16 三大公爵家と隣国の皇位継承権
「叔母上!」
「うふふ。久しぶりね、ギディオン」
グルグルと縄で縛られ、ふてぶてしかったギディオンが、オロオロと狼狽しはじめたよ。
ちと、笑ってしまう。
「「パーデン公爵夫人」」
おおっ! この綺麗なマダムが、あのパーデン公爵の奥様だっていうの?
あのオヤジ、なに考えてんだろ。こんなに綺麗な隣国のお姫様を奥さんにしておいて、女にだらしがないだなんて、世の独身男性を敵に回すね。
「レジナルド様、この度は本当にお手数をおかけしました」
「かまわん」
出た。レジナルドの無愛想。
「カレン様、初めて御会いする場がこのようなことになってしまい、申し訳ございませんでした。しかし、カレン様のご協力で、すべてが上手くいきました。ありがとうございます」
どういうこと? 協力って、私なにかしたっけ?
いまいち、状況が掴めない。
公爵夫人の後ろには、簀巻きにされたパーデン公爵やら、予想より早く到着したメイソンさんまでいる。
ここまですべて、織り込み済みってわけね。
どうも、レジナルドとパーデン公爵夫人にしてやられた感じだわ。
私にメイソンさんを連れて来いって言われた人、そんなに体力使わずに済んでよかったけどさ。
「あの……、エミリア……」
「あら? どちら様かしら?」
「な、なっ」
パーデン公爵が嫁のエミリアさんにズリズリすり寄ろうとしたけれど、一喝された。
「貴方とは離縁します! この、ドスケベデブ野郎! 今まで女にいくら金をつぎ込んだのよ! パーデン公爵家は私が切り盛りして行きますから、二度と私の前に現れないで!」
「あわわわ。お、お金って、わしの金じゃないか……」
やめなって。火に油を注ぐだけだよ。
「だまらっしゃい! 公爵領のお金です! 貴方の私財ではない! さっさと失せろ、脂身!!」
いや、激怒されて当然だと思うよ。よく今まで我慢してきましたね、エミリア様。
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パーデン公爵は、リリアナの父ダイアンの力が削がれたのを機に、妻エミリアの祖国リンコーク帝国から後ろ盾をもらい、ファンドブルグ王国の筆頭公爵家になろうとした。
あわよくば、『神からのギフト』カレンと聖獣を手土産に帝国に取り入り、ファンドブルグ王国さえも手中に治めようなどと考えていたのだ。
しかし、そのことを知った皇太子ギディオンは、パーデン公爵の目論見を逆手に取り、早急に王国を視察させろと持ちかけた。
そして、ギディオンが自らの手で『神からのギフト』カレンと聖獣を、リンコーク帝国に持ち帰ろうと企てた。
カレンの婚姻前ならつけ入る隙があり、自分が伴侶になれば、皇太子の地位は不動のものになると思ったらしい。
それくらい、リンコーク帝国の皇位継承権を持つものは多く、ギディオンの皇太子の地位は危うかったのだが、本人の素行が悪く、馬鹿だったのでいたしかたない話だ。
常々妹の嫁ぎ先での境遇と、馬鹿息子に頭を痛めていたリンコーク帝国の皇帝は、レジナルドと妹エミリアにパーデン公爵とギディオンの動きを報告した。
ここから、レジナルドの悩ましい日々がはじまったのである――
******
「パーデン公爵夫人と計画し、ギディオンとパーデンを捕まえることにした。黙っていてすまなかった」
「そっか……」
なら、婚約者の私にくらいは、話してほしかったな……。
「カレン。説明せず、本当に悪かった。お前は素直過ぎて計画を話せなかった」
「ぐぬぬ」
グウの音もでないわね。計画を知っていたら、白々しい演技をしていただろうね。
「パーデン公爵家はエミリア殿が引き継ぐ。単純に、女性を政治に参加させたいというわけではない。エミリア殿もリリアナ嬢も、能力があったから決めたことだ」
「レジナルド……」
ファンドブルグ王国に、女性公爵が二人も誕生するんだ。すごいことよね。
私は同性だけれど、単純に女性の参画比率を上げればいいと思っていなかった。
ただ、有能な女性が埋もれているのはおかしいとは感じていた。
やっぱり、レジナルドって冷酷王じゃない。
本当の為政者だよ。素敵……。私も、レジナルドみたいな政治家になりたい。
「ああ、ギディオン。お前の皇位継承権がなくなったと、リンコーク帝国より連絡が来た。そこの宰相の息子に確認するといい」
偽ギディオンは、リンコーク帝国の宰相の息子さんだったんだ。色々お疲れ様だったね。
「ほ、本当か?」
「はい」
みんな、白い目でギディオンを見ている。
馬鹿皇太子に振り回されていただけだったから、護衛の人もやる気がなかったんだ。
お陰で柔道技を、思いっ切りかけられたけどね。
「馬鹿なことをしましたね、ギディオン。兄上から、貴方を煮るなり焼くなり好きにしていいと言われましたので、レジナルド様とカレン様と貴方の処分を決めます」
「叔母上……」
こうして、ギディオンは皇位継承権を失い、パーデン公爵は離縁され、爵位を失った。
偽ギディオンたちは、肩の荷を下ろしたようにホッとしながら帝国に帰ったよ。
お父さんの宰相さんと皇帝陛下に、ことの顛末を報告するんだって。
きっと、そのうちまた会えるだろう。
だって、ファンドブルグ王の結婚式が、ひと月半後にあるんだもん。
本当、結婚前の大事な時期に、無駄な騒ぎだったわ~。
「カレン。この二週間、本当に辛かった」
「どうしたの?」
なんでそんな切ない顔をしているの?
「カレンと想いを確かめ合う大事な時期に、離れる時間が多過ぎだった」
「そっか……。私も、レジナルドと話せる機会が減って、寂しかったよ。でも、会えない時間が増えたから、意外とレジナルドのことを好きになっていたって、気づけたんだよ」
やだ、私のそんなに素直じゃない言葉で、レジナルドのグレイの瞳がキラキラ揺れている……。
「カレン……。もっとカレンのことが知りたい……」
「レジナルド……、私も……」
綺麗な顔でそんなに見つめられると……。
もしかすると、このまま私たちのファースト……
「カレンー! デグ太郎のブラッシング終わったぞー!」
「ギディオン……」
「アイツ……。やはり殺っておくべきだったか」
皇位継承権を失ったギディオンは、叔母のエミリア・パーデン公爵所有となったタウンハウスから、デグ太郎の世話係りとして王城に出仕している。
「なんだ、お前らいい雰囲気だったのか?」
「「……」」
「そんな朴念仁より、俺の方が色々知ってていいぞ、カレン。今からでも遅くないし、帝国に行くか?」
止めてくれ……。レジナルドが切れる……。あ。
――ドゴオオオォーン――
――ファンドブルグ王国の王城は、最強の結界が張られているので有名な城になろうとしていた。その理由は、せっかく甘さが増してきた王と、王への気持ちを自覚してきた婚約者に、隣国からの居候が横槍を入れるから……らしい――
第2章も読んでくださり、ありがとうございました。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。




