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18 双子の天使?

 私は可愛いエンジェルたちを引き連れ、城内をご案内しているよ。すれ違う使用人たちも、微笑ましそうに私とプリンスたちを眺めているわね。


「ここがナール様とニール様にお泊まりいただくお部屋ですよ」

「おおー。お泊まりー」

「お泊まりー」


 どやどや? 石造りの堅牢なファンドブルグ城。すっごく華美なワケじゃないけど素敵でしょう? ほらほら、お部屋の中もとくとご覧あそばせ。


「大きいー」

「おっきー」

「ひっ!」


「「キヒヒヒ」」


 えっ? 今、このプリンスたち、私のお尻を触ったよね? 気のせいで何かの間違いかな? 気を取り直して――


「お部屋を見たら、次はお外にも行ってみましょうか?」

「デカケツ」


 はあん? 今、デカケツって言った?


「出かけるー」

「あ、出かける……。はい、はい。行きましょうねー」


 異世界翻訳機能がおかしくなったのかね。なんだか腑に落ちないけれど確かでもないし、きちんと大人の対応をしないとね……。


「デカケツー」

「おいっ! こ、このぉー。待ちやがれ!」





 まあ、先ほどは取り乱しましたけれど、なんてったって私は間もなくファンドブルグ王国の王妃になるのです。淑やかにかつ威厳を保って、他国のプリンスたちをおもてなししましょう。


「ナール様、ニール様。ほらあのお花、ファンドブルグの国花でブライトリィリって名のお花なのですよ」


 私は百合のような見た目で、芳しい香りのする薄紫の花を指差した。う~ん。いいカ・ホ・リ。


 ブニっ!


「はうっ!?」


 私の指先に、冷んやりぷにぷにした感触が。


「青ガエルさんもいたよー」


 くっ、蛙かあ。子どものピュアな心を傷つけたくはないが、正直あまりお触りしたくない生き物だわね。でも、大人として、子どもが自然や生き物に触れ合える機会を台無しにはできないわ。


「か、可愛いですね。ナール様」

「緑ミミズもいたよー」


 人差し指をブライトリィリに向け固まったままの私の手に、今度はニールがミミズを絡めてきた。


「アアア……」

「あっ、カナカナヘビもいるー」


 ギ、ギブ。両生類でギリ。これ以上は正気を保てそうにない……。生き物に罪はないが、これ以上の醜態を晒す前に逃げなくては。


「お……お時間に限りもありますし、今度はふ、噴水をご覧に入れましょうか……」



 ――一時間後――


「待ちなさーい! ナール、ニール!」

「やぁだよー。カレンのおこりんぼー」

「おにー」

「こんのおぉー!」


 私は噴水に突き落とされずぶ濡れ。犯人の双子をかれこれ三十分追いかけ回していた。


「やっと捕まえたわよー!」

「キャハハ捕まったー!」

「捕まったー!」

「ほら、あんたたちも汗だくじゃない。風邪をひかないようにお着替えしますよ!」



 本当に疲れたよ。気力体力ともにごっそり剥ぎ取られたわ。やっと着替えて双子の元に行ってみると――


「カレン、また来たー」

「また来たー」

「ん? なんであんたたち、服をとりかえっこしているの? 青の服はナールで緑はニールのなんじゃないの?」


 あれ? なんかおかしいこと言ったかしら? 珍しく双子プリンスの動きが止まったわね。てっきり各々に好きな色があって、自身のカラーとして身につけていると思っていたんだけれど。


「なあんだ。ばれたかー」

「ばれたー」

「もう、あんまり大人をからかうんじゃないのよ? ちゃんと自分の服に着替えなさい」

「「はーい」」


 さあさあ、晩餐に入れば他のお客様もいるし、私の子守りも一段落ね。終わったらリリアナと少しだけお喋りして、今日のストレスを解消しよっと。




「カレン……。それは、完全におちょくられていますわね」

「あ、やっぱり?」


 呆れたように漆黒のドリルを震わせ、愚痴を聞いてくれるリリアナ。あいつらは他の来賓に挨拶しに行ったため、やっと今日の子守りから解放されたよ。私は様子を見に来てくれたリリアナとティーをして、双子のいたずら報告していたんだ。


「レジナルド様はどうお考えなのかしら?」

「う~ん。子どもだからとかじゃなく、そもそもああでしょ? 来賓の方々一律に深入りしないって感じかな?」

「アレですから、期待できませんわよねぇ」


 お姑のアリアンヌ様から聞かされていたから、本人なりに威圧しないための優しさで、人と関わらないようにしてるのは分かるけれど、わんぱく双子を押し付けられる感じになるのも困ったもんだわね。


「しかもあの双子、レジナルドの前だとただの可愛い子どもになるのよ」

「確信犯で、私のカレンだけを標的にしていると……。カレン……、このままではいけませんわ!」


 おっ、リリアナのドリルが黒光りしはじめたぞ。なんかのスイッチが入ったな?


「これから王妃となり、この国の世継ぎを生み育てる責務を負ったカレンが、クソガキに翻弄されっぱなしではよくありませんわ!」

「だ、だよね? クソガキに大人の偉大さを教えてやらないとよね!」

「なにより、私のカレンがクソガキに馬鹿にされていることが許せませんわ!」


 クソガキクソガキ言い過ぎだが、それくらいの被害を私は被っているんだよね! 私の怒りスイッチも入ったぞ!


「ねえ、リリアナ。私のお尻は大きい?」

「背丈を考えれば当然のサイズですわ!」

「ミミズや蛇は苦手でも良いよね?」

「淑女なら卒倒していましたわ!」


 ぐはっ。リリアナ、それは私が淑女でないと言っているようなもんだわよ。


「噴水に突き落とされたら激怒して追いかけるわよね?」

「ま、まあ普通の女性なら泣いて着替えに戻ると思いますけれど……」

「……」



 何はともあれ、こうして私とリリアナは、クソガ――可愛い双子の天使たちに、一泡も二泡も吹かせてやることに決めたのだった――

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