表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

2 王妃選抜試験 二次審査

 昼を挟んで、二次審査はダンスだって。まあ、あるあるかもね。


 こちらの食べ物事情は……。


 あ、良かった!

 カボチャパンツに白靴下の世界だから、食生活も地球の中世ヨーロッパの貴族的に、野菜とかは敬遠されているんじゃないかと不安だったけれど、こちらの食生活は大丈夫そう。


 やっぱり、ここで生活していくことになるのなら、食事が合うって大事だよね。

 どうしても外国のスパイシーな独特の香りとか、苦手だったもんなぁ。和食万歳!


 じゃ、遠慮なくいただきまぁす。

 見知らぬ地で順調にご飯にありつけるなんて、ありがたいわぁ。

 きっと、醤油や味噌は恋しくなるだろうけど、まずまず美味しく食べられるよ。



「浅ましい人が混じっているみたいですわ」

「ふふっ。あんなに貪りつくなんて、余程お腹が空いていたのでは? お里が知れますわよねぇ」

「あぁ。私って、少食ですのよ? 見ているだけで、吐き気をもよおしてしまいますわ」


 はっ! そんな無理して締め上げてるから、食べられないに決まってるんですよーだ。


 ほうほう、お里が知れるとな?

 言ってみてもらいたいですね。日本ですよー?

 知っている人がいたら是非とも名乗り出て下さーい!


 貴女が少食? 知らんわ。



「陛下……。あやつ、摘まみ出した方がよいのでは?」

「出過ぎたことを言うな。それは、私が判断することだ」

「も、申し訳ございません……」


 腹が減っては戦ができぬってね。

 今度いつ食事にありつけるか分からないんだもの。

 食べるしかないでしょう。


 あぁ、満腹満腹。

 異世界でも、元気にやって行けそうだよ。




 で、油断していた私は、ダンス審査に入って青ざめた。


 私だけが一人でいるじゃない……。

 ずっと一人でいたじゃないかって?

 違うのよ。

 昼を挟んで会場のホールに着いたら、みんなパートナーを連れていたんだよ……。


 そりゃあ、審査内容も知らなかったし、転移してきたから仕方ないって言いたいけれど、それを言っても始まらない……。



 こんな時、素敵な少女漫画なら――


「可愛いお嬢さん、お一人ですか? 是非、私にお相手させてください」


 なんつって、王子様が手を取ってくれるんだけど……。

 チラっとレジナルド様を見て、肩を落とす。


 あの冷酷王では無理よねー。

 脚を組んで自分の膝を支えに頬杖をついて、必死にアピールするご令嬢方を、つまらなそうに横目で眺めている。


 自分の嫁探しをしているのなら、自分自身で踊った方がよくない?

 どうせ、『私が踊るまでもない』とか思っているんでしょうね。




 心の中で悪態をついていたら、みんなが三拍子のリズムに載って踊り始めた。

 私一人が取り残されているよ。


 やばい。ボッチで社交ダンスを披露しなきゃならないなんて、どんな苦行よ。

 でも、ここで粋のいいところをアピールすれば、体力ありそうって雇ってくれるかも。



 ならば――


 ベリーダンスも少しだけ齧ったけれど、卑猥なモノを見せるな! とかで殺されたら敵わない。

 三拍子なら、ここは情熱的にフラメンコにしておきますか!

 昔取った杵柄って、こんな時に使うのかな? ジプシーの嘆きを、甘くみないでよ!


 周りのご令嬢のみなさんは、パートナーと一緒に笑顔を貼りつけ、クラシカルなダンスを踊っていらっしゃいますけど、私が踊るのは迫害された苦しみから生まれたと云われる、ほんまもんの辛苦を込めた踊りですよ?


 ここは、情念! 流転する民の故郷への哀愁をとくと見よ!

 あ、日本に強い想いはないんだけれど。


 私は、キッと表情を引き締め、手でリズムを打ち、踵を踏み鳴らした。


 うっわぁ。このツルツルの固い床を踏み鳴らすと、いい音が響いて最高。気持ちが昂る!

 はっはっはっ。マダムたちと一緒になって群れて発表会するよりも、視線が集中して快感だー。



「なっ!陛下を睨み付けるとは不敬な!」

「よい……。黙って見ていろ」

「しっ、しかし……」




 ふうっ。気持ちよかったー。ワルツもいいけれど、一人フラメンコが楽しくなっちゃって、脳内フラメンコギターの伴奏で、丸一曲踊ってしまったぁー。


 ……あれ?


 気持ち良いのは自分だけで、家臣のカボチャパンツやご令嬢方がどん引いてる……。

 もはや、私の存在は、化け物とか珍獣扱いだね。

 転移した時より、私の周りに広い空間が広がっているのは気のせいかな?


「……面白い……」


 おっ! 表情は一切変わってないけど、確かに『面白い』って、レジナルド様は言ったな。

 お気に召したならなにより。

 もっと気に入られて、異世界で今度こそ高給取りになってやる!




「結果を発表する。残る者だけ指名していく」


 一気に会場の空気が張り詰める。

 みんな本気でレジナルド様の妃になりたいんだね。

 あんなに冷たい感じがする人なのに、何がいいんだろう?


 敵を知るためにも、もっとよく、レジナルド様を観察してみた方がいいのかな?


「――お前とお前、そしてお前もだ」


 やったね! 指をさされてちょっとムカつくけれど、ボッチダンスを快感に変えられる、鋼のメンタルを認められたよ。



 レジナルド様は二次審査でも、やはり半分くらいのご令嬢を落とした。


 面白いって言われたとおり、私も無事、珍獣枠で合格できた。

 正直、視線独り占めの気分いい発表会ができて楽しかったけど、そこに結果がついてくるって最高!


「な、納得できませんわ!」

「そ、そうです。パートナーもいない上、あんな奇っ怪なダンスで合格するなんて……」


 ええ、ええ。お気持ちは分かりますよ。私もそう思いますから。

 私なんかが合格して、自分たちが不合格にさせられるなんて、到底納得できませんよねぇ。

 でも、『面白枠』貴女方には無理でしょう?


「口答えするのか? 残りたいなら、勝手に残ればいい。だが、私の判断に異を唱えた時点で、お前たちは試験に受かることはない」


「「……」」


 少し可哀相だけど、異論を唱えたご令嬢たちは、パートナーを務めた男性に連れられ、会場を去って行った。


 情熱のフラメンコを奇っ怪と言われムッとはしたけれど、それよりも、『ざまあみろ』って顔してニヤニヤ見物している、残りのご令嬢方が気に食わないな……。


 人を影で馬鹿にする人って嫌い。

 選挙でもそうだったけれど、自分の手を汚さないで、裏から人の足を引っ張ろうとする人とか、自分が矢面に立たないのに、安全地帯で悪口ばかり言う人とかさ……。


 正面から正々堂々かかって来いっての! 選挙を思い出して、余計に腹が立ってきた。

 なんか、あんな性格悪い人たちに負けたくない。





 闘志が湧いてきちゃった私は、王妃選抜試験を、ソコソコからけっこう頑張ってみることにした――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ