現代 vs 青木
俺たちは模擬戦のフィールドに戻ってきた。
そこには腕を組んで師匠が待ち構えていた。
「私から一本取る良い作戦を計画できたかな?楽しみにしてるよ」
爽やかに師匠はわらっている
「師匠。あなたに俺の成長を見せます!」
「青木隊長。あなたには私達の踏み台になってもらいます!」
…なんて高い踏み台なんだ。
思わず笑ってしまうが、彼女の自信ありげな姿を見るととても安心する。
「では始めようか。私を殺す気でくるがいい」
「試合開始!」
俺たちは構える
俺は中距離、可憐はさらに後方の遠距離位置だ。
先に動いたのは可憐だ。
水属性の圧縮された水弾を師匠に向けて撃ち込む。
俺もそれに合わせて弾丸を撃ち込むが、師匠は必要最小限の動きでそれを回避する。
大きな動きをすれば俺の能力で師匠といえども体勢を崩せるがそんな隙はもちろん与えてくれはしない。
師匠は回避しながら俺に向けて引き金を引く
雷属性の魔弾が俺に迫る
俺はそれにすかさず無属性の魔弾を放つ
2つの魔弾が相殺される
無属性の魔弾は魔力を吹き飛ばす効果がある。
人体に当たった場合も同様に吹き飛ばす効果があるが、他の属性の魔弾と比較してもそこまで威力は高くない。
だが質量を持たない魔法攻撃が弱点である俺にとっては非常に使い勝手の良い魔弾だ、しかも魔力の燃費もいい。
俺は左手にも銃を構え師匠に撃ち込むが師匠は容易く避ける
可憐も遠距離から水属性の魔弾を撃ち込み続けるが全く師匠には当たらない
気付けば師匠の周囲は水浸しになっている。
「お前に本当の魔弾というものを教えてやろう」
師匠は俺の方を見てニヤリと笑いながら言った。
銃口に雷属性の魔力が集まっているのが分かる。
「魔弾は込める魔力量によって威力が変わる。更に魔力の形を変えることで性質も変わる。覚えておくといい」
そう言いながらゆっくり俺に銃口を向け引き金を引いた。
それはもはや弾丸ではなかった。
それは雷鳴。
反応することもできずに俺は撃ち抜かれ吹き飛んだ。
かろうじて意識は残っているが身体の自由が利かない
HPも半分以上削られている。
追撃は来ない
可憐は俺を何も言わずに見ている。
俺は立ち上がり体勢を立て直す。
「まだまだ...勝負はこれからですよ...師匠」
「見せてもらおうかお前たちの力を」
俺は両手の銃を乱射するクロスブレイクだ。
乱射された弾丸に向かい師匠は重力属性の魔弾を撃ち込む
魔弾は俺の弾丸全て押しつぶす。
同時に可憐は師匠に向けて雷属性の魔弾を撃ち込んでいた。
俺もそれに合わせ弾丸をまた撃ち込む。
魔弾を撃ったばかりの師匠は可憐の魔弾を避けるしかない。
だが周囲は先ほどの水属性の魔弾によって水浸しになっている
もし距離を大きくとれば俺の能力の使用条件が揃う。
これが俺と可憐の作戦だ。
師匠はニヤッと笑い地面を踏みつけた。
瞬間水浸しだった辺り一面が凍結し氷塊ができる。
凄まじい魔力制御技術だ。
水が凍結してしまえば感電することはない。
師匠はまたしても可憐の魔弾を避けた。
だが。
可憐の魔弾が師匠の背後で急に炸裂した。
直撃はしなかった。
しかし爆風が生まれた。
師匠が凍結させた周囲の氷塊を破砕し吹き飛ばす。
師匠の背後から氷のつぶてが押し寄せる。
通常の雷属性の魔弾は対象を痺れさせたり感電させる効果を持たせるのだが。
今回の魔弾は単純に爆発力に特化させた雷属性の魔弾だったのだ。
放たれた魔弾の大半は接触して初めて効果が現れる
時間差で炸裂するなんて本来ではありえないのだ。
師匠は一瞬驚いた表情をしていたがすぐに元の表情に戻る
振り向きざまに氷のつぶてを回避していく
流石は師匠だけど。
俺は師匠が避けたつぶてに能力を発動した
つぶてが再び回帰し師匠を襲う。
ついに師匠の頬に一筋の切り傷をつけることができた。
ニヤリと師匠は笑って
「合格だ」
そう言った。
「見事な連携だった。あの雷の魔弾を炸裂させたのはナカノの弾丸だったんだな。しかも私が凍結させた氷塊まで攻撃手段にまで組み入れるとは。能力でも完全に回避することは無理だったよ」
「隊長ほどの方が、あの状況で雷属性の魔弾に対して警戒しないわけがありませんからね。誘導させていただきました」
可憐がこちらに歩いてきながら師匠に言った。
「一本というにはお粗末なダメージだったけどな」
思わずにやけてしまう。
「大したものだよ本当に」
嬉しそうに師匠は微笑んだ
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署内の広い講堂に移動する。
周囲には武装警官幹部と師匠。
そして俺と可憐だけである。
師匠が前に立ち俺たちに向かって話す。
「ナカノ。神藤。君たち二人は今期の武装警官試験を合格とする。そして君たちは私の部隊SAT。通称特殊強襲部隊に配属を命ずる。それぞれ階級は少尉だ。今後私のことは隊長と呼ぶように」
「「イエス、サー!!」
俺たちは敬礼し了解を伝えた。
「楽にしてくれてかまわない。これからお前たち二人に重要な話をする」
なんだろういったい。
「私のステータスを見ろ」
そういわれ見てみる。
青木 LV88 ジョブSAT隊長
体力 B
気力 B
攻撃 C
防御 C
魔力 B
素早さB+
「隊長。特に何も変わりないと思いますが」
「私にも事前にナカノから聞いていたステータスと変わりなく見えます」
「他者のステータスとはこの世界のシステムにおいて客観的数値に過ぎないと知れ。本当の強者は自身を弱く見せることもできるのだ。もう一度見てみろ」
青木 LV232 ジョブSAT隊長
体力 A+
気力 A
攻撃 A+
防御 B+
魔力 A+
素早さ AA+
アビリティ
体感時間操作 ランクA+
暗殺 ランクB+
強襲 ランクC+
魔弾の射手 ランクA
「これは...桁が違う。どうしたらこんなステータスに」
「全然気づけませんでした」
「まあ気づけないのは無理もない。普通に生きていればLV100の人間なんて見ることもないんだ。上限は100そう思い込むだろう。それが一般人の常識だ」
「だが存亡がかかったこの世界の真実は違う。それを知っておくんだ」
隊長が冷たい声で言う。
「俺たちも強くなれますか」
もっと強くなりたい。
「ああ、なれるさ。強くなる方法は簡単だ。殺すことだ人間を。」
「人間を殺す...」
可憐が呟く。
「俺たちSATはこの世界の治安の為に犯罪者を裁くそれは表の目的だ。真の目的それはこの世界を守る剣であり盾だ。異世界からの侵略者を殺し、時には私たちが異世界へ赴き奴らを殺す」
「隊長はそれが正しいと思っているんですか?」
俺は思わず聞いた。
「分からない。私は私にできるやり方で守るべきものを守るだけだ」
「俺にもどうするのが正しいのか今はわかりません。だけど正しい選択をする為にもきっと力は必要になるんでしょうね。だから俺は隊長に付いていきますよ。とりあえず今は」
「そうか。神藤はどうする?降りるなら今のうちだぞ」
「...私の両親はSATに所属していました。しかし、私が高校生の時、両親は帰らぬ人となりました。事件に巻き込まれたとか。私が見た限りではLv70くらいでしたが。ホントはもっと強かったのかもしれません」
「そうか君は...」
隊長は可憐のご両親を知っているのだろうか。
「私の両親はこの世界の為に死んで。この世界に殺されたんですね。...両親を殺した、この世界は許せませんが、両親が護ろうとしたもの、私は知りたい」
覚悟を決めた眼だった。
「では改めてようこそ。我々武装警察。SATは君たち二人を歓迎する」
こうして俺たちは世界の戦いに足を踏み入れたのだった。