2 王妃選抜試験 二次審査
昼を挟んで、二次審査はダンスだって。まあ、あるあるかもね。
こちらの食べ物事情は……。
あ、良かった!
カボチャパンツに白靴下の世界だから、食生活も地球の中世ヨーロッパの貴族的に、野菜とかは敬遠されているんじゃないかと不安だったけれど、こちらの食生活は大丈夫そう。
やっぱり、ここで生活していくことになるのなら、食事が合うって大事だよね。
どうしても外国のスパイシーな独特の香りとか、苦手だったもんなぁ。和食万歳!
じゃ、遠慮なくいただきまぁす。
見知らぬ地で順調にご飯にありつけるなんて、ありがたいわぁ。
きっと、醤油や味噌は恋しくなるだろうけど、まずまず美味しく食べられるよ。
「浅ましい人が混じっているみたいですわ」
「ふふっ。あんなに貪りつくなんて、余程お腹が空いていたのでは? お里が知れますわよねぇ」
「あぁ。私って、少食ですのよ? 見ているだけで、吐き気をもよおしてしまいますわ」
はっ! そんな無理して締め上げてるから、食べられないに決まってるんですよーだ。
ほうほう、お里が知れるとな?
言ってみてもらいたいですね。日本ですよー?
知っている人がいたら是非とも名乗り出て下さーい!
貴女が少食? 知らんわ。
「陛下……。あやつ、摘まみ出した方がよいのでは?」
「出過ぎたことを言うな。それは、私が判断することだ」
「も、申し訳ございません……」
腹が減っては戦ができぬってね。
今度いつ食事にありつけるか分からないんだもの。
食べるしかないでしょう。
あぁ、満腹満腹。
異世界でも、元気にやって行けそうだよ。
で、油断していた私は、ダンス審査に入って青ざめた。
私だけが一人でいるじゃない……。
ずっと一人でいたじゃないかって?
違うのよ。
昼を挟んで会場のホールに着いたら、みんなパートナーを連れていたんだよ……。
そりゃあ、審査内容も知らなかったし、転移してきたから仕方ないって言いたいけれど、それを言っても始まらない……。
こんな時、素敵な少女漫画なら――
「可愛いお嬢さん、お一人ですか? 是非、私にお相手させてください」
なんつって、王子様が手を取ってくれるんだけど……。
チラっとレジナルド様を見て、肩を落とす。
あの冷酷王では無理よねー。
脚を組んで自分の膝を支えに頬杖をついて、必死にアピールするご令嬢方を、つまらなそうに横目で眺めている。
自分の嫁探しをしているのなら、自分自身で踊った方がよくない?
どうせ、『私が踊るまでもない』とか思っているんでしょうね。
心の中で悪態をついていたら、みんなが三拍子のリズムに載って踊り始めた。
私一人が取り残されているよ。
やばい。ボッチで社交ダンスを披露しなきゃならないなんて、どんな苦行よ。
でも、ここで粋のいいところをアピールすれば、体力ありそうって雇ってくれるかも。
ならば――
ベリーダンスも少しだけ齧ったけれど、卑猥なモノを見せるな! とかで殺されたら敵わない。
三拍子なら、ここは情熱的にフラメンコにしておきますか!
昔取った杵柄って、こんな時に使うのかな? ジプシーの嘆きを、甘くみないでよ!
周りのご令嬢のみなさんは、パートナーと一緒に笑顔を貼りつけ、クラシカルなダンスを踊っていらっしゃいますけど、私が踊るのは迫害された苦しみから生まれたと云われる、ほんまもんの辛苦を込めた踊りですよ?
ここは、情念! 流転する民の故郷への哀愁をとくと見よ!
あ、日本に強い想いはないんだけれど。
私は、キッと表情を引き締め、手でリズムを打ち、踵を踏み鳴らした。
うっわぁ。このツルツルの固い床を踏み鳴らすと、いい音が響いて最高。気持ちが昂る!
はっはっはっ。マダムたちと一緒になって群れて発表会するよりも、視線が集中して快感だー。
「なっ!陛下を睨み付けるとは不敬な!」
「よい……。黙って見ていろ」
「しっ、しかし……」
ふうっ。気持ちよかったー。ワルツもいいけれど、一人フラメンコが楽しくなっちゃって、脳内フラメンコギターの伴奏で、丸一曲踊ってしまったぁー。
……あれ?
気持ち良いのは自分だけで、家臣のカボチャパンツやご令嬢方がどん引いてる……。
もはや、私の存在は、化け物とか珍獣扱いだね。
転移した時より、私の周りに広い空間が広がっているのは気のせいかな?
「……面白い……」
おっ! 表情は一切変わってないけど、確かに『面白い』って、レジナルド様は言ったな。
お気に召したならなにより。
もっと気に入られて、異世界で今度こそ高給取りになってやる!
「結果を発表する。残る者だけ指名していく」
一気に会場の空気が張り詰める。
みんな本気でレジナルド様の妃になりたいんだね。
あんなに冷たい感じがする人なのに、何がいいんだろう?
敵を知るためにも、もっとよく、レジナルド様を観察してみた方がいいのかな?
「――お前とお前、そしてお前もだ」
やったね! 指をさされてちょっとムカつくけれど、ボッチダンスを快感に変えられる、鋼のメンタルを認められたよ。
レジナルド様は二次審査でも、やはり半分くらいのご令嬢を落とした。
面白いって言われたとおり、私も無事、珍獣枠で合格できた。
正直、視線独り占めの気分いい発表会ができて楽しかったけど、そこに結果がついてくるって最高!
「な、納得できませんわ!」
「そ、そうです。パートナーもいない上、あんな奇っ怪なダンスで合格するなんて……」
ええ、ええ。お気持ちは分かりますよ。私もそう思いますから。
私なんかが合格して、自分たちが不合格にさせられるなんて、到底納得できませんよねぇ。
でも、『面白枠』貴女方には無理でしょう?
「口答えするのか? 残りたいなら、勝手に残ればいい。だが、私の判断に異を唱えた時点で、お前たちは試験に受かることはない」
「「……」」
少し可哀相だけど、異論を唱えたご令嬢たちは、パートナーを務めた男性に連れられ、会場を去って行った。
情熱のフラメンコを奇っ怪と言われムッとはしたけれど、それよりも、『ざまあみろ』って顔してニヤニヤ見物している、残りのご令嬢方が気に食わないな……。
人を影で馬鹿にする人って嫌い。
選挙でもそうだったけれど、自分の手を汚さないで、裏から人の足を引っ張ろうとする人とか、自分が矢面に立たないのに、安全地帯で悪口ばかり言う人とかさ……。
正面から正々堂々かかって来いっての! 選挙を思い出して、余計に腹が立ってきた。
なんか、あんな性格悪い人たちに負けたくない。
闘志が湧いてきちゃった私は、王妃選抜試験を、ソコソコからけっこう頑張ってみることにした――