17 花嫁はつらいよ
第3章開始します
はっはー。――美杉 華怜――元日本人参上~!
とうとう三日後は、レジナルドとの結婚式ってやつよ! そりゃあ全身エステで、むくみゼロのお肌のハリはパアン。無駄毛のお手入れも完璧にして、万全の態勢で挑みたいところだけどね。
そう、なんてったってここは異世界よ!?
お肌に優しい安全五枚刃とかはないし、なによその囁いた感じの『プリティスパ』って!
「あっつー!」
「カレン様、少しだけ我慢してください。この方法なら、血行を良くしながら無駄毛のお手入れもできるのです」
お灸と無駄毛処理を一気にしているの!? ありがたいけれど、ちょっと燃やされてる感満載で無理!
「美は努力と我慢の上に成り立つもの! 参ります!」
「!!!!」
いつの世でも、お洒落は時に苦行の域に達するけれど、ピピッってやって永遠に無駄毛とサヨナラできる世界から来るとこんな脱毛恐怖でしかないわ。
「ゼイハア――ゼイハア――」
「お辛そうですね? では、こちらに致しましょうか?」
「な、もしや……、その液体は?」
完全に毛根をも抜き去るワックス系!?
「痛みは一瞬でございます!」
「いざ、参ります!」
「ひぎゃあああ」
レジナルド、ごめん……。私、これからはボウボウでいいかも……。
「大変でしたわね。でも、本当にツルツルのピカピカですわよ。気持ちいい~」
「ありがとう。リリアナにそう言って貰えるだけで、頑張った甲斐があったわよ」
「ホント、あの無表情には勿体ないですわ。ちゃんと褒めたりしてくれますの?」
私の腕に、頬擦りしながら感触を確かめているリリアナに癒される。
「う~ん。レジナルドなりに向き合う努力をしてくれているのは分かる……。関係自体はいたって良好とは思うんだけれど……」
一国の主だ。公務の忙しさも分かるし、その合間を縫って妃となる私との距離を縮めるため、会話する時間を変わらずに作ってくれることは嬉しい。お互いに好意を持っていることも感じるし、王太后のアリアンヌ様含め、家族ができるのも喜ばしいと感じている。
「でも、あまりにも怒涛の展開過ぎて、結婚前にもう少し二人の時間を過ごしたかったかなぁって思っちゃうのよ」
なんら不満も不安もないけれど、異世界に来てできた伴侶は王様だった。本音を言えば、もう少しだけでも普通の恋人気分を味わいたかったかな。
「カレン……。無愛想の気持ちは分かりませんが、私はカレンがこの世界に来てくれて嬉しい。急な展開に戸惑う友には申し訳ないのですが、私に初めて本当の友人を与えてくれた神に、毎日感謝で一杯なのですわ」
私も、日本なら政治の世界に足を突っ込んだばかりに、仮面を着けて生き続けるしかなかった。いきなり転移して来て色眼鏡で見られることもなく、こうして本音を言える友達が出来て幸せだ。
「リリアナ~」
二人でギュウギュウ抱きしめ合う。
「あ、そう言えば。リリアナは、コルセットを着けるのは止めたの?」
「カレンと一緒にいると、ありのままが一番素敵だと思えたのですわ」
だよねー。リリアナが私の世界の常識の良いところを自然に取り入れてくれるように、私もこの世界で家庭を持って生きていくんだし、変に気張らないでゆるりと行こう。うんうん。
「だらけた顔をしていますが、礼儀と節度は必要ですわよ?」
「だって、この髪型すごいんだもーん」
リリアナの漆黒のドリルを伸ばしたりクルクルしたり思う存分もてあそぶ。私たちがキャッキャウフフしていると――
「お前ら何してんだ?」
「あ、デグ太郎もおいでー」
「キュウ」
ギディオンがデグ太郎を連れてやって来た。
「んな、互いの毛を触り合って、何が面白いんだ?」
「あら、カレンは今日、無毛のスベスベのプリプリですわよ」
「毛って、あるかないかはゼロか百かがいいわね。デグ太郎くらいフワッフワなのも最高。ああ人間って中途半端ぁー」
こうしてリリアナのドリルを思う存分触って、デグ太郎のモフに体を埋めていると、充分幸せだと思えるわー。これでレジナルドともっと二人で過ごしたいなんて、贅沢過ぎるよね。ああ、このまま毛に囲まれて昼寝したーい。
「女の会話がわかんねえ……。って、お前を呼んで来いって、カボチャパンツに言われて来たんだった」
「そう言えば、今日は間もなくウーミワタール王国の方がいらっしゃいますのよね?」
「あ、忘れてた。先ず双子の王子様たちが来るらしいのよ。お出迎えしないと」
そう、私とレジナルドの結婚式のお祝いに、他国からご来賓の方々が続々ファンドブルグ王国入りしてるんだけれど――
「「レジナルド様、カレン様、この度はご結婚おめでとうございます!」」
「ああ。海を渡り、よく来てくれた」
「ありがとうございます。ナール様、ニール様」
すごい可愛い男の子の双子ちゃん。ウーミワタール王国の王子、ナール様とニール様。ふわふわした金髪にクリクリの碧眼で、ホントお人形さんみたい。
思わずカボチャパンツさんの方をジトっと見てしまう。
「オホン。カレン様、なにか問題でも?」
「い~え~。ホホホホ」
だってさ、カボチャパンツさんだと目に耐えられない白ニーハイだけど、この王子様たちのキュロット姿にだと、とっても可愛いんだよね。マジ天使。この双子なら、大人になってもプリンススタイルが似合うんだろうなー。
「あの、カレン様。どうかお城の中を案内していただけませんか?」
「実は僕たち、ファンドブルグ王国に来るのは初めてなのです」
「あ、私でよろしければご案内いたしますね」
どうせレジナルドは、必要以上に他国の方と関わらないんだろうしね。よしよし、子どもたち。カレンお姉さんに着いてきなさい。こう見えてお姉さん、意外と面倒見がいいのよ!
「さあ、参りましょうか!」
「「はーい」」
こうして私は双子の天使を引き連れて、城内をご案内することとなった――




