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19 大人の本気

「「カレンー! あーそーぼっ!」」


 出た。見た目はエンジェルでも、こいつら天使なんかじゃない。双子の悪魔だ。私は待機して一緒に待ち構えていたリリアナと視線を合わせる。


「オホン。ナール様、ニール様。今日はせっかくですから、楽器でも嗜みませんこと?」

「「ふーん?」」

「私もこの国の楽器初めてだし、一緒にリリアナから教えてもらおうよ?」


 ま、子どもなんて目新しい物をちらつかせれば、簡単に食いつくわよね。フッフッフッ、御しやすいなあ。

 そうして、大人の実力ってやつを見せつけてやるのだ。なんかギターに似た楽器があったんで、三、四コードを覚えれば、私でも演奏が様になるんじゃないかって魂胆よ!

 お子様たちの小さなお手手じゃあ、弦を押さえるのは大変だろうけどねぇ~。適当に遊んだところで簡単なコード進行の曲を、リリアナの超絶技巧で誤魔化しながら披露してやろうじゃあないの!



「ああ。ここの指はこっちを押さえるといいんじゃない?」


 私がニールの指の位置を変えてあげる。なんていいお姉さんっぷりなんでしょうね。いくら大人の本気を見せるにしても、教えることはちゃんと教えますよ。


「こーう?」

「こっちもー!」


 ギュイーーーーン


「あっ、ナール! そこ、これ以上締めちゃだめ!」


 バチーーーーン


「はうっ!」


 って、止めろって言ってるのに、ナールが弦をチューニングしてニールがそのまま思いっきり弾くもんだから、弦が切れて覗き込んでた私の顔面にバチコン当たったよ……。


「ひいいぃ! 嫁入り前の顔がぁ!」

「落ち着いてカレン! 血は出ていませんわ! ちょっと腫れましたけれど、式までには必ず引きますわ」


 こっちがてんやわんやで傷の手当てをしている内に、ナールとニールの姿は見えなくなっていた。



「くおのぉーー。どこに行きやがった!」

「カレン、王妃になるのですから抑えて抑えて」

「だって、さっきのも絶対わざとだもん!」


 しかし、どこに行ったんだろう? やんちゃの被害者を増やす前に、なんとか双子を見つけないと――





「デグ太郎! ギディオン!」

「な、何がありましたの?」


「あいつら……。カリスマが髪を切ってやるとかなんとか言って、俺たちの毛を……、毛を……」

「キュウ……」


 それで、世紀末に指先一つでダウンさせられる方みたいな髪型になっているわけね……。


「で、デグ太郎は毛の生え変わりが早いし、モヒでも可愛いから大丈夫よ。ギディオンも赤髪三白眼と相まって、キャラと合う髪型がなかなか素敵よ? ね、リリアナ?」

「そ、そうですわね。ホホホホ」


 嘘は言っていない。似合ってるのは本当。ただ、それが良いとは思えないだけだ。


「目を合わせて言えよ……」

「キュウ……」


 鋭い三白眼と小動物のつぶらな瞳が私を見つめる。


「なあ、カレン。仇をとってくれよ……。俺は今、ただのデグ太郎の世話係で、クソガキに逆らえない立場だって分かるだろう?」

「キュウ……」


 そ、そうよね。元皇太子のギディオンのくせに、よく我慢したわよね。さすがに可哀相で見過ごせないわ。よし、デグ太郎とギディオンの分も追加で、三泡も四泡も吹かせてやろうじゃないの!


「なら、ここはみんなで協力するわよ。今晩、かくかくしかじかで――」




 ――その日の夜――


「ねえねえ。ナール、ニール。夜のお城を探検しない?」

「「いーよー」」


 石造りの荘厳な長い回廊を歩く。使用人全面協力の元、兵も灯りも七割減の夜の古城で肝試し大会。舐め腐ったクソガキどもを、古今東西のお化けでブルブルさせよう作戦を決行中だ。


「実はファンドブルグ城のここを真っ直ぐ行った突き当たりの部屋に、勇敢な王子様の証があるの。私は王子様じゃないから一緒に行けないわ。二人だけで行って、取って来られる?」

「面白そうー」

「やるやるー」


「さあ、勇敢な王子様たち。行ってらっしゃい!」


 双子の悪魔を夜の城探検に送り出し、そして、私は別ルートを猛ダッシュ。着ていたスーツを脱ぎ捨て、準備していた白い浴衣を手早く着付ける。血糊の入った小袋を口に含ませ、髪を後頭部から前にバサリともってくれば――

 ザ・日本の鉄板、白装束の女幽霊が完成だ!


 あとはあいつらの通るタイミングで脇から飛び出してビビらせれば――




「あれ? さっぱり来ないな?」


 待てど暮らせど、双子の来る気配がない。あれ? 嫌な予感がする。来る予定のルート、念のため確認しに行くか?



「ひっ! ギディオン! 何があったの?」

「こっちが手出しできないと思って、あいつらやりたい放題だった……」


 グルグルと包帯を巻いてマミーのかっこうをしたギディオンが、両手両足を縛られみの虫の様に無惨に転がされていた。目の辺りが光って濡れているのは……、見なかったことにしよう。よく頑張ったよ、ギディオン……。

 しかし、ギディオンを返り討ちにして、あいつら一体どこに行ったんだ? うーん。うーん。



「カレン……。何をしている?」

「カレン様、変なかっこー」

「変ー」


 そ、その声は……。


「レジナルド……。お、遅くまでお疲れ……」

「……」


 な、なぜここにレジナルドまで。あっ。思わず血糊の入った袋、噛んじゃった……。なんでこういう誤魔化したい時って、ニヤニヤ笑ってしまうんだろうね。


「カレン……。顔を拭くか?」


 明後日、式を挙げる未来の旦那の前で、古式ゆかしき日本の幽霊姿を披露した挙げ句、ニヤニヤしながら血を吐き出す花嫁はこの私だよ。


 あぁ、ガチの幽霊になって消えてしまいたい……。

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