12 動き出す黒幕
しばらくの間は近場の視察先から行っていたけれど、明日は少し遠出をすることになったよ。
早起きしなきゃだから、早めに休んだ方がいいかな。
あ、ここ最近、ツンツン増し増しのレジナルド様だ。
「カレン、視察は順調そうだな。ゆっくり休め」
「……はい」
聞いた? このツン具合……。
レジナルド様がこんなんだから、私は不満が溜まっているんだ。
この二週間、朝から晩までずっと接待だから、レジナルド様と二人で話す機会がない。
え? せっかく今夜は会えたんだから、ゆっくり話せば? って?
無理だよ~。バッサリ犬に言うように、『休め』ってザックリ切られたし。
結婚前の男女が、護衛がうろうろしている城内で二人切りになったら、絶対噂話で無いこと無いこと盛り上がるもの。
悲しいかな、その辺は政治一家だったサガかもね。
男女の交際、『清く正しく美しく』
そう思って身を正していても、面白可笑しく盛られて噂されるんだ。
高校生の頃、同級生の男子と二人で帰って来たからって、将来の結婚相手だって近所中で騒がれたものね……。
『どこの子だ? あれが親父さんの後を継いで、議員になるのか?』だなんてさ……。
せっかくいい雰囲気だったのに、それで相手の子はドン引きよ。
相手にも悪いし、私の警戒防壁はどこまでも高くそびえ立ったわよ。
大人になってから付き合った人には、選挙の時に振られたしね……。
あーあ、こんなんだから今まで結婚もできず、一人寂しく生きてきたのかしら。
自分だけなら、どんなにボロクソに言われてもいいんだけれど、他の人を巻き込んで言われるのは辛いんだ……。
私の鋼のメンタルは、私に対してしか機能しない……。
「まずい……。思考がよくない方向に向かっている」
よし、こんな時には体を動かしますか!
安全な城内だし、不気味な夜の古城を散歩でもしますかね!
私は城内を散歩して体を動かし、スッキリしてから眠ることにした――
ブンブン手を振り大股で歩く。
時々出くわす見張りの護衛さんたちが、ギョっと化け物をみたような顔つきをするけれど、私だと分かると敬礼してくれる。
もはやこの城で私を化け物や珍獣扱いすれば、女性使用人の皆さまから大ブーイングをくらうことを、彼らは知っているのだ。
私の服装に嫌味を言ってくるカボチャパンツさんは、自分の評判がダダ下がっていることに、未だ気づいていない。キヒヒ。
ああ、身長一六五㎝で宝塚の男役の方の気持ちを味わえるなんて、やっぱり異世界っていいかも!
やばい妄想が膨らみはじめたよ! 華組の特別公演でもしちゃう?
ここは私だけの舞台。ガチの城セットの中で、私は歌い踊るのだ!
時に見えない娘役をエスコートしながら低音ボイスで甘く歌い、時に見えない娘役に跪いて愛を囁く。
「ら~らぁ~♪君ぃ、忘れたもうことなかれぇ~♪僕の愛を~♪」
あ、今度リリアナを娘役にして、宝塚ごっこをしてみようっと!
「ふたぁ~りぃの愛を~♪」
意気揚々と歌い踊りながら一人宝塚をしていると、角で人とぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
「……いえ」
あ、赤髪三白眼のギディオン様の護衛の人だ。
おお、私のソロステージを聴いていたのに顔色一つ変えないなんて、さすが護衛のプロね。
どんなにアホだと思っても、他国の王の婚約者を笑ったりできないもんね~。
「こんな、時間までお疲れ様です」
長期滞在だから少数で来たと言っていたし、護衛の人って色々大変だよね。
「いえ」
なんだ、貴方もレジナルド様系?
これから無表情や無口の代名詞は、レジナルド様にするか?
「明日も早いですね。ゆっくり休んでくださいね」
さ、私も一人宝塚でスッキリ眠れそうだし、部屋に戻るとするか。
「少しお待ち下さい。明日、聖獣殿はご一緒でしょうか?」
ん? あの子?
聖獣だっていうあの子は、『デグ太郎』と名づけたよ。
「さすがに大き過ぎますし、明日も留守番ですよ?」
「左様ですか。足止めをし、申し訳ございませんでした。お休みなさいませ」
「はい、お休みなさい」
すくすく成長してくれているのはいいが、うちのタッタタ『デグ太郎』はでっか過ぎるんだよね~。
レジナルド様にも『お前は無理だ』と同行を止められ、ショボンとしていたもの。
『あぁ~けぇ~てぇ~』
って、デグ太郎に与えられた部屋の扉を、私の気配がするとカリカリするもんだから、木製の扉が傷だらけになって、少し前、新しい物に変えたばかりだよ。
かわいいし、ずっと一緒にいてあげたいけれど、こちらも仕事はしなくちゃいけないしね。
今までずっとデグ太郎は留守番だったのに、三白眼さんはなんで急に聞いてきたのかな?
ま、いっか。
「ふあ~あ、寝よ寝よ」
私は気づいていなかった。この時、私の背後に鋭い視線が浴びせられていたこと、そして、着々と知らないところで、多くの思惑が交差していることを――




