出たぁ」
悪魔のこめかみに青筋が立ったかのように思ったが、脅えた私を認識すると悪魔は一瞬にして風を纏うのを止め、柔らかな顔つきになった。
「あらまあ! こちらがファンドブルグ王の花嫁、カレン様ですのね。家の愚息共が、大変ご迷惑をおかけしたと伺いました。誠に申し訳ございませんでした」
「――あ、なぁんだ。ナールとニールのお母様でしたか?」
「ええ。私、ウーミワタール国の王妃をしております、メディーナと申します」
納得したよ。ナールとニールに似ているもの。怒って般若にさえなっていなきゃ、美しい女神様みたいな御方だもんね。天使と悪魔を持ち合わせた母子だわ。
うってかわって、涼やかな声音で集まっていたファンドブルグ王国側の人たちに挨拶をしてゆくメディーナ様。
ところが、双子に視線を戻すと一変し、再び悪魔の形相に変化していく。風をはらんだ髪がウネウネして、臨戦態勢の蛇みたい。そのうちメデューサ様って言い間違えて、石にされちゃいそう。
「コラ、バカ息子共。ごめんで済めば、世の中揉め事なんて起きんのだ!」
「は、母上! これにはその、理由が……」
「ナールは僕の事を思って……」
「問答無用! んなこたぁ知ってるんだわよ。理由があろうとも、オイタが過ぎましたねぇって言ってるの!」
ゴオオオォッと程好く生温い風が双子を包んだかと思うと、ブワリと二人が宙に浮き上がり、メデューサ王妃の手にナールとニールがスルっと収まった。あれは逃げられそうにない。
やっと追いついたのか、後ろからは旦那さんでウーミワタール国の王様らしき人が到着し、妻子を見ないように両手で目を覆っている。
全裸で軽快にラッパを吹く天使の様な双子の桃尻に、王妃様がペシーンペシーンといい音をさせながら一発ずつ平手打ちした。これ、日本なら問題になるやつだよね。
「ひっく」
「えっく」
黙っていれば愛くるしいだけの瞳に涙をたたえ、ナールとニールがお母さんを見上げる。その時には、慈愛に満ちた優しい母親の顔をしたメディーナ様に戻っていた。ナイス切り替え!
「あなたたちは双子として生まれ、外見は大変よく似ていますね。そして、本当に一つであるような仲のよい兄弟です。でも、まったく別の心と魂を持っている」
「「はいっ。うぐっ」」
「ナールもニールも、少しずつ自分だけの好きな物ややりたいことを増やし、時が来たら、王になりたいと思った方が王となればいい」
「「はいっ。ひぐっ」」
もう、恐ろしいメデューサはいない。ここにいるのは聖母のようなメディーナ様だ。
「二人とも王になりたくなったのなら、その時は正々堂々勝負をすればいい。外野は私が排除します。可愛い息子を権力争いの道具になどさせません!」
「「母上ぇ」」
あ、双子の王子様って大変なんだわ。どちらが王になるのか分からない圧も相当あるんだろうし、国内の勢力を二分して、骨肉の争いに発展してしまう恐れもある。あの小さな身体に、重たいものを抱えて生きてきたんだ。
「どちらも嫌だなんて言われたら困りますが、母はもう一人くらいスポーンと生んでみせる自信がありますよ? ま、あの人が使い物になるかどうかは分かりませんが」
「そ、それはだな……」
豪快な王妃様だわ。王様が心なしか脅えているように見えるけれど……。きっと、ウーミワタール王が瞳をウルウルさせているのは、夫婦仲が良いという幸せを噛み締めているからよね!
「母上、本当にごめんなさい。ニールが王様になった方が良いと思って、わざと我が儘ばかり言ったり、悪い事をしたりしたの」
「僕もごめんなさい。ナールが本当は嫌なのに、無理して悪い事をしようとしているから、一人にしたくなくて一緒に悪い事をしたの」
確かにいつも青い服のナールの方から仕掛けてきたな。それに便乗して緑の服のニールもやんちゃしていたかも。改革が必要な時期なら、ナールのような行動力があるタイプが王に相応しいかもしれない。でも、穏やかな政治を続けるのなら、空気を読み流れに乗るタイプのニールもいいのかもしれない。
「謝るのは私にではありませんよ」
「カレンが魔物と闘っている時怖かったよー。ごめんなさい、カレン」
「カレンが死んじゃうかと思ったよー。ごめんなさい」
「大丈夫。魔法をぶっ放して、グウグウ眠っただけだから。今度、空を飛べる魔法を教えてくれるのならチャラにしてあげる」
そう私に言われた双子は、可愛く『はい』と返事をしてくれた。
「僕たちが服を交換しても、カレンは気づいてくれた」
「ちゃんと僕たちを見てくれていた。ありがとう」
「あんなの、すぐに分かっちゃうわよ。貴方たちは見た目はそっくりでも、性格は全然違うもの」
似ているけれど、個々の人間なのだ。取りかえっこを見破られたのが嬉しかったのか、ナールとニールは互いに顔を見合わせて屈託のない笑顔を浮かべた。
そして――
「「レジナルド様、リリアナ様、デグ太郎もごめんなさい」」
「カレンが許したのなら、私も許す」
「私も、もちろんいいですわよ」
「キュウ」
よしよし。私が心配で駆けつけ、覗いていたデグ太郎にもきちんと謝ってくれました。あれ? なんか足りない?
「えっ!? お、俺には?」
「似合ってたから」
「元より良くなったから」
ギディオン……。髪は伸びるから。それと、本気でモヒカン似合っているから。それが元皇太子として、良いか悪いかは別問題だけれどね……。
なんだか知らないうちに禊も済まされていたけれど、(ヤダッ)とうとう明日は結婚式なのです――




