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22 禊の森 後

「ヴリティスバー! あちちちぃー! って消火しないと。ゴベドゥブールラー! ひゃあぁ冷たーい!」


 なんなのよ、この一人火責め水責めは。しかし、そろそろキツいわね。なんかクラクラするんですけどー。いくら魔力と体力があっても、ウジャウジャ魔物に出てこられたんじゃあ、屍となって森の養分になっちゃうじゃない。


「でもね、こんな所で腐ってらんないのよ。明日、私はレジナルドと結婚式を挙げるんだから!!」


「そうだなカレン。悪い、遅くなった」

「カレン、レジナルド様連れて来たよー」

「来たー」


 ああ、森の木々の間からさし込む光をバックに、空から舞い降りて来るレジナルド。後光が射している気がするよ。双子プリンスたちがレジナルドを両脇から支えて、空を飛んで来てくれたんだね。私の旦那(予定)飛び降り様に樹の魔物を真っ二つだなんて、格好いいじゃない。


「カレーン!」

「カレン様!」

「只今参ります!」


 あはっ。私が作った焼け野原の遠くには、リリアナたちの姿も見える。リリアナは鞭、チョキュールのおじ様は剣、エミリア様はメイスを振り回してトレントたちをボカスカ殴りつけながらの登場だわ。って、三人共鬼気迫る表情だけど、みんな顔立ちが整っているから絵になるわね。


 切り取って残しておきたい一ページだわ。


 なんてボウっと見とれていたら、なんだか疲れがどっと出てきたよ……。


 でも、良かった……。


「カレン!!」


 おお……。レジナルドの腕の中にいる気がする。でもね、なんかすごく眠いのよ……。もう、眠っていい? みんなも来てくれたし……。

 これでもう、大丈夫だもんね――――





「もう。前代未聞ですわよ。花嫁を抱きかかえながら二人で禊の泉に入るなんて……。卑猥過ぎて、見ている方が恥ずかしくなってしまいましたわ……」


 男をヒールでグリグリしてそうな割に、ピュアでウブなリリアナは頬を赤らめている。


「いやはや。すすだらけのカレン様のお顔を、手で綺麗に拭うレジナルド様のお姿を見られるなんて、家臣冥利に尽きますな」


 ニコニコと満面の笑みで、上機嫌なチョキュールのおじ様。


「お二人の姿を見て、私、年甲斐もなくもう一度恋がしたくなりましたのよ」


 すっかり十代の乙女に戻り、キラキラと目を輝かせているエミリア様。


 気を失ってやっと目覚めた私は、三大公爵家の三人から恥ずか死にたくなる話を聞かせられていた。

 レジナルドが双子に連れられ空から舞い降りた後、バッサバッサとトレントの群れを叩き切り壊滅させたんだって。そして――


「明日が式なのに、禊はどうするんだって私たちが騒いでいましたら、レジナルド様がカレンをお姫様抱っこして、泉まで駆け出しましたのよ」

「どんな形であれ、我々三大公爵家が禊を終えたと認めれば良いのです」

「歴史的に語り継がれる素晴らしい禊となったわね。ああ、お二人のように本当の恋がしたい……」


 リリアナはいつもみたいにレジナルドを無表情とか無感情とか言ってけなさないし、チョキュールのおじ様はなんでかずっとニヨニヨ微笑んでいるし、エミリア様は恋する乙女心を思い出したらしくホワホワしている。

 イタタマレナイ……。意識がなくて良かった……。




「カレン。目が覚めたか?」

「レジナルド!」

「「きゃあ。王様の登場ですわ」」

「婚約者を守るお姿、大変ご立派でした」


 なんか心なしか、レジナルドも照れているのかな? 相変わらず表情は変わらないように見えるけれど、指先がトントンと忙しなく動いている。なんか私も、レジナルドのことが分かるようになってきたなぁ。

 公爵家の三人から温い視線で迎えられても、それでも未来の夫は冷静さを保って、いつも通り淡々と話しはじめた。


「二人がどうしても、カレンに謝りたいそうだ」


 レジナルドの後ろには、ショボくれた双子の悪魔が隠れていた。


「ナール、ニール。こっちにおいで」

「「カレン……。ごめんなさい……」」


 ふふっ。ちゃんと反省していたんだね。素直に謝るなんて、可愛いところもあるじゃない。お姉さん、とっても優しいから許しちゃうよ。


「ま、私は最初からずぶ濡れになる予定だったから構わないけれど、あんたたちもこれに懲りたらイタズラはやめなさいね」


「「はい……」」


 その時、ゴオオオッと突風が起こり、建物の周囲を駆け抜けたのよ。


「な、なにごと!?」

「「母上が来たんだ……」」


「ナール! ニール! どこにいるの!? 出てらっしゃい!」


 風に乗って聴こえるドスの効いた女性の声。お怒りでいらっしゃることは一目瞭然いや、一聞瞭然と表現すべきだな。

 風はスルスルと建具の隙間から入り込み、私たちの周囲を漂う。なんか、不気味な風なんですけれど……。双子プリンスたちは青ざめた顔をし、大人たちが緊張しながら状況を把握しようとしていると――


「そこかあぁぁぁ!」


 ――バタアアァーン――


 私が休んでいた森の近くにある別荘の扉が、勢いよく開いた。再び突風が駆け抜けたかと思うと、風に乗って宙を舞いながら現れたのは、双子とそっくりな金髪碧眼の美しい女の悪魔だった――

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